平成29年6月に東名高速道路で、あおり運転をした運転者の行為により、あおられた車の運転者など2名が死亡する悲惨な事故が発生しました。
この事故のほかにも、後方からの無理な追い上げなどによる交通事故被害の報道が相次いで社会問題化したことから、警察庁は事態を重く見て2018年1月全国の警察本部に通達を発し、悪質・危険な運転をする運転者への取締りや指導を強化しました。
通達には、あおり運転などをする危険運転者に対しては、取締りを強めるだけでなく、とくに暴行や脅迫、車の損壊などが伴う場合は「危険性帯有者」として、点数の累積に関係なく、即180日以内の免許停止処分を科す行政処分を積極的に推進することが明記されています。
あおられたので「カッとして、あおり返した」といった事例も多いので、危険性帯有者と見られないために、軽率な運転に陥らないように指導しましょう。
■今までは、主に薬物・覚醒剤使用者などに適用
「危険性帯有による処分」とは、道路交通法の第103条第1項第8号に関係する処分のことで、一般の違反点数の累積による行政処分とは別に、運転者としての適格性に欠けて交通の危険を生じさせると考えられる場合は、違反がゼロであっても6か月以内の免許停止処分を即座に科すことができるという規定です。
2017年までは、主に薬物使用者などを対象に適用されてきました。
2016年6月に元プロ野球選手・清原和博氏が覚せい剤常習で執行猶予付有罪判決を受けたとき、危険性帯有による免許停止処分を受けたことを記憶している方も多いと思います。
ちなみに2016年1年間は危険性帯有により免許停止になった674件のうち、“あおり運転”などのケースはわずか6件にとどまっていました。
今後は、あおり運転関係が顕著に増えるとみられています。
■他のドライバーに「危険を感じさせる運転」を重視
警察庁は、「一般のドライバーに危険を感じさせる」運転を重視して、取締りと指導を強化するとしています。
具体時には以下のような内容です。
・後方からの追い上げ=いわゆる「あおり運転」
・急な割込み
・無理な追越し
・蛇行運転
・回り込んでの急停止
・幅寄せ行為
──など
各都道府県警察本部も積極的な姿勢を示していて、たとえば滋賀県警では、高速道路の上空にヘリコプターを飛ばし、パトカーと連動して車間距離不保持などを効果的に取り締まるようになっています。
■執拗で暴力的なケースは危険性帯有と認識
上記の運転に対して交通取締りを行って、さらに、捜査の過程で
●繰り返し行われて、一連の行動が暴力行為として
暴行罪を適用する場合
●通行方法のトラブルから、傷害、脅迫、器物損壊
などに至った場合
──などについては、運転者としての適格性にかけるとみなして、即、免停処分を行う方針です。
通達では他の車への執拗な妨害行為に関しては、「有形の力の行使」とみなして刑法の暴行罪の立件等を積極的に検討するように指示しています。
交通違反や交通事故で暴行罪が立件されるケースは今まで少なかったのですが、最近、以下のような事例がありました。
【急減速、事故誘発で「暴行罪」逮捕】
東名高速道路で乗用車を運転していた19歳の大学生が、他の乗用車をあおった上で急減速しながら前方に割り込んで急停止し、乗用車に衝突させて事故を誘発したとして、2018年2月27日、愛知県高速隊に逮捕されました。
愛知県警は、乗用車の衝突事故によるけが人はいなかったものの、高速道路での急停止は重大事故につながりかねない極めて危険な行為と判断し、直接殴るなどの暴力行為がなくても「暴行罪」を適用して逮捕したものです(※事故は2017年11月に発生。ドライブレコーダーなどの証拠をもとに捜査)。
【他車を蹴った行為で「器物損壊罪」逮捕】
同じく2月27日、愛知県警察は愛知県半田市で交通トラブルの際に相手の車のボディを蹴ってヘコましたとして28歳の男を「器物損壊罪」で逮捕しました。この運転者は「軽自動車が突然飛び出してきたので頭にきて必要以上に追いかけ、赤信号で停まったときに車のボディを蹴った」と供述しています。被害者の運転者にけがはありませんでした(※事件は2017年8月に発生。目撃者の撮影した携帯電話のナンバー画像などを元に捜査が行われた)。
物損事故程度であっても、危険な運転行動に対しては刑事的捜査と連携をとって「悪質な運転者を排除する」というねらいが明確になっています。
■人身事故に結びつけば適用が検討される
なお、相手の車に割り込まれたことなどが最初の原因であっても、そのために車間距離を詰めたり、相手に対して急激な進路変更、前に回っての急ブレーキなどをして、もし人身事故が起こった場合は、危険運転致死傷罪の適用が検討されます。
妨害目的の運転が危険運転致死傷罪の構成要件にあるためです。
これについても、通達では暴行罪・傷害罪・器物損壊罪などの適用とともに、積極的な捜査を行うことが指示されていますので、運転者には、「単なる罰金ではすまなくなる」「有期懲役の実刑の可能性がある」ということを強く指導しましょう。
運転者が相手にカッとして、危険な行為に走る原因としては、以下のような心理が考えられます。
・相手がノロノロ運転して、イラついた
・軽自動車のくせに大きな自車が追い越された
・先に幅寄せをされた
・突然割り込まれてカッとした
・急ブレーキを踏まれて憤慨した
相手車に悪意があるときには相手にしないで遠ざかることが大切ですが、カッとしてしまい、自分の心理をコントロールすることができなくなった場合には、争った双方が事故などの責任を負うことになります。
たとえ、きっかけは相手に責任がある場合でも自己コントロールが重要であり、公道上で自分を見失ってしまえば、もはや「危険運転者」であるということを繰り返し指導しましょう。