朝礼や点呼の機会に運転免許証のチェックをしている事業所は少なくないと思いますが、チェックが形式化して実際には免許証の更新期限などをしっかりと確認していないケースも多いようです。
このため、うっかり失効から無免許運転に陥ったり、違反累積で免許停止などの処分を受けながら、事業所に無免許運転を隠して運転して、事故の際に発覚する例があります。
また、直前に免許有効期限が迫っていることがわかり、運転業務に支障が出るといったケースも考えられます。
免許証の有効期限の管理や携帯状況のチェックを確実に実施しましょう。
市職員が、7年間も無免許運転──停職処分
2018年1月、静岡県富士市で約7年間無免許のまま公用車や自家用車を運転していたとして男性職員(33)が停職6カ月の懲戒処分を受けました。
職員は運転免許を取得した経験がないにもかかわらず、2011年ごろからマイカーで通勤し、月に数回は同市の公用車を運転することもありました。
同市では、今まで抜打ちによる免許証の確認を行っていましたが、この職員が公用車を運転する頻度が低いため、無免許運転を発見できなかったということです。
無免許運転が発覚したのは、2017年12月に市立中学の教諭が道路交通法違反(無免許運転)で逮捕されたことが発端です。この事件を受けて、市が全職員を対象に免許証の確認調査を実施したところ、当該職員の無免許運転がわかりました。
危機管理担当職員が、免許証失効後も無免許運転──停職3か月
静岡県は2018年2月、通行禁止違反をした際に無免許運転がわかって警察に現行犯逮捕された県の危機情報課男性課長(54歳)を停職3か月の懲戒処分にしました。
この課長は運転免許証が2014年4月に失効していたことを知りながら更新せず、2015~2017年度に県や当時出向していた湖西市が行った計4回の調査に免許証の有効期限を偽って報告していました。
また、湖西市の危機管理監として勤務していた当時、9回にわたって無免許で公用車を運転していたということです。
県はこれを受けて、病欠や育児休暇中を除く職員約1万7千人の運転免許証の確認調査を実施したところ、4人が過去の失効期間中の運転を認めたほか、2人が失効に気付いた後に更新手続きを取ったものの、気付くまでは無免許運転をしていたことがわかりました。
居眠事故の運転者─前日の急な免許証更新で過重労働に拍車がかかる
八本松トンネル事故の実情──計画より1日出発が遅れる
2016年3月17日に山陽自動車道・八本松トンネル(東広島市)で発生した中型トラックによる多重追突事故(死者2名)では事故を起こした運転者(33歳)が過酷な勤務のため、睡眠不足による過労状態であったことが原因とされています。
この事故を分析した国土交通省の「事業用自動車事故調査報告書(平成29年11月29日)」によると、事故前日にトラック運転者は免許証の更新に行かねばならず、計画より1日出発が遅れてしまったにもかかわらず、当初計画通り翌日(事故当日)に目的地に着くように指示を受けていました。
結果的に非常に厳しいスケジュールを指示されており、このことも居眠運転事故発生の要因として指摘されています。
運行管理者は免許書の有効期限が迫っていることに気づかなかった
運転者は事故前3か月間の勤務で、休日が年末年始の6日間のほかは3日と極端に少なく、事故の3日前から前々日には、一睡もすることなく約36時間の乗務を続けていたという過酷勤務でした。
この事故の本質的な要因は、長時間労働と睡眠不足にあると考えられ、免許更新による出発の1日遅れがなくても、いずれは過労運転に陥る可能性のある業務状況であったようですが、国土交通省は調査報告書で、
「事業者では、始業点呼時に運転免許証を確認することとしており、事故前々日の点呼記録でも確認した記録が残っている。
しかし、運行管理者は運転者の免許証の有効期限が迫っていることを、運転者からの事故前々日の電話連絡の後に初めて知ったものであり、点呼時の確認は実効性を伴っていなかったものと考えられる。平素から運行管理者が免許証の有効期限を確認し、余裕を持って更新手続を行うよう指導していれば、このような無理な運行を防ぐことができた可能性が考えられる」
と、指摘しています。
※「事業用自動車事故調査報告書 №1644104」平成29年11月29日(国土交通省)より作成
こういった免許関係の事例を他山の石として、事業所における免許証チェックが形骸化していないか、今一度現場に確認しておきましょう。
●免許証の携帯確認だけでなく、必ず有効期限をチェックする
よくあるのは、運転者が免許証を携帯していることをチラッと見せるというケースです。実際には有効期限が切れた(失効した)免許証であっても気づかないことも多いので、免許証を受け取ってしっかりと確認するようにしましょう。
管理者が真面目にチェックする姿勢を見せれば、運転者も免許証の有効期限が迫っていることなどの状況を正直に申告するようになります。
●管理ソフトに免許証情報を登録して、更新を勧告
事業所によっては、運転者の免許証情報をすべて運行管理ソフトに入力して、毎月、有効期限が近づいた運転者の一覧表を出力し、点呼時に指導するシステムを取っているところがあります。
早めの更新を促せば、本人にとってもうっかり失効の防止になります。
●アルコール検知と連動する
点呼時のアルコール検知が義務づけられている自動車運送事業所の中には、免許証をスキャンする機器を設置し、機器に免許証を通さないと出発前の検知が受けられないシステムを導入しているところがあります。
この方法をとれば、必ず免許証の状況を調べることができます。
●年に1回は運転経歴証明書をチェック
違反が累積し、免許停止処分や免許取消処分を受けている運転者が、事業所の定期的な確認時に免許証を家に忘れたなどと言って追及を逃れることがあります。
そうした場合に効果があるのは運転経歴による調査です。無事故・無違反運動などを毎年実施して優良ドライバーを表彰している事業所では、全員の同意を得て自動車安全運転センターの発行する「運転経歴証明書(無事故・無違反証明書)」の取得を行っています。
この証明書で調査すれば、違反・事故の状況から処分の実態が把握できます。
【免許証の区分・条件についても、確認しておこう】
なお、2017年3月12日の改正道路交通法施行により、準中型自動車免許が導入され、自動車の種類が細分化されました。このため、勘違いや錯誤から知らないうちに運転資格のない車両を運転してしまう可能性もあります。
免許証のチェックをするときには、免許の区分と限定条件などにも目を配りましょう。
※全日本トラック協会は、準中型免許制度に伴い免許の区分と運転できる車種との関係をわかりやすく
整理したポスターや免許種別確認用パンフレットを発行していて、参考になります。
※詳しくは → 同協会のWEBサイトを参照してください。
点呼実施は貨物運送事業の運行管理者にとって毎日の責務ですが、いざドライバーと向き合ったときに何を話したらいいのか、戸惑う管理者も少なくありません。
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