■軽井沢スキーバス事故対策検討委が最終報告をとりまとめ
平成28年1月15日に発生したスキーバス転落事故を踏まえて貸切バスの事故対策を話し合っていた「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」が、平成28年6月3日に最終とりまとめを行い、報告書を公表しました(「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」)。
安全運行の現場責任者として、運行管理者(旅客)の態勢と責任が強化されるほか、新たに中間点呼の実施義務なども盛り込まれています。
運転者に対しては、技量チェックの強化として全ての初任運転者の適性診断を義務付けるほか、初任運転者実技訓練などの実施も義務づけます。
さらに、迅速な監査と行政処分の拡大や貸切バスに関する事業許可の更新制を導入することなどによりルール違反をする事業者の是正と排除を強調しています。
【国土交通省の基本的考え方】
(1) 国は貸切バスの安全運行に関する遵守事項を強化し、その徹底を図る
(2) 国は貸切バス事業者のルール違反を早期に是正させるとともに、不適格者を排除する
(3) バス事業者、旅行業者は安全確保を最優先に据え、両業界等は協力・連携してルール遵守
の環境整備を推進する
対策項目 | 具体的な内容 |
●運行管理者は試験合格者に限る | 現行では運行管理者の資格要件には「5年以上の実務経験も可」となっていますが、これを運行管理者試験合格者に限定します。 |
→ 【11月15日に運輸規則を改正、平成28年12月1日施行】 | |
●最低2人以上を選任 |
車両数にかかわらず運行管理者は最低2人以上の選任を義務化します。 さらに、現行では30両ごとに1人とされている営業所の運行管理者の必要選任数は20両ごとに1人に引き上げられます(ただし、100両以上分に関しては30両ごとに1人)。 |
→ 【11月15日に運輸規則を改正、平成29年12月に施行】 |
|
●運行管理者の業務として強化される項目 |
|
→ 【11月17日に指導監督指針を改正、平成28年12月に施行】 |
|
●運行管理者試験の増回 | 運行管理者の選任必要数が増えることなどに関連して、運行管理者資格試験の増回に向けて調整が行われます。 |
→ 【平成28年中に実施予定】 |
【運行管理者選任数の例】
貸切バス保有数 39両までの営業所 ・最低2人以上
〃 40両以上の営業所 ・20両ごとに1人増員
〃 100両以上の営業所 ・30両ごとに1人増員。
対策項目 | 具体的な内容 |
●運行管理者の資格返納処分の対象拡大 | 貸切バス事業者が甚大な人身事故を起こし、「事業許可取消」処分を受けるような場合で、運行管理に係る悪質な法令違反が認められる場合は、営業所の全運行管理者に対して運行管理者資格者証の返納が命じられるようになります。 |
【平成28年6月30日に通達を改正、7月1日から施行】 |
|
●「補助者」としての業務従事を禁止 |
運行管理者資格者証の返納命令を受けた者は欠格期間中、運行管理者の補助者としてもバス事業の運行管理業務に従事できないようになります(貸切バス事業者に限らず、すべての旅客自動車運送事業に適用)。 |
【平成28年8月に旅客自動車運送事業運輸規則を改正、11月1日から施行】 |
|
●欠格期間を延長し、再取得も厳格化 | 返納命令を受けた運行管理者の欠格期間が現行の2年から5年程度に延長されます。また、再取得要件を厳格化して実務経験のみでの再取得を廃止し、試験合格者に限ることにします。 |
→ 【平成28年臨時国会で道路運送法を改正し、平成28年度中に実施予定】 |
貸切バス事業者に対する規制も非常に厳しくなります。
行政処分の基準や運用を厳くして不適切な事業者の排除を急ぐことはもちろん、事業者が安全に事業を遂行する能力があるかを一定期間ごとにチェックするため、既存事業者を含めて事業許可の更新制を導入します。
また、監査時の運行禁止指示や、行政処分以外の事業者への罰則強化=法人重科の規定創設=などが導入されます。
さらに、事業許可取消後の再参入についても、ハードルを高めることになります。
対策項目 | 具体的な内容 |
●事業取消処分の範囲拡大 |
