道路交通法が適用されるのは基本的に「道路」に限られると思うのですが、工場の構内や駐車場などの「道路外」で事故を起こした場合、運転者や会社はどのような罪や処分に問われるのでしょうか?
道路交通法上の道路ではないところは、「道路外」といわれ、道路か道路外かで道路交通法の適用の有無等において、違いが生じます。
まず道路交通法上の道路とは、道路法第2条1項に規定する道路(いわゆる公道)、道路運送法第2条第8項に規定する自動車道(専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のもの)のほか、「一般交通の用に供するその他の場所」をいいます(道路交通法第2条1項1号)。
「一般交通の用に供するその他の場所」を含みますので、私有地であっても、交通の状況からみて不特定の人や自動車が自由に通行できる場所で、現実に通行に使用されている場所であれば、道路交通法上の「道路」とされる場合があります。
ただし、一般に開放されている駐車場などの全ての部分が「道路」とされてしまうと、コンビニエンスストアなどの商業施設の敷地のほとんどが「道路」とされて道路交通法の適用があることになり、そうなると、例えば自分の敷地を利用するためにいちいち道路使用許可を取らなければならないのか、などという問題も生じます。
そのため、実際に争われる事案では、当該事故が発生した場所の立地や広さ、利用状況、交通状況等の種々の点を勘案して、同地点が道路交通法上の道路とされるかどうかが慎重に判断されています。
他方、例えば進入するのに管理者の許可を要し、通行するのが限られた者に限定され、不特定多数の者が自由に通行できないような場合には、道路交通法上の「道路」に該当せず、道路外となります。
一般に、交通事故が生じた場合の法的な責任は、①刑事責任、②民事責任、③行政上の責任が考えられますが、道路外の事故の場合、とくに③について扱いが異なる場合があります。
交通事故における刑事責任は、その生じた人身事故の態様や傷害結果によって、刑法上の責任、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律による責任、道路交通法上の責任が生じます。
このうちいわゆる人身事故について、すなわち自動車運転過失致死傷など、被害者に生じた死亡やけがの結果に対する刑事責任については、基本的には道路外の事故で生じた場合でも変わりありません。場所がどこであっても、自動車の運転によって死亡や傷害の結果が出ている以上、扱いを変える理由がないからです。
ただし、道路交通法上で罰則が定められている規定には、道路上で起きた事故であることを前提とするものがあります。その場合、「道路外」での事故には適用がありません。裁判例でも警察への報告義務がないとされた事例(東京高裁平成17年5月25日、松山地裁平成21年7月23日)や、酒気帯び運転の適用や報告義務がないとされた事例(大分地裁平成23年1月17日)があります。
しかしながら、これらの裁判例は、それぞれ事故の場所が道路外かどうか、すなわち道路交通法の適用を受けるのかどうかを慎重に検討して判断されているものであり、実際に事故が生じた時に、道路か道路外かを直ちに判断することは困難な場合が多いので、場所がどこであれ、交通事故が生じたらまず通報等をすべきです。とくに人が死傷しているような場合には、速やかに救護や報告等を行わなければなりません。
民法上の不法行為責任、使用者責任、自賠法の運行供用者責任等の損害賠償責任については、道路外の交通事故でも道路上の交通事故でも、その責任は変わるものではありません。
運転者本人、及びその使用者である会社も、損害賠償義務を負うことになります。
ただし、道路外には道路標識等もなく、優先道路等が決まっているわけでもないことが多いため、事故が生じた場合の過失割合の算定が難しくなる場合があり、その点が争われる事例もあります。
さらに、自賠責保険は、道路上の人身事故を対象としていますので、道路外の事故の場合、自賠責保険が利用できないことになります。この場合、道路外の場合に適用される任意保険に加入していない場合には、保険等を利用して損害の補填をすることができないことになります。すなわち,むしろ道路外の事故の方が被害者に損害の補填がされない場合も考えられますので、注意が必要です。
交通事故が生じた場合の行政上の責任の根拠は主に道路交通法に規定される道路上に関する行為についての責任です。
そのため、道路外で速度超過や一時停止違反等にあたる行為をしたとしても、そもそも道路交通法での規制がされていませんので、行政上の責任は生じないことになります。
しかし、人身事故が起きた場合、すなわち人の死亡や傷害の結果が生じた場合には、道路交通法第103条第1項第7号は、道路外致死傷をしたときには運転免許の取消しや停止をすることができる旨を規定し、同条第2項5号は、道路外致死傷のうち、故意による場合、または自動車運転過失致死傷に該当する場合には、運転免許の取消しがされることを規定しています。
このように、道路外においても、人身事故があった場合には、行政上の責任が定められています。
以上からすれば、道路外と思われる場所での事故であっても、特に人身事故については各責任に大幅な変わりはないと考えておくべきであり、事故が生じた場合には、通常の交通事故と同様の義務が存すると考えて行動すべきです。
なぜなら、まずそもそも道路交通法上の道路かどうかの判断は種々の要素を考慮してなされるものですので、その場で一般的に判断することは困難といえます。
また、道路外とされて報告義務等がないとしても、実際に死亡や傷害の結果が出ているのですから、被害者の救護や報告はすべきです。これらを放置すれば、道路交通法の責任はともかく、刑事責任の情状が悪くなったり、損害賠償額が増大したりする不利益を受ける可能性があります。
会社としては、道路外であったとしても、安全運転をするよう指導し、事故が生じた場合には、救護や報告を怠らないよう指導すべきです。
(執筆 清水伸賢弁護士)