平成27年6月4日(土)~5日(日)にかけて、米子コンベンションセンター(ビッグシップ)にて日本交通心理学会第81回大会が開催されました。
「自動運転の将来を考える」をテーマにシンポジウムが開かれたほか、2日間にわたり、19の研究発表が行われました。
今回は多彩な研究発表の中から
「アルコール摂取から5時間後の生理と心理」
を取り上げて紹介します。
日本交通心理学会とは…
日本交通心理学会は1975年日本交通心理学研究会として創立しました。交通に関わる諸問題について心理学を中心とした研究を行うことにより、交通事故の抑止とよき交通環境の建設に寄与することを目的としています。学会の認定資格である交通心理士は、地域や企業の交通安全のリーダーとしての役割を担っており、今後ますますの活躍が期待されています。
マイクロメイト岡山の三宅宏治氏によって発表された「アルコール摂取から5時間後の生理と心理」の発表内容を紹介します。
飲酒後の僅かな休憩で車を運転し、事故を惹起するケースが後を絶たない。研究班ではこうした事態を「酒気残り運転」と称し、研究の重要課題として取り組んでいる。
研究班では数年来、飲酒実験を行い本学会でもその研究結果を発表してきたが、その指標は
1・本人の主観的な酔いの程度
2・呼気及び尿中のアルコール濃度
であった。
今回の実験では、飲酒が中枢神経に及ぼす影響を明らかにするために、中心視野網膜神経節細胞の感度を採用し、指標の妥当性を検討した。
本実験は市民ボランティア参加者の同意を得て、医師の監視と支援のもとに行われた(実験について詳しくはこちら)。
・実験対象者
参加者は22名(最終分析対象者は9名)
・実験日時
2015年12月12日 11:00~20:00
・実験場所
マイクロ岡山㈱ショールーム
・実験内容
実験対象者は各種ベースライン検査の後、2時間をかけて指定量のアルコールと好みの食べ物を自由に飲食した。飲酒終了後から「主観的酔い、呼気検査、尿検査、静的視野検査」を実施した。
実験の結果、主観的酔い(酔いの程度の自覚)は飲酒終了30分後に最高に達し、その後徐々に低下して90分を境に急速に醒める傾向がみられた。5時間後の時点では、9人中7人が酔いは醒めたと感じ、運転できると回答している。
しかしながら、5時間後であっても、9名中6名から微量の呼気中アルコールが検出され、尿中アルコールに至っては、9名全員からアルコールが検出された。
また、アルコールが中枢神経に与える影響を調べるために、ハンフリー自動静的視野検査器を用いて、中心視野30度以内の網膜神経節細胞の感度状態の変化を測定した。
その結果、90分後においては、網膜神経節細胞の感度状態は1名を除く8名において低下し、5時間経過してもなお、網膜感度が回復しないものが8名いるなど、中枢神経系の麻痺が確認された。
今回の実験では、日常的な飲酒(3~5単位)において、5時間が経過してもアルコールは体外に排出されず、中心視野の網膜感度も低下していることが明らかになった。
この事実は、中枢神経系の麻痺が残存することを示唆する重大な知見を得たといえる。
飲酒運転の真の危険性を周知徹底するためには、罰則強化だけでなく「酒気残り」のリスクについて、脳機能の麻痺による危険運転の可能性の視点から理解することが肝要である。
日本交通心理学会第81回大会データ
・日時 平成28年6月4日(土)~5日(日)
・会場 米子コンベンションセンター
・主催 日本交通心理学会
・共催 日本交通心理士会
・後援 一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会
・プログラム
<シンポジウム>
「自動車運転の将来を考える」
基調講演「自動運転の動向と課題」
──津川定之(産業技術総合研究所)
パネリスト
──松浦常夫(実践女子大学)
──石川淳也(合資会社中央自動車学校)
──谷口俊治(椙山女学園大学)
<研究発表>
・道路横断時の確認行動に見られる学年差 ―学習状況下の観察調査に基づく検討―
・無信号横断歩道における歩車間コミュニケーションの分類
・単路横断中の事故における死亡リスクを高める要因
・高齢者の乱横断習慣に関する研究 ―アンケートデータの分析―
・交通事故死亡者数と若者人口との関係
・アイマークレコーダーを用いた児童ドライバーの実証的研究
・自動車側後方への接近対象検出支援システムの有効性の検討
・歩きスマホの防止を目的としたCMの啓発効果
・在宅看護学実習中における自転車事故およびヒヤリ・ハット事象発生時の学生の心理状態
・アルコール摂取から5時間後の生理と心理
―呼気及び尿中のアルコール残存量と中心視野網膜感度に基づく酒気残りの分析―
・運転マナーの悪質性イメージに関する研究(1)
―免許所持および交通安全イベント参加経験との関連―
・運転マナーの悪質性イメージに関する研究(2)
―遭遇経験の有無と行為の比較検討―
・運転マナーの悪質性イメージに関する研究(3)
―セルフ・モニタリングとの関連―
・自転車運転時の交差点カーブミラーに対する注視行動
・視覚刺激の動態提示による識閾の低下 ―「高齢者交通事故多発」への対処の一途―
・補助ブレーキに対する構えから推定した教習所教官とドライバーのリスク知覚の違い
・狭路の自動車運転教習における俯瞰カメラの映像提示が教習時限に及ぼす効果
・交差点リスクと安全運転度の相関について
・運転適性検査により評価される各特性別の自己評価(2)
―若年教習生の結果に基づく属性差の比較―