以前、フォークリフトの構内事故について紹介しました。その際には、構内を歩く歩行者にも、フォークリフトに衝突されないように注意すべき義務があるといった現場の意見を紹介しました。
ところで、実際に損害賠償義務としての過失割合を考えた場合は、どの程度の過失責任が企業や加害者にかかってくるでしょうか?
最近の民事訴訟をみると、構内事故も交通事故同様に、加害者に大きな責任を負わせるケースが多くみられます。
今回は、フォークリフトの過失責任を重く見た判決例を紹介しますので、構内事故防止指導の参考にしてください。
【判例:リフトマンの注意義務を重く見て、過失責任を9割と認定】
牛乳配達、空箱回収業務を営むC社の配送センターで、夜間に下請作業をしていた会社のフォークリフト運転者Aが、トラック誘導をしていた別会社の作業者B(55歳)の足に乗り上げて大怪我を負わせました。
この構内事故の民事訴訟で、裁判所は、フォークリフト運転者の企業に90%の責任があると認めました。(平成25年5月21日大阪地裁判決)
判決理由によると、「現場は騒音が多く混乱していて、運転者・作業者双方とも、安全確保のために高度な注意義務を負っていた」
「しかし、フォークリフトの後方に視界を妨げる飲料の空箱等はなく、ある程度後方を確認すればBを簡単に発見できたにもかかわらず、漫然とフォークリフトをバックさせたAの過失が相対的に非常に大きい」として、フォークリフト運転者側の過失を90%、作業者(被害者)の過失を10%と認定しています。
フォークリフトに足を踏まれたことにより、Bは右足に重傷を負い、右足の人差し等の用を廃したとして、13級10号の後遺障害が認定されました。
このため治療費、休業損害(121日)、逸失利益(労働能力喪失率9%)、通院慰謝料および後遺障害慰謝料などを含めて、865万4,091円の損害が認められました。
このうち過失相殺10%分86万円、自賠責既払金258万円、労災保険給付金127万円等が差し引かれ、弁護士費用を含めた結果、Aが勤務する会社が被害者に対して実質的に支払うよう命じられた額は、432万9,038円となっています。
(※交通事故民事裁判例集 第46巻第3号より引用)
■純損害432万円を取り戻すためには、何億円の売上が必要か
出向先で貸し出されたフォークリフトに自賠責以外の保険は付保されていなかったようなので、被害者に対する賠償は純損害となる可能性が大きく、大きな痛手と言えます。
下請会社として優良な企業で、もし2%程度の利益率を維持していたとしても、432万円の純損害を取り戻すためには、2億円以上の売上を新規に確保する必要があります。
このように、構内事故は交通事故同様に重大な危険であると認識し、安全指導を徹底する必要があります。
■「無責任体制」の現場で起こるべくして発生した災害
判決文によると、当事者の過失以外に以下のような現場の問題点が明らかになっています。
以上のような事情から、この訴訟では「元請会社が直接に作業を指揮・管理している実態がないので、使用者責任はない(元請の損害賠償責任はない)」という結果になっていますが、元請会社や荷主(配送センター)の安全管理も不徹底で、不安全状態が放置されていたことが災害発生の要因となっているのは間違いありません。
このような現場で元請会社や荷主がフォークリフトや作業場所を提供していて、使用者しての責任を負った判決例もあります。現場の安全管理について三者が責任を自覚することが大切です。
【参考資料】
厚生労働省の調査によると、構内の荷役災害のトップは転落事故ですがフォークリフトによる災害も多発していて、荷役運搬機械災害全体の約70%を占めています。
さらに、フォークリフト災害100件の内容を分析した結果では、後退したフォークと歩行者等との接触が35%、前進したフォークとの接触が35%となっています。
※図表は「荷役作業安全ガイドラインの解説」(厚生労働省)より引用しました
工場・倉庫におけるフォークリフト、ロールボックスパレット等の災害、トラックの荷台での様々な災害事例をCGアニメにより正確に再現。その原因と対策をわかりやすく解説しています。
玉掛けやクレーン、足場の一連の作業における災害事例をCGアニメにより正確に再現。原因と対策を分かりやすく解説。それぞれの作業の安全のポイント10をテンポよく説明します。