車両の不具合が発生しても、エンジンがかからないなど走行できない状況にまで至らないと、修理を先送りして走行させる場合があり、それが事故に結びつく例もみられます。
今回も国土交通省が公表した事業用自動車事故報告書から事例を紹介します。
貸切バス事業所で、車両の不具合があることに気づきながら、運行を続けたため追突事故が発生しました。
この事例では、運転者だけでなく事業者の責任が厳しく指摘されています。あなたの事業所でも不具合を軽視して運転している危険がないかチェックをしましょう。
【こんな事故が発生しています】
さる平成27年4月27日午後19時19分頃、千葉県に本社をもつバス会社の大型貸切バス(運転者:65歳男性)が、静岡県浜松市の県道交差点の手前で、前を走っていた別の貸切バスに追突しました。
この追突事故の衝撃で両車両の乗客計15名が軽傷を負いました。
事故現場は緩やかな下り坂で、制限速度は時速50キロ、カーブの先に交差点がある場所でした。
追突した貸切バスは、約30キロオーバーの時速80キロで走行し、前方の貸切バスがカーブした先の赤信号で停止しようとしていることに気づき、ブレーキを踏んだものの停止できずに前車に追突してしまったものです。
バスの運転者は、ブレーキのかかり具合が悪いことを自覚していましたが、車間距離を十分には取らず、制限速度を超えて走行していました。
なお、現場の道路は高速道路を降りてすぐの場所でスピード感覚が狂いやすく、交差点での前車停止に気づくのが遅れるケースも多く、過去3年間に6件も同種の追突事故が発生しています。このため、「左方屈曲あり」「信号機あり」などの警戒標識が設置されていました。
不具合を承知で走行を続けた
バスの運転者は、その日の朝、出発の20分後に東京都内で軽微な追突事故を起こしています。
運転者は「ブレーキの具合が悪い」ことに気づき、バス会社の社長にその旨を報告していました。その後、高速道路の料金所でも停止線の場所で止まれなかったことからブレーキ異常を自覚しています。
国土交通省の分析では
「……結果として、運行を中止し整備工場等で修理することなく乗客を乗せたままブレーキに不具合のある車両で運行を継続したことが事故につながった原因と考えられる」
とされています。
以前から車両の点検・整備が不完全
事故後の調査では、この貸切バスがブレーキ・チャンバロッドのストローク及びブレーキ・シューのクリアランスが基準に達しておらず、ブレーキテストで十分な制動力を得られないということがわかりました。
また、定期点検整備の記録から、制動装置の点検箇所である「ブレーキ・チャンバ」の「ロッドのストローク」等について点検していないことが確認されました。
【事例からの教訓】
この事故では、乗客のけがの程度が軽傷ですみ大事には至っていませんが、過去には車両の整備不良が原因となって重大な死亡事故に結びついた例もあります。
同種の事故を防止するためには、以下の2点を徹底しましょう。
・不具合を発見したらすぐに対処する
貸切バスは、すでに朝の出発直後に軽微な追突事故を起こしていました。
そのときブレーキの不具合を運転者が自覚して管理者にも報告していたにもかかわらず、すぐに代替のバスなどを用意しないで運行を続けたことが事故に結びついています。
バス事業者による国土交通省への報告書では、「午後の観光地(山梨県)で乗客を一旦降ろしたら整備工場に向かうよう指示した」と書かれていたそうですが、運転者の供述は「社長から車両と乗客に被害がなかったのなら、そのまま運行を継続するよう指示されていた」となっています。事業者は整備工場の点検結果を確認しようとしていませんので、運行継続を下命または容認していたと思われます。
ブレーキの不具合などは致命的な問題と考え、すぐに車両の修理を行いましょう。
・定期点検整備を確実に実施しよう
このバスは、定期点検でブレーキチャンバなどの必要な点検を怠っていたことが判明しています。
とくに大型車は点検整備が重要です。足回り点検の不備は車両火災などに結びつくケースも少なくありません。
なお、貸切バス事業者やトラック運送事業者の場合は、中古市場で入手した車両の整備履歴を十分に把握できないまま運行している例が多いと言われています。事故車両は平成3年登録のバスで、事業者の事業開始が平成12年ですから中古車両として入手した可能性があります。
自社で新車購入した車両は整備管理者が整備履歴を保存していて、車両ごとに整備で気をつけるべきポイントを把握しているのが普通ですが、そうした車両とは違うことを意識して、より入念な定期点検を実施するように指導しましょう。
国土交通省では、貸切バス事業者が予防整備(不具合発生の予防も含めた十分な整備)を定期的に実施するための整備サイクル表モデル例なども策定しています。
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