工場の倉庫や元請の運送事業者では、フォークリフトの作業を下請運送会社や派遣会社などに委託することが少なくありません。
このとき、フォークリフトの運転資格のないドライバーなどにも、付随業務として安易に積み込みなどを依頼することはないでしょうか?
本来ならば運転資格をとらせて、管理者が作業計画を作成し、それを理解させてすすめるべき業務ですが、実際には現場任せ、下請任せとなっていて、忙しい時期には、チェックがないまま無資格者の運転が行われるといった実態があります。
次に紹介する判例は、そうした現場で起こったフォークリフト事故に対して、運送事業者(物流センター)と下請派遣会社の双方に安全配慮義務違反を認めて、損害賠償を命じたものです。
【こんな責任が追及された】
派遣社員Aは、派遣会社B社の作業者として、大阪府下にある運送会社C社の物流センターで、リーチ型フォークリフトを使ってB社がC運送から請け負っていた食品の仕分け作業していました。
Aは食品を積んだパレットを外に運び出すために物流センター出入口に進行していたときに、出入口の向こう側に人がいたので、入ってくるものと思って手前で停止していました。
そのとき、同じくB社の派遣社員であるDが運転するフォークリフトが近づいてきたために、とっさに左足で避けようとしたため、2台のフォークリフトの間に足を挟まれ、骨折しました。
なお、A及びDの2人ともフォークリフトの運転資格は持っていませんでした。
事故で被災したAは、労災保険支給で受給した額を上回る治療費や後遺障害の補填として、勤務先B社と業務を依頼した運送会社C社に訴訟を起こしました。
B社に対しては、フォークリフトの運転資格を持っていないのに運転させた「安全配慮義務違反」があること、またC社はB社にフォークリフトを提供しており、B社に対して従業員に適正に使用させ、管理しているか把握する義務を怠った「安全配慮義務違反」があるとして、損害賠償を請求しました。
これに対して派遣会社は、無資格者にはフォークリフトの運転を指示した覚えはない、勝手に機械を動かした本人の責任と言って争い、運送会社は派遣会社に業務のリストを渡していただけで業務の内容を直接指示していないので、責任はないと言って争いました。
民事訴訟で双方の証言が確認され、裁判所は次のように述べて「安全配慮義務違反」を認めました。
(派遣会社B社の責任)
「物流センターでフォークリフトを使用する場合には、運転者が運転を誤ったり、フォークリフトの走行経路と作業者の歩行経路が複雑に交差して事故が発生する危険があることから、指揮監督者は
など安全対策を講ずべき義務があったが、作業計画を定めておらず、作業指揮者についても明確ではなく、実態としてフォークリフトの運転資格を持たないAとDに運転業務を担当させていた」
「よって、B社には安全配慮義務違反があり、その結果Dがフォークリフトの運転を誤り、事故を生じさせたものである」
(物流センターC社の責任)
「C社は、物流センター内で所有するフォークリフトを管理上の制約を付することなくB社に提供しているのであるから、適正に使用させ管理しているか把握する義務があった。にもかかわらず、その義務を尽くしておらず事故を発生させたもので、安全配慮義務違反があった」
なお、Aが事故回避のためにとっさに足を出した行為は適切な行為とはいえないとして30%の過失相殺を適用して、後遺障害逸失利益など約972万円の損害賠償を認めました。
【大阪地裁 平成23年3月28日判決】
(※裁判の判決文は交通事故民事裁判例集第44巻2号450頁より引用し、要約しました)
ちょうど9月は、労働衛生週間の準備期間です。
この時期には職場環境のパトロールをする事業所も多いと思いますが、見落としがちな点が下請や派遣社員などの運転資格要件です。
社員と違って、派遣会社や下請企業にチェックの責任があると考えてしまいがちです。しかし、ひと度労災事故が起これば、判例のように現場を管理する側の責任が問われるのです。
しっかりとチェックして、教育の必要な作業者には、安全教育を実施して、作業を監督しましょう。
【参考】
フォークリフト運転業務従事者の資格要件
区分 | 特別講習修了者 | 技能講習修了者 | 備考 |
最大荷重1トン未満 | ◯ | ◯ | 公道上は運転できない |
最大荷重1トン以上 | 不可 | ◯ | 〃 |
・構内事故の過失責任を意識していますか?(危機管理意識)
・不安全状態、不安全行動の放置に注意しよう(危機管理意識)
・「これくらいなら」と安全の基本がおざなりに(危機管理意識)
CGで見せる!荷役作業の労働災害
労災事例と安全10ポイント
工場・倉庫におけるフォークリフト、ロールボックスパレット等の災害、トラックの荷台での様々な災害事例をCGアニメにより正確に再現。その原因と対策をわかりやすく解説しています。
玉掛けやクレーン、足場の一連の作業における災害事例をCGアニメにより正確に再現。原因と対策を分かりやすく解説。それぞれの作業の安全のポイント10をテンポよく説明します。