通勤災害の範囲を教えてください

弊社の社員の中には、介護のために週に2回ほど帰宅途中に病院に寄ってから帰っている社員がいます。また、単身赴任の社員は月に1回自宅に帰っています。このような社員が事故にあった場合は通勤災害となるのでしょうか?通勤災害の範囲を教えてください。

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆通勤災害についての規程

1・通勤災害とは

 通勤の際に事故にあった場合については、労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険法)により、一定の補償がされることになっています。


 通勤災害とは、労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡をいいます(同法第7条第1項第2号)。

2・「通勤」とは

 では、そもそも「通勤」とは何でしょうか。この点も同法に定めがあります。


 同法同条第2項は、「通勤」は、「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」とし、

  1. 住居と就業の場所との間の往復
  2. 厚生労働省令で定める就業の場所から他の場所への移動
  3. 1に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

とされています。

 

 2と3については、平成17年に改正されて加わったものですが、まず2は複数の異なる事業場で働く労働者について、一つ目の就業の場所での勤務が終了した後に二つ目の就業の場所に向かうような場合です。

 

 3は、転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復距離を考慮して困難となったため住居を移転した労働者であって、一定のやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することとなったものの、居住間の移動です。


 なお、合理的な経路及び方法とは、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法です。

3・「通勤」とならない場合(逸脱・中断)

 そして同法同条第3項は、労働者が、上記の移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後に行った上記の移動は、「通勤」としないと定めています。

 

 ただし、同項は、その逸脱又は中断が、「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」ともしています。

 

 すなわち一定の場合、逸脱又は中断した後に通常の経路に戻った後の災害も、通勤災害と認められる場合があるのです。

 

 このような、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものは、労働者災害補償保険法施行規則第8条が定めており、

  1. 日用品の購入その他これに準ずる行為
  2. 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設の行う職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  3. 選挙権の行使その他これに準ずる行為
  4. 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
  5. 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)とされています。

 なお同例外は、通常の通勤経路から逸脱や中断をした場合、その後通常の経路に戻れば認められるというものであり、逸脱中、あるいは中断中の災害まで通勤災害となるものではないので、注意が必要です。

◆介護のための立ち寄りによる通勤災害

 通勤災害についての規程は以上のとおりなので、上記の労働者災害補償保険法施行規則第8条第5号(上記1の(3)の5)にあたれば、その後の帰宅途中に災害に遭った場合、通勤災害とされることになります。

 

 なお、同5号は後に加えられたもので、まだ同規定がなかった際にこの点が争われた裁判例があります(大阪高等裁判所平成19年4月18日判決)。


 介護のために義父の家に立ち寄り、そこからの帰宅途中に事故にあったケースで、通勤災害と認められなかった処分の取り消しを求めたものでした。

 

 同裁判例では、具体的に滞在時間や他の介護者の有無、介護の内容や必要性を検討し、本件において介護のために義父宅に立ち寄ることを、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に当たるとしました。なお同裁判例は、「日用品の購入その他これに準ずる行為」か否かは、社会常識に照らして判断されるべきとしています。

◆単身赴任の往復中における通勤災害

 既に述べたように、単身赴任については、労働者災害補償保険法第7条第2項第3号(上記1の(2)の3)に規定されています。

 

 同規程に該当する状況であれば、単身赴任先から、元々居住していた妻子の住む家に帰宅する場合に事故に遭った場合などは、通勤災害となります。

◆具体的事案における判断

 以上のとおり、通勤災害に該当するかどうかは、各規程に該当するかどうかという視点で判断されることになります。しかし、同じようなケースであっても、具体的な事案によって、逸脱や中断が認められるか認められないかが変わるものといえ、同じようなケースでも諸事情によって結論が変わることがあります。

 

 例えば帰宅途中に買い物をするため店舗に寄った後に、通常の通勤の経路に戻ったような場合でも、買い物の時間が長時間になると認められないようなこともあります。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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