運転中の禁煙を指導する事業所が増えています。タバコは運転者の健康を損なうだけでなく、わき見運転などの危険を誘発するからです。
あなたの事業所では、すでに禁煙措置を徹底していますか?
最近、喫煙者の交通事故死亡リスクを訴える研究結果も公表されましたので、この機会にぜひ検討してください。
■喫煙者は交通事故のリスクが高まる
さる7月4日、東北大学大学院歯学研究科の相田潤准教授らは「喫煙者は交通事故リスクが高まる」という研究成果を明らかにしました。
同准教授らの研究チームは、1993年当時の茨城県内38市町村における基本健康診査受診者(40~79歳) 97,078人を対象として、20年間追跡調査をした結果、男性ではタバコを1日20本以上吸うことが交通事故死亡リスクを高める可能性があることがわかりました(女性は喫煙者数が少なく死亡事故例がないため解析不能)。
研究では対象者を「非喫煙者」、「過去喫煙者」、「1日20本未満吸う現在喫煙者」、「1日20本以上吸う現在喫煙者」に分類し、年齢、飲酒状況の影響を含め、関係性を調査しました。
その結果、男性の事故による死亡リスクは非喫煙者を1とした場合、過去喫煙者が1.13、1日20本未満の現在喫煙者で1.32、1日20本以上吸う現在喫煙者では約1.54倍の高リスクであることがわかりました。
研究チームは、「研究では運転中の喫煙ではなくベースラインでの喫煙習慣を用いていて、鉄道事故なども含んでいるのでリスクを過小評価している可能性がある。車の運転者だけで統計をとることができれば、実際はもっとリスクが高くなるかも知れず、運転中の携帯電話の使用と同様、車内での喫煙の規制検討を支持する」と警鐘を鳴らしています。
(※図・データは「喫煙者は交通事故死亡のリスクが高い傾向/東北大学大学院プレスリリース」より引用しました)
■タバコを探して追突、押し出され
た車が正面衝突
2011年7月25日、愛媛県今治市内の瀬戸内しまなみ海道で、中型トラックの運転者が「ドアポケットに入れていたタバコを探していて、一瞬目を離した」すきに前方の乗用車に追突しました。この事故で対向車線に押し出された乗用車が大型トラックと正面衝突して乗用車の2人が死亡、3人が重軽傷を負いました。
■タバコに火をつけようとして
わき見、横断者をはねる
2012年9月17日、愛知県安城市内の市道で、「タバコに火を点けようとしてわき見をした」29歳男性の運転する乗用車が、徒歩で道路を横断していた66歳の女性と衝突し、女性が死亡しました。
■タバコの灰を灰皿に入れようと
わき見、路肩に突っ込む
2015年9月19日、豊田市の猿投グリーンロードで、「タバコの灰を灰皿に捨てようとして、前を見ていなかった」乗用車が、路肩にバイクを止めて集まっていた少年5人を次々にはねました。
この事故で1人が死亡し、4人が重軽傷を負っています。
■落ちたタバコを拾おうとして追突
2014年5月9日、埼玉県内でバス停に停車していた路線バスに、「車の中でタバコが落ちて拾おうとして」わき見運転をした大型トラックが追突し、10人がけがをする事故がありました。
■タバコの火を消そうとして正面衝突
2010年2月23日、広島県世羅町内の国道で、「タバコの火が足元に落ち、これを消そうと足元を見ていた」36歳男性の運転するトラックが対向車線へ逸脱して軽ワゴン車と正面衝突する事故を起こしました。この事故で軽ワゴン車は大破し、乗っていた男女3人が死亡しました。
タバコを取るためにわずか2秒程度のわき見をしただけのつもりであっても、高速道路上では時速80キロで44m、時速100キロなら55m以上は進行します。
この間に前車がブレーキを踏んだりすると、衝突は免れません。
タバコによるわき見事故は、「ながらスマホ」などによる事故と同様、刑事罰の判決には以下のように非常に厳しい判決例がみられます(運転者の情状を考慮したうえであっても実刑判決が下されています)。
■渋滞への玉突き衝突で禁錮2年6か月
2007年9月7日、石川県能美市の北陸自動車道で、トラック運転者がタバコを吸おうとしてわき見運転し、別の事故で渋滞していた車列に衝突し計4台が絡む玉突き事故を起こしました。この事故で2人が死亡し別の運転者ら2人が軽傷を負いました。
事故の刑事裁判で金沢地裁の裁判官は、「わき見運転による過失は重大。被害者家族の無念さは察するに余りある」とした一方で「約30年間にわたって無事故無違反だった運転者は、罪を認めて反省している」と情状を考慮したうえで、2008年1月11日に禁錮2年6か月の実刑判決を下しました。
■高速道路の停止車追突で禁錮1年2か月
2013年7月26日、愛知県の伊勢湾岸道路で車両の不具合のため第2走行車線に停止していた乗用車に大型トラックが追突し、乗用車の乗員4人のうち3人が死亡する事故が発生しました。
事故時に大型トラックの運転者は「タバコを取ろうとして前をよく見ていなかった」と供述しました。
刑事裁判の公判で名古屋地裁の裁判官は「夜中に本線上で停車していた状況を考えると被告を強く非難することはできない」としながらも「乗用車がハザードランプを点滅させて止まっていたのを見落として追突しており、前をよく見ていなかった過失を軽くみることはできない」として、2014年9月29日、禁錮1年2か月の実刑判決を言い渡しました。
■信号を見落とし横断歩道で轢過し、懲役3年
2012年3月16日、北九州市八幡西区でわき見運転のトラックが、青信号に従って横断歩道を横断していた小学生2人をはねて1人が死亡しました。トラック運転者は「タバコを消そうとして火が気になり、赤信号に気づきませんでした」と供述しました。
刑事裁判の公判で福岡地裁小倉支部の裁判官は「タバコの火消しに気を取られ、赤信号を通過した被告の過失は重大で刑事責任は重い」として、2012年5月31日、懲役3年の実刑判決を言い渡しました。
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わずか1本のタバコが、まさに被害者・加害者の人生を奪う結果となっています。
長年の喫煙習慣は、心臓病や脳血管疾患の危険因子にも挙げられています。これらの事例を参考に、運転者に喫煙の危険性について指導してください。
タバコに含まれるニコチンは依存性が強く、一度依存してしまうとなかなかその習慣を断ち切ることができません。
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