最近、過労運転に対する厳しい判決が相次いで下され、皆さんも報道を目にした記憶があると思います。
過労運転といえば、「トラックやバスの長時間・長距離運転によるもの」と考えがちですが、我が国では一般企業でも長時間労働が大きな社会問題になっています。
長時間の残業を強いられて、自由に活動できる生活時間を失い、うつ病になったり睡眠不足等で疾病を発症する人も少なくありません。
長時間労働で疲弊した人がマイカー通勤などで交通事故を起こした場合も、広い意味で過労による運転事故と言えます。
折りしも10月1日からは、全国労働衛生週間が実施されています。
この機会に安全運転管理や運転管理に携わる皆さんは、職場で労働時間の長すぎる人がいないか、運転する場合どのような管理・指導を行っているのか、チェックし対策を考えましょう。
【判例1 過労運転で厳しい判決が下された】
平成28年3月17日、広島県の山陽自動車道「八本松トンネル」で2人が死亡し8人が負傷する多重事故を起こし、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)と道路交通法違反(過労運転)の罪に問われていたトラック運転者(33)の判決公判が、平成28年9月29日広島地裁で開かれ、裁判長は懲役4年(求刑懲役6年)の実刑判決を言い渡しました。
この運転者は、過労のため正常な運転ができない恐れがあるのにトラックを運転し、午前7時25分ごろ、時速約80キロのまま居眠り運転で渋滞中の車に衝突、軽乗用車の女性(当時65)と別の乗用車の男性(当時34)を死亡させたほか、男女8人にけがを負わせました。
運転者は公判で起訴内容を認め「インフルエンザでも休ませてもらえない同僚がいて、自分だけ休みがほしいと会社に言いづらかった」と明らかにしています。
この事故をめぐっては、過労であると知りながら運転を指示したとして、勤務先のトラック運輸会社(埼玉県川口市)の役員である統括運行管理者の男性(42)も、平成28年8月16日に道路交通法違反(過労運転の下命)の罪で逮捕され、起訴されています。
広島県警がこの運輸会社の運転日報を押収して分析するなどした結果、事故を起こした運転者の休日は28年1月5日から事故を起こした3月17日までに3日間しかとられておらず、事故前1か月の拘束時間は、厚生労働省が定める上限の320時間(※)を約100時間上回っていたことが判明しています。
(※拘束時間320時間は「改善基準告示」の例外的上限)
判例で示したものは極端な例とはいえません。運転者の供述にあるように「休むとは言い出せない」という職場の雰囲気はどの会社にもあります。
運行管理者や経営者は、「皆が自発的に頑張ってくれている」と都合のよい解釈をして、長時間労働を放置していませんか?そんな職場では、いずれ大きな交通事故が発生します。
過労運転を防ぐのは、運転者任せにしていては無理です。
一方で、過労運転で事故を起こせば、運転者自身が死亡したり、運転者がまず加害者として罪に問われ、懲役刑などでその後の人生を失います。
働かせる側にこそ、彼らを守る責任があります。
管理者や経営者が、改善基準告示をよく理解するととも、「眠たくなったら無理をしないで思い切って休め」と口を酸っぱくして指導しないと、職場で自発的に長時間の休息をとることができません。
■配車担当者が休息する運転者を褒める姿勢をもつ
たとえば、宝酒造の物流子会社であるタカラ物流システム(株)では、社長以下、安全運行を管理する役員が率先して「勇気を持って寝よう」をスローガンに掲げて、自社の運転者はもちろん協力会社の運転者にも指導しています。この活動を始めて、運転者から「眠いので今から数時間休息します。万一延着の場合、先方への確認をお願いします」といった連絡が入るようになっています。
同社の丸山常務執行役員によると、眠いのに無理をして延着を防ぐ運転者を褒めるということがなくなり、配車担当者も、眠いとき率先して休息をとる運転者を「安全意識が高い」と褒めるようになっているそうです。
【参考資料】
厚生労働省(労働基準監督署)がトラック、バス、タクシーなどの事業所に対して、平成27年中に行った監督・指導、送検の結果を下に示しています。最も多かったのは、労働時間の違反でした。
厚生労働省がこの度まとめた「平成28年版過労死等防止対策白書」によると、脳・心臓疾患による労災死亡件数計251件のうち、業種別ではその38%に当たる96件が運輸業・郵便業で占められています。
【判例2 長時間労働による通勤事故で企業責任が追及された】
少し以前の判例ですが、平成21年10月16日、鳥取県の大学病院で事故の直前1か月に約250時間の時間外休日労働をするなど、恒常的に長時間労働に従事していた大学院生が通勤時にトラックと衝突して死亡した事故に関連し、大学病院側の責任を追及した民事訴訟の判決公判が鳥取地裁で開かれました。
裁判長は、付属病院で徹夜勤務をした直後に交通事故死したのは、睡眠不足や過労を生じさせた大学側の責任だとして、両親の損害賠償請求を認めて、約2千万円の支払いを命じました。
裁判長は判決理由で「大学院生の業務内容は勤務医と大きく変わらず、業務の性質は精神的負荷が高いものだった」と認定し、「大学側には(過酷な勤務で)事故発生が十分予測可能だった」と安全配慮義務違反を認めたものです。
事務所などでの残業の実態は、勤務簿だけではわからないこともあります。サービス残業をしていて、表に現れないのです。
そこで、ある照明機器製造会社の安全運転管理者は、毎週1回、門衛所に顔を出して、「最近、夜遅く帰る社員はいないですか」と尋ねるようにしているということです。
門衛所の警備担当職員は、残業の多い社員に気づいているので、その情報をもとに管理者が現場のシフト変更を指導したり個別面談をして、無理な時間外労働を減らすように努めています。
この会社では従業員全員がマイカー通勤であり、過去に夜遅く帰宅した社員が人身事故を起こした経緯があり、通勤事故撲滅のためには労働時間の短縮も重要だと考えているということです。
過労運転などを防ぐために、点呼は重要な業務ですが、いざ、ドライバーと向き合ったときに何を話せばいいのか、戸惑う管理者も少なくありません。
本DVDは、トラック運送事業の安全運行のために欠かせない「点呼」のポイントを管理者とドライバーのやり取りによって具体的に紹介していますので、毎日の点呼のご参考にしていただくことができます。
乗務前点呼はもちろん、乗務後や中間点呼まで点呼者が忘れてはならないチェックポイントを理解することができます。
【詳しくはこちら】