4月には新入社員が入社してきます。
正規従業員の入社はなくても、新たに派遣社員、契約社員を雇う部門があるでしょう。
こうした新人への安全教育実施の重要性は十分承知しておられると思いますが、公道におけ安全運転教育だけでなく、構内や事業所敷地内における事故防止指導をしっかりと実施しましょう。
雇入れ時の安全教育を実施していなかったために、労働災害や構内物損事故を起こす例が少なくありません。近年、団塊世代の退職により現場における日常的な安全ノウハウの継承が途絶えて「現場力」が低下していることも懸念されています。
なお、構内の歩行者通行路の表示・標識などには管理者に法的義務があることを意識して、管理・指導を徹底してください。
危険感受性が養われるまでは事故にあいやすい存在
新入社員が構内事故にあいやすい要因としては、以下のようなことが考えられます。
・危険に対する感受性が低い
・安全規則の意味を理解していないので、正しく守ることができない
・業務に不慣れで覚えることが多く、身の回りの安全まで注意が向かない
新入社員が、漠然と「社内は安全だ」というイメージを持っているおそれもあります。
構内であっても場所によっては大きな危険性が潜んでいることを掲示物などを通じて、具体的に呼びかけるようにしてください。
転動を防ぎ、安全確認の習慣をつける
新入社員に習慣づけたい構内事故防止のポイントの一つは、タイヤ輪止めの実践です。
業務運転経験のない新入社員は、車に輪止めをする習慣はないので戸惑うでしょうが、自動車が鉄の塊であることを再認識させるよい機会となります。
ある電話通信工事の企業では、輪止めを徹底したことで、その後の安全運転指導、構内安全指導に大きな効果があったといいます。
資材運搬用貨物車や高所作業車だけでなく軽自動車のワンボックスバンにも、必ず左後輪に輪止めをすることを義務づけました。
駐車場で輪止めのない車を見かけたら、互いに注意することも指導しました。
運転者は乗車時に輪止めを回収するため、車の一回り確認をする習慣がつき、発進時の接触事故防止に結びつきました。
また、駐車場所や構内で目には見えない傾斜があっても車が転動する恐れがなく、停車時や道具を取り出すときの事故が減少しました。
社外でも必ず輪止めをしている姿が見られるため、市民から「この会社はしっかりしているな」と評判になっています。
「少しの間なら」という油断が事故に結びつく
トラックやバスなどプロの運送事業者では駐車時の輪止めは常識です(普通は前輪)。
しかし、納品時に伝票を届けるときなどは、「面倒だ」「少しの時間なら、大丈夫」と輪止めをおろそかにすることがあります。
門の近くなどは意外に傾斜のあることが多いため大事故が発生する危険があります。
この時期、新入社員に指導を徹底することで、ベテラン運転者にも自覚を促しましょう。
事業所の門内で停車したトラックが動き出し、工事の作業員を轢過
2017年9月4日 群馬県藤岡市の資材メーカーの事業所敷地内で、わずかに傾斜した場所に停めた3.5tトラックが動き出し、敷地外の工事現場まで無人走行して、そこにいた作業員を轢いて死亡させる事故が起こりました。
トラックは資材配達のため事業所敷地内に入り、入り口の門から約15m先の場所で、道路側に車両の前方を向けて停車しました。
ドライバーが伝票を持ってトラックから降り、事業所の建物に入ったとき車が動き出し、たまたま正面で道路工事をしていた現場に向かっていったということです。
トラックドライバーは「パーキングブレーキをかけて、エンジンを切った」と供述していますが、輪止めはしていませんでした。
警察は、停車措置が甘かったため、わずかな傾斜でトラックが動き出したとみています。
パーキングブレーキをかけたつもりでも、ひきが甘くて車が動き出すことはあり得るのです。
群馬県トラック協会では、この事故を受けて停車時の措置として以下の4点を徹底するように会員事業者に呼びかけました。
【停車・駐車時の安全措置】
・停車時はパーキングブレーキを確実にかける
・エンジンを停止する
・ギアロック(マニュアル車はギアをニュートラルではなく、1速やバックなどに入れる)
・タイヤが動かないように輪止めを置く(外し忘れを防ぐため、普通は前輪)
人と車を分離することで、事故防止を図ろう
構内では、他社の車が入ってくることもありますので、作業員が事故にあう危険を防ぐために、構内走行の安全ルールを決めて、運転者に周知していると思います。
しかし、ルールを決めてもうっかり違反してしまう運転者がいます。なるべくスペース的に歩車分離を徹底して、歩行者と車が出会う危険を少なくすることも大切です。
【白線等で歩車分離を見える化】
製造メーカーなどでは、すでに徹底されていると思いますが、構内道路では歩行者が歩くべき場所を白線で区別し歩道部分を緑色に色分けしたり、横断が必要な場所には横断歩道標示と止まれ標識などを設置している例がよく見られます。また、蛍光テープなどを貼って夜間に目立つ工夫をしている事業所もあります。
【車両の走行経路と歩行者経路を完全に分離】
工場によっては、歩行者が多い場所を車が通行しないように、トラックや外部の車両が工場の資材置場などに入る道路を新たに設置して、自動車専用ルートのように分けているケースも少なくありません。
こうした工場でも、まれに歩行者が自動車専用ルートを横断しなくてはならない場所があります。この場合、指定横断場所に標識と横断旗をおき、歩行者が横断時に旗を持って歩くように義務づけて、歩行者・運転者双方の意識を喚起する工夫などをしています。
なお、労働安全衛生法では、危険な場所には歩行者用通路を「安全通路」として確保し表示する法的な義務が定められていることを認識しておきましょう。
構内死亡事故で書類送検──安衛法(安全通路表示義務)違反
2017年7月29日 鹿児島市の運送会社N運輸の構内で女性従業員が大型トラックにひかれて死亡しました。
事故は、トラックの発着場所となっているスペースの中を休憩所から作業場(倉庫)入り口 に向かって通行していた女性(57歳)が、ホーム付けのためバックしてきた取引先のトラックにひかれて亡くなったものです。
この構内事故を捜査していた鹿児島労働基準監督署は、2018年3月19日に、N運輸と同社の取締役の男性(63)を労働安全衛生法違反(安全通路表示義務違反)の容疑で書類送検しました。
従業員に作業場への通り道として使用させている主要な通路であり、トラックと従業員が接触する恐れがある場所のため、通路に人が歩く安全通路であることを示す表示を行う義務があるにもかかわらず、表示していなかったことが事故の原因の一つとされました。
【違反条文── 労働安全衛生法違反】
労働安全衛生法第23 条
労働安全衛生規則第540 条第2項(安全通路)
→ 同法第119 条第1号(6月以下の懲役又は50 万円以下の罰金)
→ 同法第122 条(法人への両罰規定)
【参考ページ】
※厚生労働省関連WEBサイト → 「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」
(製造業向け/陸上貨物運送事業向け/商業向け)
※厚生労働省関連WEBサイト → 「安全プロジェクト『見える』安全活動コンクール」
(安全通路等の具体例が閲覧できます → 2016年応募例 ・ 2017年応募例)
※労働安全衛生法違反の報道資料/鹿児島県労働局
「労働安全衛生法違反(安全通路表示義務違反)の疑いで書類送検 (PDFファイル)」