以前も白バス運送の危険について紹介しましたが、最近、また事業用旅客運送の免許を持たない白ナンバーでの事件が発生しましたので、違法認識のないまま事業運送をしてしまう危険について紹介します。
会社の所有する自家用自動車やレンタカーで人間や荷物を運ぶ時、料金が発生していないか注意しましょう。
無許可の事業運送は、道路運送法違反として会社の信頼を失うだけでなく、乗員が傷つくなど人身事故が発生した場合は、社会的責任も非常に大きなものとなります。
【こんな事例が発生しています】
さる平成29年1月25日、大阪府警は大阪の大手公共交通企業H社のグループ会社で高齢者向けサロンを運営するR社が無許可のバス事業をしていたとして、同社と旅行事業部の女性部長(45)ら男女3人を道路運送法違反の疑いで書類送検し、同社を家宅捜索しました。
違反の内容は、無許可による一般旅客自動車運送事業経営で、女性部長らには「違法という認識はなかった」ということです。
書類送検容疑となったのは、平成28年4月から7月にかけて3回にわたり自家用白ナンバーのマイクロバスによる日帰り旅行の運行です。
参加した会員の高齢者からバス料金を徴収したため、国土交通相の許可を得ずに事業運送をしたとして、同法違反の摘発となりました。
この会社は、会員である高齢者向けに文化教室やバスツアーを催したり、急病時の看護や日常生活の支援を行っています。
また、同じH社バスの子会社S社は、マンション住民の送迎バスを無許可で運行した疑いで、平成28年3月に同社と男性相談役ら5人が道路運送法違反(無許可一般旅客自動車運送事業経営)で書類送検されています。
国土交通大臣の許可がないのに、豊中市の分譲マンションと北大阪急行の千里中央駅間でマンション住民を乗せる有料の送迎バスを運行した疑いです。
S社では1か月約66万円でマンション管理会社に車両をリースする契約と運転者派遣契約を別々に結んでいました。
同社では「別々の契約なら運送事業に当たらず、許可が必要ではないと認識していた」と説明していましたが、大阪府警は無許可運行の類似行為にあたると判断しました。
【事例からの教訓】
会員や顧客にさまざまなサービスを提供している場合、移動料金などもサービス料金として請求できるように考えて、このようなミスを犯しがちです。
しかし、事業用自動車でない限り、たとえ会費名目でもバス運賃を顧客から徴収することはできないので、有償旅客運送は事業許可のあるバス業者に任せる必要があります。
事例2の場合、運転者派遣だけであれば派遣業としての料金請求ですみますが、運行が伴う場合は事業許可が必要です。
取扱う乗客が一定の範囲(マンション住民)に限定されているので、特定旅客自動車運送事業の許可を取っておけばよっかたのです。
親会社もバス会社ですので、当然気づいておくべき状況でした。
人を運ぶ旅客事業は輸送の安全確保義務を伴い、許可を受けるに当たってはそのことが明記され、運行管理者による運行前後の「点呼」や11項目に渡る「運転者への指導・監督の義務」などが厳しく規定されています。自家用自動車の運行とは責任の大きさが違うのです。
人の命を運ぶ事業であることを自覚し、軽々しい自家用バスの運行は慎みましょう。
同じように、自家用のトラックやバンなどで、許可を受けずに有償で荷物を運ぶ行為も禁じられていますので、注意してください。
例えば、建物解体業者が自社で解体して発生した廃材を社有車で運ぶのは有償運送ではありませんので自家用トラックを使えますが、もし、他社のトラックをチャーターして下請料金などを払う場合、白ナンバーの車を依頼すると、その車は違反になるということです。
最近、白トラックの摘発事例は少ないものの、勘違いのないように管理者はしっかりと営業担当者等を教育してください。
また、引越し運送事業者が繁忙期(3月~4月)に車両不足を補うためにやむを得ずレンタカー(白ナンバー)のトラックを手配して引越し業務を行うことは、運輸局に一時的な届出をすることにより認められています。
これは、あくまで例外的な認可措置ですので、運送会社が白い「わ」ナンバーのトラックで引越し業務をしているのと見て、「引越しの請負は自家用車でも出来るのか」などと勘違いしないようにしてください。
【参 考】
■【無許可バス営業の禁止】 ──道路運送法第4条
一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
■【無許可トラック営業の禁止】 ──貨物自動車運送事業法第3条
一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない。
■【自家用自動車有償運行の禁止】──道路運送法
第78条
自家用自動車(事業用自動車以外の自動車をいう)は、次に掲げる場合を除き、有償で運送の用に供してはならない。
1.災害のため緊急を要するとき。
2.市町村などが、国土交通大臣の行う登録を受けて「自家用有償旅客運送」を行うとき。
3.公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき。
■【道路運送法第4条違反の罰則】──道路運送法 第96条
3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
■【道路運送法第78条違反の罰則】──道路運送法 第97条
1年以下の懲役若しくは150万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
■【貨物自動車運送事業法第3条違反の罰則】──同法 第70条
3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
■【行政処分】──道路運送法 第81条
国土交通大臣は、自家用自動車を使用する者が次の各号のいずれかに該当するときは、6月以内の期間を定めて自家用自動車の使用を制限、又は禁止することができる。
1.許可を受けずに自家用自動車を使用して旅客自動車運送事業を経営したとき。
2.許可を受けず届出をしないで、自家用自動車を使用して貨物自動車運送事業を経営したとき。
3.有償で自家用自動車を運送の用に供したとき
4.許可を受けないで、有償で自家用自動車を貸し渡したとき