スタッドレスタイヤの交換を怠ると・・・

弊社は非降雪エリアに立地していますが、北国への出張もあるため、冬場はスタッドレスタイヤに履き替えています。これから日に日に気温が下がっていきますが、タイヤの交換時期に悩んでいます。そこでお尋ねですが、万が一ノーマルタイヤのまま雪道で事故を起こせば、ドライバーと会社はどのような罪に問われるか教えてください。

■雪道対策についての道路交通法上の責任

 道路交通法第71条は、運転者の遵守事項を定めており、その6号では、「前各号に掲げるもののほか、道路または交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」を守らなければならないと規定しています。

 

 反則金を納めれば罪に問われませんが、同条同号に違反した場合には、5万円以下の罰金(同法第120条1項9号)という刑事上の罰則も定められています。

 

 そして、積雪や凍結している道路における運転者の義務は、この同法71条6号に基づき、各都道府県の公安委員会が定めた道路交通法施行細則や道路交通規則において規定されています。

 

 これらの規定の文言は、都道府県によってそれぞれ若干の違いがありますが、沖縄県以外の全ての都道府県で、運転者の義務として積雪や凍結の道路において運転する場合には、チェーンやスタッドレスタイヤを取り付けるなどの滑り止めの措置を講ずべきことを定めています(なお、沖縄県の道路交通法施行細目には、運転者の義務として積雪や凍結に関する規程は定められていませんが、これは気候的に規定する必要がないことが理由と思われます)。

 

 そのため、積雪や凍結して滑るおそれのある道路において、チェーンやスタッドレスタイヤ等の取り付けをせず、ノーマルタイヤのまま走行すれば、運転者は道路交通法第71条6号違反となります。

■雪道対策を怠って生じた交通事故の責任

 上記の責任とは別に、ノーマルタイヤのまま雪道を走行し、交通事故を生じさせた場合は、民事上の不法行為責任(損害賠償)の問題が生じます。

 

 チェーンやスタッドレスタイヤの取り付けなどの雪道対策をせず、ノーマルタイヤで走行していた場合、そのように雪道対策を怠ったことが当該交通事故の発生や拡大に繋がった場合には、運転者の過失と損害との因果関係が認められますので、運転者に不法行為責任(民法第709条)が生じ、被害者に対して損害賠償をする義務を負います。 

 

 また、運転者が被害者であった場合でも、ノーマルタイヤのまま雪道を走行するような雪道対策の懈怠が、事故発生に関わる被害者側の過失とされた場合には、過失相殺されることになると考えられます。

 

 一方、業務上運転者を使用していた会社には、この場合の交通事故でも、通常の交通事故と同様、運行供用者責任(自賠法第3条)や使用者責任(民法第715条)を負うことになります。

 

 また、会社が明らかに雪道対策をすべきと考えられるような業務を行う場合にさえ何ら指導等もせず、あるいは物理的に雪道対策をしないような対応をしていた場合、そのような会社の対応が,雪道対策をあえて採らずに運転者に運転をさせたと評価されれば、会社自身が被害者に対して直接不法行為責任を負うこともありえます。

■会社の取るべき対応

 以上のように、会社としては、降雪エリアに向かう業務車を使用する場合はもちろん、沖縄以外の都道府県を、積雪や凍結する可能性がある時期に自動車を走行させる場合には、タイヤチェーンやスタッドレスタイヤが使用できるようにしなければいけません。

 

 ただ、実際の道路状況に応じて、具体的な雪道対策を採るのは運転者なので、会社としては事前に運転者に安全教育を行っておく必要もあります。チェーン規制等が出されている場合はもちろん、それ以外でも、道路状況に応じて雪道対策を採るべき場合があることを運転者が理解するようにしておくべきです。

 

 会社としては、安全な運転のためにどのような事項が必要か、運転者はどのような義務を遵守しなければならないかを確認し、従業員に周知しておかなければなりません。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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