得意先でのセクハラは会社の責任?

弊社の従業員が得意先の女性に言い寄ったとして、取引先からクレームが来ました。会社としては丁寧にお詫びしたのですが、取引停止になりました。さらに相手の女性が「あのような行為をする従業員がいるのは会社が教育をしていないからだ!」として、弊社にも法的措置を検討しているとのことです。このように従業員が得意先の女性に行ったセクハラにおいて、会社はどこまで責任を負うのでしょうか?またセクハラに対してどこまで教育しておくべきなのでしょうか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆セクシュアル・ハラスメントと事業主の義務

1・セクシュアル・ハラスメントとは

 セクシュアル・ハラスメントの定義は多義的なものといえますが、法律の定めとしては、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(いわゆる男女雇用機会均等法)第11条1項において、

 

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により、当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」

 

とされています。

 

 すなわち、同法上にいうセクシュアル・ハラスメントとは、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応によって、賃金、労働時間、地位、勤務内容等に不利益を受けることや、性的な言動により労働者の就業環境が害されること(嫌がらせを受けるなど)をいうとされます。

 

 なお、後に述べる厚生労働省の指針によれば、前者を「対価型セクシュアル・ハラスメント」、後者を「環境型セクシュアル・ハラスメント」といいます。

 

 セクシュアル・ハラスメントは、従来は男性から女性に対するものが想定されており、現在でもその類型が多いと思われますが、女性から男性に対する行為はもちろん、同性に対するものであっても、同項にあたる不当な扱いは許されないことになります。

 

 また、「職場」は必ずしも自社の通常業務の場に限らず、取引先の会社や、打合せで入った飲食店、顧客の自宅などにも及びます。そして事業主は、その義務として、被害を受けた労働者の相談に応じ、体制の整備や雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

2・事業主の義務

 同法同条2項は、「厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする」と規定しており、厚生労働省は、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上高ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)を定めています。

 

そして会社は、同指針に従った措置を採るべきことになります。同指針に基づく事業主の義務の概要は以下のとおりです。

 

  1. 事業主は職場におけるセクシュアル・ハラスメントに関する方針を明確化し、労働者に対してその方針を周知・啓発すること。
  2. 相談(苦情も含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(窓口を定める、担当者の適切な対応など)をすること。
  3. 職場におけるセクシュアル・ハラスメントに係る相談の申出があった場合の迅速かつ適切な対処(事実関係の迅速かつ正確な確認、適正な対処、加害者被害者双方に対する適正な措置、再発防止措置)をすること。
  4. その他、プライバシーへの配慮、相談したことによる不利益な取り扱いの禁止など

◆会社の責任

1・行政上の責任

 事業主が、上記の措置を講じない場合には、厚生労働大臣は報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされています(同法29条)。勧告に従わなかった場合には、その旨を公表することができるとされていますので(同法30条)、勧告に従わなかった会社は不利益を受けることになります。

 

 また、労働者と事業主との間で職場のセクシュアル・ハラスメントに関する紛争が生じた場合には、労働者は都道府県労働局長により当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることによる紛争解決の援助(17条)が規定されており、また紛争調整委員会による調停(18条)を受けることもできるとされています。

2・損害賠償責任

 セクシュアル・ハラスメントがあり、被害を受けた者の人格権ないし人格的利益が侵害されたと認められる場合には、上記の行政的な責任とは別に、民法上の不法行為が成立することになります。

 

 この場合被害者は、当該セクシュアル・ハラスメントを行った加害者に対して損害賠償請求ができます。そして、その加害者の雇用主である会社に対しても、使用者責任や、職場の環境を配慮すべき義務の違反があるとして債務不履行責任を追及することになります。

 

 ただし、セクシュアル・ハラスメントがあれば全ての場合に必ず損害を賠償しなければならないわけではなく、不法行為が成立する程度の違法性がなければなりません。

 

 その判断基準には種々の要素があり、具体的事例毎に検討することになります。判例にはその行為の態様、行為者の職務上の地位、年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行なわれた場所、その言動の反復・継続性、被害者の対応等を総合的にみて、それらが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるとするもの(名古屋高裁金沢支部平成8年10月30日判決)がありますが、これも具体的事例における判断です。

 

 また昨今では、同判例が出された当時に比べ、セクシュアル・ハラスメント防止に関する意識も高まり、さらに厳しい基準で検討されていると考えられます。

◆質問の事例の場合

1・事業の執行について行われていれば、会社は使用者責任を負う

 質問の事例について、当社をA社、A社の従業員を甲、取引先をB社、女性を乙とします。

 

 上記の男女雇用機会均等法上の会社の義務は、基本的に従業員に対してということになるので、本件では、A社の対応としては、事実確認をして甲に対して指導等をすることになり、B社も事実確認をして、A社に対して再発を防止するよう申し入れたり、被害に遭った乙の職場環境などに配慮すべき点がないかを検討したりすることになります。

 

 もちろん、気に入った異性に声をかけたというだけで全てがセクシュアル・ハラスメントとされるわけではないので、甲の行為の内容や、乙が甲から被った被害がどのようなものかという事実確認は慎重にしなければなりませんが、甲の行為が違法といえる程度の悪質なものであった場合には、乙は、甲に対して不法行為責任を請求できます。

 

 また、甲の行為が、A社の事業の執行について行われたといえる場合には、乙はA社に対しても使用者責任を追及して損害賠償請求できます。

 

 よって、甲の行為が違法といえる場合、甲は乙に対して損害賠償責任を負いますし、また、A社も相当の注意をしていたなどの事由がない限り、使用者責任を負います。同判断においてA社が免責されるためには、A社が上記の厚生労働省の指針を遵守し、甲にも指導をしていた事実は最低限必要です(ただし、それだけで直ちに免責されるわけではありません。)。

 

 以上のとおりですので、会社はどこまで責任を負うのか、という問いの回答としては、甲の行為が事業の執行にあたって行われたのであれば、それによって生じた損害全ての責任を負うと考えるべきということになります。

2・指針を順守し従業員に周知徹底しておくことが必要

 セクシュアル・ハラスメントに対してどこまで教育しておくべきか、という点についての回答は、少なくとも上記の厚生労働省の指針を遵守することは絶対に必要であり、従業員の教育については、定期的にセクシャル・ハラスメントの事例などを交えながら教育を行い、会社としての方針を周知徹底しておくことが大切です。

 

 以上の点については、会社に責任が生じるか否かという前に、個々人を尊重すること、また居心地の良い職場環境を作るために必要なことですので、会社は十分な対応を検討しておくべきでしょう。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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