あおり運転など、他車に危険を感じさせる運転者への取締りについては各地の警察本部が力を入れ非常に厳しくなっていますが、民事訴訟でも厳しい判断が下されています。
今回は、前車にあおり運転をして、車の直前に車線変更をする割込み行為で急ブレーキを踏み追突された事故で、追突した車の損害賠償責任を認めなかった事例を紹介します。
【事故の状況】
2013年(平成25年)11月22日午後10時40分ごろ、運転者のAは普通乗用車を運転して名古屋市緑区にある直線道路の第3車線を時速50~60キロで走行していました。
そこへ、後ろから別の乗用車を運転するBが第1車線、第2車線が空いているのに、Aのすぐ後ろにつき左右に動いてヘッドライトを上向きにするなど、いわゆる「あおり行為」をしてきました。
そこでAは、合図をして第2車線に移行し時速50キロ程度で走行していたところ、Bは第3車線から第1車線まで一気に進路変更した後、合図することなくAの前に車両1台分程度空けて進路変更してきました。
このためAは、スピードを落として車間距離を保とうとしたところ、Bが急ブレーキをかけたためAも急ブレーキを踏み一度は追突を免れました。
しかし、2~3秒後に再度Bが急ブレーキをかけたため、Aはブレーキを踏んだものの、ほとんど停止する寸前で追突しました。
【急停止したB側が損害賠償を請求】
Bは、この追突事故についてAに責任があるとして、バンパーひび割れの修理費41万円、頚椎捻挫の治療費5万円、慰謝料19万円などの損害賠償として約73万円を請求しました。
Aは、請求は過大であり、あおり運転をしていたBに責任があって、自分には過失はないと主張して全面的に争いました。
【故意に事故を起こさせた者が、過失責任を問うことはできない】
裁判所は、次のような理由から、Aの損害賠償責任を否定しました。
○Bは故意に急停止した
Bは、他の合流車両は存在しないなど正当な理由もないのに2回の急ブレーキをかけており、危険を防止するためにやむを得ない場合を除き急ブレーキをかけてはならないという道路交通法第24条の注意義務を怠っている。
Bはその前からあおり行為して不適切な車線変更をしていたことを考慮すると、Bの急ブレーキには故意があったものと推認される。
○追突事故もBが誘発
Aが追突した過失は否定しがたいところであるが、車間距離が車両1台分程度である状況を作り出し、急ブレーキを2回かけたのもBであり、故意にそのような運転をしたBが事故を誘発したものである。
○故意に違反をして過失責任を問うのは信義則上許されない
故意に道路交通法違反の運転をしたBが、Aの道路交通法違反の過失責任を問うことは、信義則上許されないというべきであり、Aに事故の損害を賠償すべき責任はない。
【名古屋地裁 2016年(平成28年)1月22日判決】
※判決文は、交通事故民事裁判例集 第49巻第1号 72~78頁より引用しました。
「あおり運転」という道路交通法上の違反用語はありませんが、事例のように悪質・危険な運転をするドライバーに対しては、車間距離不保持、進路変更禁止違反、急ブレーキ禁止違反、追越し方法違反、減光等義務違反、警音器使用制限違反などが適用されます。
2017年6月に東名高速道路で、あおり運転をした運転者の行為により、本線上で停止させられた車の運転者など2名が死亡する悲惨な事故が発生したことなどを受けて、警察庁は2018年1月に、いわゆる「あおり運転」の取締りを厳正に行う旨の通達を全国の警察本部に発しました。
その後、各警察本部ではヘリコプターによる道路監視などを駆使して、積極的な取締りを行っています。通達が示したポイントは以下のとおりです。
■即「免許停止180日間」処分を実施!
道路交通法の第103条第1項第8号に
関係する処分
●車間距離不保持、急ブレーキ禁止違反
など、いわゆる「あおり運転」の積極
的な取締りを行う。
●暴行、脅迫などで他の車に危険を生じ
させる運転者は「危険性帯有者」とし
て、過去の違反点数の累積に関係なく、
即180日以内の免許停止処分を科す。
■暴行罪、脅迫罪なども積極的に適用
道路交通法だけでなく、
刑法の適用を検討する
●あおり行為が繰り返し執拗に行われた場
合は、一連の運転行動を暴力行為として
暴行罪の適用を積極的に検討する。
●交通事故捜査の段階で、通行方法のトラ
ブルから、傷害、脅迫、器物損壊などに
至ったことが判明した場合は刑事部門の
捜査と緊密に連携する。
■危険運転致死傷罪の適用も視野に入れる
車間距離を詰めたり、相手に対して急激な進路変更、前に回っての急ブレーキなどあおり運転により、人身事故に至った場合は、客観的な証拠資料の収集に努め、危険運転致死傷罪の立件を検討する(「妨害目的の運転」が危険運転致死傷罪の構成要件にあり、後続車が撮影したドライブレコーダーの映像などが証拠となって適用されている例があります)