貸切バス事業者に勤務する運転者が甚大な人身被害をもたらす事故を起こした場合であって、事業者に悪質な違反がある場合は、累積点数に関わらず事業許可の取消処分を行うことができるようになります。 |
【平成28年6月30日に通達を改正、7月1日から施行】 |
|
●監査における指摘事項を早期に改善させる |
街頭監査、一般監査の実効性を高めるため、違反事項の早期是正と処分の厳格化が図られます。街頭監査ですぐに改善できないとされた場合はその場で運行を中止させたり、一般監査でも必要に応じて運行中止などで安全の担保が図られ、速やかな特別監査も実施されます。 |
【平成28年11月18日に通達を改正、12月1日から施行】 |
|
●事業者への処分強化 | 輸送の安全にかかわる違反の処分定量を引き上げるとともに、行政処分により使用を停止する車両台数についても引き上げられます。 |
【平成28年11月18日に通達を改正、12月1日から施行】 | |
●事業許可の更新制を導入 |
既存のバス事業者を含めて貸切バス事業を一定期間ごとにチェックする事業許可の更新制を導入し、安全に事業を遂行できる能力がないとされると事業を更新できなくなります。 原則5年更新、無事故・無違反を続ける優良事業者は7年で調整中。 |
→ 【平成28年の臨時国会で法改正の予定】 |
●法人の罰則重科(100万円以下 → 1億円以下)
罰則面では、現行の道路運送法における「輸送の安全確保命令への違反」は違反行為者に対して「100万円以下の罰金」、法人に対しても同じ罰則となっています。
しかし、航空法や鉄道事業法では罰則が「1年以下の懲役又は150万円以下の罰金」、法人への罰則は「1億円以下の罰金刑」となっていることから、法人重科の規定を創設して、事業者の罰則額を現行の100倍に引き上げる予定です。
●経営者・運行管理者の懲役刑も新設
また、経営者、運行管理者に対する輸送の安全命令違反の罰則も、現行の「100万円以下の罰金」から「1年以内の懲役または150万円以下の罰金」に強化する予定です。
→ 【平成28年の臨時国会で法改正の予定】
●初任運転者への適性診断などを義務化
貸切バスでは新たに雇い入れた運転者への適性診断がすべて義務化されます。
改正前は、過去3年間に適性診断(初任)を受けていれば雇用時に受診する義務はないとされていましたが、改正されます。
また、過去3年間に同じ種類のバス運転者であった場合は、初任運転者教育をする義務はないとされていましたが、これも改正され、運転特性に応じたきめ細かい指導・監督の義務が発生します。
→ 【平成28年8月31日に告示を改正し12月1日から施行】
●運転者の経験、経歴の把握
新たに雇い入れた運転者について、事業者は経歴と運転経験(車種ごと)を申告させ、その内容を運転者台帳に記入する義務があります。
改正前は、旅客自動車運送事業運輸規則37条に経歴・経験に関する記述はありませんでした。
→ 【平成28年8月31日に運輸規則を改正し11月1日から施行】
●特定運転者の実技訓練義務化
新たに雇い入れた運転者、事故を惹起した運転者の指導・監督において20時間の実技訓練が義務づけられます。
また、新たに雇いれた運転者等ではなくても、直近1年間に乗務していなかった車種区分のバスを運転させる場合は、初任運転者と同様の指導・監督と実技訓練が義務づけられます。
→ 【11月17日に指針を改正、平成29年12月に施行】
※国土交通省の発表資料──貸切バス「総合対策」の概要
単行本「バス運行管理者のための指導・監督ツール」は、貸切・乗合バスドライバーに対する「指導・監督の指針」に沿った教育が効果的に実施できる資料です。
2018年6月1日に改正された最新の指針に基づき、全13項目に対してそれぞれ、管理者がドライバーミーティングなどを行う際に利用できる「管理者用資料」1枚と、バスドライバーとして踏まえておきたい知識をイラストと3つのキーワードでわかりやすく解説した「運転者用資料」3枚の計52枚で構成しています。
単行本「バス事業者のための点呼ツール」は、点呼の実施方法から実際に点呼をする際に役立つ「安全指導場面」を30場面収録した、バス事業者様のための点呼ツールです。
言葉だけでは伝わりにくい安全運転のポイントや注意事項も、イラストがあればより具体的に危険や安全運転ポイントをイメージすることができます。
また、近年改正された道路運送法や、運輸規則等の改正もわかりやすく解説しています。