近年、高齢運転者による交通事故の報道が目立ちますが、弊社でも高齢の運転者が数名いることもあり、他人事ではありません。先般、道路交通法改正もありましたが、今後、事業所において高齢運転者への対策として備えておくべきことはあるでしょうか?
平成29年3月12日から、改正された道路交通法が施行されています。主な改正点のうちの一つとして、高齢運転者対策の推進がなされています。
自動車の運転には、物事を理解し、判断するなどのいわゆる認知機能が必要ですが、人間の認知機能は加齢に伴ってどうしても衰えていきます。
もちろんその程度は人それぞれですが、中には自分の認知機能の衰えに気付かない場合もあり、実際に高齢運転者が起こす交通事故も生じているため、今回の改正で対策が採られたものです。
これまでも、高齢運転者に関する制度として、75際以上の運転者は3年に1度の免許更新の際に、30分程度で終わる簡易な認知機能検査を受けることとされていました。
その結果は、
・第1分類「認知症のおそれあり」
・第2分類「認知機能低下のおそれあり」
・第3分類「認知機能低下のおそれなし」
のいずれかに分類され、それぞれの分類に応じて、高齢者講習を受けることになっていました。
また、第1分類と判定された運転者が、一定期間内に一定の違反行為をした場合には、臨時適性検査として公安委員会の指定した医師の診断を受けるか、主治医の診断書を提出することとされていました。そしてその結果、認知症であると判明したときには、免許取消し等の対象となっていました。
今回の高齢運転者に関する改正では、これら制度をさらに進めた変更があったもので、以下では1・臨時認知機能検査・臨時高齢者講習、2・臨時適性検査制度の見直し、3・高齢者講習の合理化・高度化という点について解説します。
今回の改正前には、3年に1度の免許証の更新の時にだけ受けるとされていた認知機能検査について、臨時認知機能検査という制度が新設され、高齢運転者に一定の違反行為があれば、3年を待たずに臨時認知機能検査を受けなければならないとされました。
一定の違反行為は、政令で定められていますが、その内容は、
とされており、走行中の一般的な交通違反の多くが対象となっています。
また、改正前は第1分類とされた者が一定の違反行為を行った場合に臨時適性検査を受けるとされていたものを、認知機能検査で第1分類とされた者は、違反行為がなくても、全員臨時適性検査を受けるか、または命令に従って主治医等の診断書を提出しなければならないものとされました。
もちろんこの検査や診断書によって、認知症と判断された場合は、運転免許の取消し等の対象となります。
今回の改正により、認知機能検査によって第1分類、第2分類と判定された者に対する高齢者講習は3時間となり、内容が充実し高度化されることになりました。
実車指導においては、各分類に応じて、運動機能に関する課題に差を設けたり、認知機能に関する課題について、第1分類はノンストップ方式(危険度観察型)、第2分類はステップアップ方式(到達度段階型)としたり、実車指導の際の運転の様子をドライブレコーダーで記録し、その映像に基づいて個人指導を行ったりすることになっています。
一方、第3分類とされた者に対しては、高齢者講習の内容が合理化され、時間が2時間に短縮されました。
高齢運転者であるからといって一律に過度の制約を加えることは問題がありますが、今後も上記の分類をさらに細分化したり、検査の期間を短くしたり、講習の内容を充実させたりという改正がさらに行われる可能性はあります。
また、昨今は自動車の運転支援機能が充実しており、これに伴う安全運転対策も検討されるかもしれません。安全運転支援機能や、自動運転機能は、認知機能の衰えをカバーする役割を果たすことが可能であるといえ、例えば現在のAT車限定免許のように、高齢者の場合には、一定の安全運転支援機能を備えた自動車に限定する免許制度が採用されることもあるかもしれません。
事業所として行うべき対策も、上記のような安全対策に沿ったものを検討すべきです。自社で行う安全教育の場において、認知機能などの事項について十分に確認させることや、会社内で独自に基準を設けて、認知機能の検査を行う等の対策は、現在でも採ることが可能な対策といえます。
また、コストの問題はありますが、事故防止のために、社有車は安全運転支援機能を備えたものとするなどの対策も考えられるでしょう。
(執筆 清水伸賢弁護士)