いよいよ、2017年8月から貸切バス事業者に対して、民間の適正化事業実施機関による巡回指導がスタートします(地域によっては9月より開始)。
適正化機関の指導は、2016年12月20日に施行された改正道路運送法に基づくもので、同年1月15日に発生した軽井沢スキーバス事故の再発防止策を踏まえ、国の監査機能を補完して貸切バス会社が実際に安全運行できるのかどうかチェックする仕組みを構築する目的があります。
2016年度から2017年度にかけて、地方運輸局の管轄区域ごとに地方バス協会などが合同して新法人を設立、あるいは地方ブロックによっては地方バス協会自身が指定を受ける形で10実施機関が設立されています。
( → 詳しくは国土交通省のWEBサイトを参照)
○貸切バス事業者は、規制緩和前の2倍に増加
今後は、国が行う監査は過去に重大な事故を引き起こした事業者や、重大な事故に結びつく法令違反が疑われる事業者に重点を置くことになり、こうした事業者は、毎年度1回以上の監査を受けることになります。
それ以外の貸切バス事業者は適正化機関が行う巡回指導が中心となります。適正化機関が事業者の法令遵守状況を確認して、国の監査が必要と判断すれば通報されます。
国土交通省によると、貸切バス事業者数は規制緩和前の平成10年における2,122社から、平成27年には4,508社と約2倍に増加しています。近年は、海外観光客の激増も影響しています。
国の監査の手が回らないのも、こうした業界の拡大に対応できていなかったからです。
今後は、国が監視対象とするべき貸切バス事業者を特定し、監査の実効を上げて改善が見られない事業者を業界から撤退させようという意図が明確になっています。
(※貸切バス事業に対する規制緩和=需給調整規制の廃止等は平成12年2月)
○国土交通省の監査体制を総務省が批判
バス事業者が増加したのは、国土交通省が規制緩和をしたことが要因となっており、自ら招いた事態でもあります。
総務省は、去る7月28日に『貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視』を公表し、「安全運行に影響する長時間労働や低運賃での契約が多数あった」としてバス事業の指導強化を国土交通省に勧告しています。
同省勧告のなかで、「地方運輸局において監査計画の策定が形骸化し」「過去に新規許可事業者の監査の実施まで約1年5か月もかかった例や、約2年3か月経過も未実施の例がある」ことなどが厳しく批判されています。
総務省の勧告も受けた以上、監査・指導体制がますます厳しくなることは間違いありません。
ただし、総務省も指摘していますが、旅行業者に対する指導が不徹底のままでは、貸切バス運転者の労働状況の改善が難しい実態があるのも事実です。
なお、民間の指定適正化機関を維持するため、貸切バス事業者からは負担金を徴収する仕組みも創設されていますので、貸切バス事業者にとってはその分の負担も増しています。
↓ 総務省による勧告概要の一部(クリックすると拡大されます)
※「貸切バス適正化機関による巡回指導を開始します」(関東運輸局・近畿運輸局等)を参考に作成しました
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