さる2月25日に発生した梅田繁華街での乗用車暴走による死傷事故は、運転者の急性大動脈解離という病気の発作が原因であることがわかりました(2名死亡/1名重体/8名が重軽傷)。一般ドライバーの事故ですが、プロドライバーにとって関係のない話ではありません。
警察庁の統計では、平成26年の1年間に発生した交通事故57万3,842件のうち、運転者の急病・発作が原因とされているものは209件にすぎませんので、0.036%という極めて低い率です。
しかし、国土交通省の事業用自動車の重大事故分析(※)では、平成25年中の重大事故(乗務員に起因するもの)2,011件のうち、健康起因による交通事故が135件、構成率は6.7%となっていますので、決して無視できる割合ではないことがわかります。
さらに、交通事故の予防医学を専門的に研究している一杉正仁滋賀医科大学教授(法医学)によると、日本の警察が公表する事故統計には現れていないものの、交通死亡事故の10件に1件は運転者の疾病や体調不良が関係している可能性があるということです。
北欧などでの交通事故に対する分析では、死亡事故は必ず医学面での検討が行われ、約1割に何らかの運転者の体調変容が確認されるというデータがあります。
※自動車運送事業用自動車事故統計年報(平成25年/平成27年3月公表)
国土交通省の重大事故の分析(平成25年中)では、135件の健康起因事故で運転者35人が死亡しています。
その原因として脳血管疾患、心臓疾患によるものが多数を占めています。
また、運転者の死亡例では1人で運転するトラックドライバーの死亡率が高いのが特徴的です。
バスやタクシードライバーであっても、同乗者がいないときや、深夜などで乗客が寝静まったときに無理をして脳や心臓などの発作が起こると死亡する危険が高まります。高血圧症や心臓病の既往のある人は、とくに注意してください。
また、腹痛や下痢など消化器の不調を我慢して運転していて気を失う事故もありますので、普段は健康な人でも運転中の体調不良を軽視しないようにしてください。
なお、国土交通省の統計では。健康起因事故を起こした運転者の年齢層分布についても調べています(下の表を参照)。
これを見ると、高齢ドライバーの多いタクシー・ハイヤーに関しては、年齢の高い層ほど運転中の健康起因事故の人数が多いのですが、バスやトラックの場合は、決して年齢が若いから安全とは言えないことがわかります。
乗合バスで最も事故の多い年齢層は35歳~39歳、貸切バスでは45歳~49歳となっています。
また、トラックでも、トップは50歳台前半ですが、2番めに多いのは35歳~39歳です。
ちなみに、全国の健康保険協会の統計によると、もっとも突然死の多い年代は40歳代(全労働者)ということで、働き盛りの健康管理がどのような仕事においても重要だということです。
運転はとくに血圧や心臓などに対するストレスが高いといわれ、運転業務に携わる皆さんの健康管理は非常に重要です。
他の交通参加者や乗客・乗務員の生命を守るために、運行管理者の皆さんはドライバーの健康管理に配慮し指導に努めてください。
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