ベテランの運転者は、運転操作に慣れているだけに、事故が少ないと思われがちですが、果たしてそうでしょうか?
運転している車やフォークリフトなどの機械に慣れてくると、「効率的にいこう」という先急ぎの心理が生まれ、見込み操作や無意識の連続操作を生み出しやく、安全確認が甘いままに車や作業機械を動かし、事故を起こすことがあります。
こうした、ベテラン運転者の「慣れ」からくる先急ぎ心理に気づいているでしょうか?
ある大手運送会社・T物流では、倉庫作業における汚破損事故がなかなか減少しないので、フォークリフトにドライブレコーダーを取り付けて、事故の記録を分析しました。
すると、破損事故のパターンの一つとして、作業中の安全確認の省略や必要以上に速い連続操作が多いことが見られ、その背後には「急ぎの心理」がはたらいていることがわかりました。
事故の一つを記録したドライブレコーダーの映像がありますので、動画を見て、オペレータの心理を考えてみましょう。
ドライブレコーダーが撮影した映像の左側はフォークリフトの荷物画像で、右側はオペレーターの操作や頭の動きなども映っています。
映像を見て、なぜこのオペレータが製品の破損事故を起こしたかわかりますか?
実は、この人はベテランで作業のスピードも速いことが自慢なのですが、2本爪のフォークリフトの片側にパレットを積んで、荷降ろし場所に運んだ時、フォークリフトのスタビライザー(上から荷を押さえるアタッチメントの板)を上げながら、すでに次の貨物の方を見ています。
意識は「次の作業をどうしようか」という方に向いていたのです。
そして荷物から爪を引いたつもりになりながら、次のピッキングのためにフォークリフトの車体をバックで旋回させたため、まだ爪の上に乗っていて押さえがなくなった荷物が転倒し、床の上に散乱しました。
※こちらも参照 → 「これくらいなら」と安全の基本がおざなりに
運転作業に慣れたベテランは、つい次の作業に気持ちがいって、早い操作をしてしまいがちです。
慣れて上達したのだから、少しでも早く作業をしたいと思うのは人間の心理としては当然のことですが、そこに落とし穴があることに気づく必要があります。
この事故の映像を踏まえて行われた指導は、
「次の作業の前に、必ず一度停止する」
ことの徹底です。
流れるような連続動作をしないで、一つひとつ止まって確認をすれば、まだ爪の先に荷物が残っている事実などに気づくことができるからです。
路線バスなどの運転者の場合でも、ベテランドライバーが慣れのため、危険な連続動作をする例が見られます。
典型的なパターンは、バスの乗降ドアを締めながら、同時に次の発進操作に入ってしまうようなケースです。
乗客が降りかけて、地面に足がつくかつかないかのタイミングで、運転者の気持ちはすでにバス停からの発進に移っています。
何千回と繰り返しているので発進操作は流れるようにスムースですが、乗降ドアから目が離れてしまい、右側方の安全確認が始まり、チヤンスがあれば即発進してしまいます。
しかし、高齢者など降りるのに時間のかかる人は、ステップから降りきっていないで足が残っていたり、身体の安定を保とうとドアの取手を握っていることがあります。
運転者はすでに乗客は降ろしたつもりになっていますが、ドアを締め発進を始めたときに高齢者が路上で転倒したり、高齢者がドアに手を挟まれるといった事故が発生します。
路線バスに限らず、どのような運転者でも、発進を急ぐときにはミラーの死角に入っていた自転車の見落としなどが多く発生します。運転者は先急ぎ心理を警戒しましょう。
発進を急ぐときは、運行時間が予定より遅れていたり、道路が混んでいるなどの理由があることも少なくないのですが、一方で、ベテラン運転者の「慣れ」「習慣」から、動作優先になってしまうという傾向もあります。
慣れからくる先急ぎに、今一度注意させましょう。