定年後の委託社員の待遇は?

弊社では本人が希望した場合には、定年後もドライバーを続けてもらっています。業務内容は定年前と変わりありませんが、給料はかなり抑えています。最近、同一労働同一賃金とよく聞きますが、何か問題があるでしょうか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆同一労働同一賃金の原則

 同一労働同一賃金の原則とは、文字どおり同一の仕事に従事する労働者は、同一水準の賃金が支払われるべきだとするものです。

 

 同原則は、労働分野における差別的取り扱いを許さないとするものですが、実際には各労働者による差異を絶対的に禁止することは困難な面もあり、不合理な差別であるかどうかが問題になることが多くなっています。

 

 特に、従前までいわゆる終身雇用制を採ってきた日本においては、定年を除けば雇用契約に期間の定めがない正社員と、期間の定めがある非正社員で、その雇用条件や業務内容、責任の重さなどに違いがあり、その地位の違いで差異があるのが実情です。

◆労働契約法20条による差別の禁止

 この点について、労働契約法20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と規定し、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めています。

 

 同規定により、不合理な労働条件は許されないことになりますが、他方で同規定の解釈からは、業務の内容、責任の程度、配置等の一定の要件があれば、差異を設ける余地があるということになります。

◆定年後再雇用の労働者の場合

 定年後に再雇用された労働者は、期間の定めがない労働契約を終了し、期間の定めがある契約に変更された労働者という扱いになります。

 

 そのため、再雇用前と再雇用後の職務内容や労働条件等を検討し、その差が労働契約法20条に該当するような不合理なものである場合には問題となります。

 

 具体的にどのような判断がされるかは、各事案によって異なりますが、考慮される要素としては、当該労働者の再雇用前後の勤務日数や勤務時間、職務の内容、責任の程度、労働者自身の職能、給与の差の程度などの観点から判断することになるでしょう。

 

 質問のような場合が、業務内容や勤務体制等が一切変わらず、給与だけが抑えられているのであれば、許されない可能性があります。

◆賃金差を不合理とした判例

 東京地方裁判所2016(平成28)年5月13日判決では、質問のような事案において、「労働契約法20条にいう①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、賃金の額について有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」との判断がなされました。

 

 この判決からすれば、質問のような場合は許されないことになります。ただ、このような問題は、具体的な事案によってそれぞれ判断要素が異なり、また同判決の法律の解釈が広く一般に適用できるとは直ちにいえないため、別の事案では異なる判断がされる可能性もあります。

 

 いずれにせよ、再雇用をするにあたっては、職務内容等は十分検討する必要があります。

◆事業所での対策

 以上のとおり、再雇用の前後で職務内容が全く変わらないような場合には、給与だけを下げることは許されないことになります。そのため、再雇用後の労働条件については、給与の内容だけではなく、具体的な職務の内容や責任の内容も考慮した上で検討する必要があります。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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