プロドライバーの睡眠不足による居眠運転事故の防止を図るため、国土交通省は、旅客自動車運送事業運輸規則などの省令をこのたび改正し、バス・タクシー運転者の乗務禁止事項に「睡眠不足」を追加します。
点呼時の確認報告事項にも睡眠不足の有無を加えます。
4月20日に改正された運輸規則が公布され、2018年6月1日に施行されます。
【改正事項のポイント】
睡眠不足による事故抑止を図る
2016年3月に山陽自動車道・八本松トンネル(東広島市)で発生した中型トラックによる多重事故(死者2名)ではドライバーが過酷な勤務のため、睡眠不足による過労状態であったことが原因とされています。事故の前々日には36時間の乗務があり、その間に一睡もしていないという超人的な業務を続け、居眠運転に陥ったものです。
単なる個人の都合による寝不足とは言えず、業務の構造から否応なく睡眠不足に陥っています。
一方で事故運転者は国土交通省の調査に対して「疲れているとか、眠いということは、弱音を吐いていると思われるので運行管理者に言えなかった」と供述しています(※「事業用自動車事故調査報告書」№1644104より)。
このような「本音を言えない」状況が、過労運転事故多発の背景にあります。
国土交通省では、今回の改正により運転者の自主的な申告を促すとともに、運送事業者が点呼時などに運転者の眠気に配慮し、安全運転の確保ができるかどうかをしっかり確認する意識をもたせることで、睡眠不足が原因となる事故の防止を一層推進したい意向です。
■睡眠時間が「何時間必要」という基準はない
睡眠時間が何時間あれば十分かは個人差があるため、今回の改正では、睡眠時間が一定以下であった場合は乗務させてはならないなどといった基準は設けられていません。
そこで、国土交通省では、「運転者からの申告の他、運転者の顔色、仕草、話し方も含めて普段の様子と違うところがないかどうか等から総合的に確認してもらうことが重要」とアドバイスしています。
■6~7時間睡眠をとるように指導しよう
一方で同省の「指導実践マニュアル」では、従来から6~7時間の連続した睡眠をとるよう指導することを推奨していますので、このあたりが一般的な指導のラインといえます。
※ 詳しくは国土交通省のWEBサイトを参照
■運転者の25%が睡眠5時間未満
──国土交通省調査
国土交通省が2017年の春に全国のバス運転者約 7,000人を対象に実施したアンケート調査によると、4人に1人が1日当たりの睡眠を「5時間未満」と答えていました。
また、1日の拘束時間が「13時間以上」と答えた運転者は約2割に上っています。
この調査は2017年3月31日から5月26日にかけて実施されたもので、全国のバス運転者(乗合・貸切)の約5.4%にあたる7,083人に対して直近4週間の勤務状況などを質問しました。
国土交通省(厚生労働省)の改善基準告示によると1日の拘束時間は「原則13時間以内」と定められていますが、実際には回答者の約19%は「拘束13時間以上」と回答しました。
長い拘束時間は、当然のごとく睡眠時間の不足に響いてきます。
睡眠時間について基準告示に規定などはありませんが、回答者の平均睡眠時間は、「5時間未満」が24.9%、「5~7時間」は63.7%、「7時間以上」は11.4%でした(仮眠時間は除く)。
(※資料出所:「バス運転者の労働時間等についてのアンケート結果」2017.6.30国土交通省)
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