睡眠時無呼吸症候群(SAS)で事故を起こしたら

最近、居眠り運転による事故をニュースでよく目にするのですが、中には睡眠時無呼吸症候群(SAS)による事故も少なからず含まれていると思います。弊社ではこれまで特に対策をしていないのですが、万が一、SASによって交通事故を起こした場合、事業所はどのような責任を負うのでしょうか?

■睡眠時無呼吸症候群(SAS)による交通事故

 睡眠時無呼吸症候群(以下「SAS」といいます。)は、睡眠時の呼吸障害によって質の良い睡眠が取れず、通常は日中の強い眠気や疲労等の自覚症状を伴いますが、突然意識を失うような睡眠に陥ることもあります。

 

 SASは、自動車を運転する能力を低下させることが明らかになっており、重度のSAS患者は、短期間に複数回の事故を引き起こすこともあると言われています。

 

 道路交通法第90条1項1号ハ、及び同法施行令第33条の2の3第3項2号は、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害を有する場合は、運転免許を与えず、または保留の対象となると定めていますが、SASにより重度の睡眠障害が生じている場合には、同条項に該当することになります。

■SASによる交通事故における責任

 通常、SASによる交通事故のほとんどは、具体的には居眠り運転として発生することが多いといえ、多くの場合は、何らかの過失が認定され、運転者は責任を負うことになります。

 

 ただ、民法713条本文は、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。」と規定しており、SASによって予兆もなく突然意識が無くなって事故を生じさせた場合など、具体的状況によっては、同条が適用され、運転者が民事上の責任を免れる場合も考えられます。

 

 また、刑事上の責任についても、何の予兆もなく意識不明となり、事前に予見できた可能性や、結果を回避できた可能性がないようなケースの場合、運転者本人の責任を問うことはできず、無罪とされる場合があります。

 

 裁判例にも、民事上の責任を認めなかった事例や、交通事故について刑事上無罪の判決をした事例があります(民事上の責任について京都地裁平成13年7月27日判決、刑事上の責任について千葉地裁平成25年10月8日判決など)。

 

 以上のように、SASが原因となる事故において、責任を免れた事例は存在しますが、SASが原因となっている事故でも、その大部分は運転時、あるいは運転前に居眠り運転の予兆等があるなど、運転者に注意義務違反等が認められる事例が多く、SASが原因であれば、それだけで運転者が責任を免れるというものでは決してありません。

 

 前述の民法713条はその但書で、「故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。」と規定しており、また、SASが原因ではない事例ですが、運行供用者責任責任については、民法713条は適用されないとして同責任を認めた事例もあります(東京地裁平成25年3月7日判決)。

 

 刑事上の責任についても、通常の居眠り運転等と同じく、その予兆を感じていたり、前方不注視等の義務違反が存しているような場合には、無罪とはいえません。

■運行管理をふまえた会社におけるSAS取扱い

 以上のとおり、SASが原因となる交通事故においても、会社としては、通常の事故と同様、使用者責任や運行供用者責任を負うことになります。

 

 SASが交通事故の危険を増大させる以上、会社としては、同危険を防止する措置を採るべきです。

 

 会社は、運転者に対してSASと運転における危険性についてや、適切な健康管理を行うことの必要性、重要性を理解させなければなりません。

 

 また、本人の自覚症状に基づく申告を確認するだけではなく、SASスクリーニング検査を受けさせるなどし、症状の把握や治療の促し等、適切な行為を行う必要があります。

 

 SASスクリーニング検査については、全日本トラック協会や各都道府県のトラック協会、バス協会で、助成金事業の対象となっているものもあります。

 

 さらに会社において、乗務の管理や点呼におけるチェックや、睡眠教育等の充実といった措置を採ることも考えるべきですし、社内規定としてSASの取扱規定を作成しておき、SAS検査や検査後の対応、治療の継続的チェックや支援、業務配置などの対応がスムーズに行えるようにしておくべきでしょう。

 

 なお、業務配置等を再検討しなければならない場合もありえますが、SASであることを理由に従業員に対して差別的な取扱いをすることは許されませんし、プライバシー管理は適切に行わなければなりません。

■まとめ

 現在までのところ、会社がSASに対する対策を採っていないこと自体が直ちに過失とされるとまではいえませんが、SASへの理解が深まるに従って、今後、会社として対策を採るべき事項になっていくと思われます。

 

 また何より、SASを原因とする交通事故は、会社の対応によって防止できるケースが多いといえますので、その対応を再確認しておくべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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