自動車の安全装備に関する技術は年々進歩し、自動運転がすぐそこまで来ているようなニュースの報道もあります。
しかし、現実に走行している車の安全装備は完璧ではなく、あくまでもドライバーの安全運転をサポートするものでしかありません。
国民生活センターが、先進安全自動車の所有者2,000名に対して使用実態を調査したところ、ドライバーの4人に1人が「想定外の出来事」を経験していることがわかりました。
自社の使用する車に安全装備がつけられている場合は、管理者としても装備の機能と限界についてよく理解するとともに、ドライバーへ指導しておくことが重要です。
国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費相談情報を蓄積しているデータベースには、2012 年度以降、自動車の先進安全装置に関する相談が142 件寄せられ、年々増加する傾向にあります(右図参照)。
この142 件の中でも衝突被害軽減ブレーキに関する相談が119 件(83.8%)と最も多くみられ、状況によっては衝突被害軽減ブレーキ機能が作動しないことがあることを知らずに事故を起こした事例や、前方に何もないところで不意にブレーキが作動し、急停車した事例がありました。
また、先進安全装置が搭載されていると思いこんで購入したところ、実は装置の機能はオプションで、購入した自動車には搭載されていなかったという事例もあったということです。
【事例/機能せず】
衝突被害軽減ブレーキと車線逸脱警報が付いている新車の軽自動車を購入したが、装置が機能せず事故が起こった。 (2017年4月受付、福島県、50歳代、男性)
【事例/誤作動】
自宅近くの前方に何もないところで衝突被害軽減ブレーキが反応し急停車した。ディーラーに調査してもらったところ、進行方向左手のコンクリート壁横の電柱に対し反応したようだ。 (2017年6月受付、滋賀県、60歳代、女性)
【事例/実は装備なし】
軽自動車の新車を注文したが、標準装備だと思っていた衝突被害軽減ブレーキが付いておらず、購入時にオプションであるとの説明はなかった。後から追加で装備することはできないと言われた。(2017年7月受付、長崎県、50歳代、女性)
先進安全自動車を購入した人、2,000人へのアンケートでは、全体の約2割の人が想定外の出来事を体験し、そのうち約2割の人に物的損害がありました。
「他車や構造物等に接触した」「車体が傷ついた」「部品が破損した」といった損害です。内容について尋ねたところ、「急に加速した」「急に減速した」等の回答が多くみられました。
また、約8割の人が運転する際の注意事項を「理解している」「よく理解している」と回答しましたが、一方で2割弱の人が「聞いたことはあるが理解していない」「理解していない」と回答しています。
また、同センターの事例ではありませんが、運送会社の使用する大型トラックなどでは最近、オートクルーズコントロールと被害軽減ブレーキを組み合わせた車両が増えています。しかし、車種によってはクルーズコントロールだけで自動ブレーキ機能はないにもかかわらず、運転者が勘違いしている事例が少なくないようです。
2010年9月、大型トラック(衝突被害軽減ブレーキ非搭載)が高速道路道を約85km/h で走行中、運転者が運転席後方の自分の荷物を取るため脇見運転となり、前方の渋滞に気付く のが遅れ、渋滞の最後尾の乗用車に追突し、5 台を巻き込む多重事故となりました。
事故により、追突された乗用車のうち1 名が死亡、2 名が重傷、7 名が軽傷を負いました。
この運転者は、「アダプティブ・クルーズ・コントロール装置」を自動ブレーキのようなものと勘違いしていました。このため、安易に脇見運転をしてしまったものと思われます。
2009年8月、岩手県の高速道路を大型トラックが時速80km/hで走行中、路側帯でタイヤ交換をしていた2人をはね死亡させる事故が発生しています。
このトラックの運転者もオートクルーズ機能を使って居眠り運転で走行していたことがわかっています。
運転者は「眠気を感じてきたのでオートクルーズコントロール機能を使った」と述べていますので、前車に一定の距離を保ってついていくクルーズ機能を過信していたようです。
まさか、居眠運転をしようとして機能をオンにしたのではないにしても、追突しにくいという気持ちから緊張感を欠き、居眠りに陥ったと思われます。
国民生活センターが自動車メーカーに調査したところ、全てのメーカーが「現在実用化されている先進安全装置は、完全な自動運転ではなく、ドライバーは機能を過信せずに安全運転をする必要がある」と回答したということです。
クルーズコントロールに被害軽減ブレーキがついていたとしても、以下の点に注意すべきことがレポートから読み取れます。
◎ 性能はメーカー・車種により差異が大きい
◎ メーカーにより名称が違い、運転者の誤認や過信を招きやすく、販売時の説明も十分とは言えない
◎ 一定面積をもつ車両の追従時に効果を発揮する
(→ 自転車などでは検知が難しい面もある)
◎ 人や自転車の急な横からの飛出しにはブレーキが作動しない場合がある
◎ 悪天候で視界が悪いとき、フロントガラスに汚れや雪が付着していあるときなどは機能しないことがある
◎ 前方から強い光を受けているとき(西日がきついときなど)は機能しにくい
◎ タイヤが見えにくい車、後方形状がはっきりしない車も検知しないことがある
注
意
表
示
例
同センターが、自動車メーカー8社にそれぞれの先進安全装置について、消費者が運転する際の注意事項を尋ねたところ、一例として衝突被害軽減ブレーキは下表のように8社すべてから「運転する際の注意事項がある」という回答がかえってきたということです。
国土交通省も装置への過信や誤解等が交通事故に結びつく恐れが大きいことに配慮し、事業用自動車運転者に対する指導及び監督の指針を改正し、「安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の運転方法」と題する項目を新たに追加しました(平成28年の告示改正による)。
同省が作成した指導・監督の実施マニュアルによると、先程紹介した大型車の事故事例などを周知し、運転支援装置の限界とメーカーによる作動等の違いを明確に理解させ、運転支援装置に頼り過ぎた運転にならないように指導するよう強調しています。
また、自動ブレーキ装置にAT車誤発進制御機能がついていると、踏切の先で前車が停止したため自車が踏切内などで停止してバーが降りてきたとき、踏切バーやバーの釣り札を装置が前車と誤感知することがあります。
このため、衝突を避けるために発進を制御し、車の動きが取れなくなる場合もあります(スバル・アイサイトなど)。最悪の場合は踏切内で「とりこ」になる危険があるのです。
こうした場合は、自動ブレーキ機能等のスイッチを切れば、バーを押して踏切外に脱出できますが、解除スイッチがどこにあるのかわからないと、運転者がパニックに陥る恐れもありますので、安全装備の解除方法も指導しておきましょう。
なお、メーカー・装置の性能によってはスイッチを手動解除しなくても、アクセルの2段操作などで脱出できる場合があります。
このほか、コンビニエンスストア等の駐車場で衝突防御柵を前車がいるものと検知して自動ブレーキが働き「前向き駐車」ができない場合に、解除が必要なケースなどもあります。
【※ 参考ページ】
●国民生活センターの調査については以下のwebサイトを参照してください。
→「先進安全自動車に関する消費者の使用実態-機能を過信せずに安全運転を心がけましょう」
(独立行政法人 国民生活センター/2018年1月18日公表資料)
●(一社)日本自動車工業会作成「過信しないで!衝突被害軽減ブレーキ」も参考になります。
(JAMA/クルマとユーザーページ掲載資料)
●国土交通省作成の指導マニュアルについては、同省のwebサイトを参照してください。
→ 「事業用自動車の安全対策─指導及び監督の実施マニュアル─」