国土交通省・警察庁はこのほど、大雪時の道路交通の確保のため、チェーン規制等のあり方を改正し、タイヤチェーンを取り付けていない車両の通行を禁止する意味を表示する規制標識を新設しました(右図参照)。
施行日は2018年12月14日です。
国交省などは今年1月と2月の突発的な大雪によりトラックなどが立ち往生し、大規模な道路交通の障害が発生したことを受けて、「冬期道路交通確保対策検討委員会」を開催して対策を練ってきました。
今回の改正は、同委員会により大雪時の道路交通の確保のために、冬用タイヤを含めたチェーン規制を徹底すべきとの結論が出されたことを踏まえたものです。
一部のニュース報道で、「5%勾配の道路では冬用タイヤでもチェーンが必要」等とされたために誤解があるかも知れませんが、警報発令レベルの豪雪が降った場合、立ち往生が懸念される区間に限って実施される規制です。
一般の「滑り止め規制」の場合は、今までの通り、全輪が冬用タイヤであればチェーンがなくても走行できます。
雪国などの道路で「滑り止め必要」と文字の表示が出る規制があり、これは普通タイヤ(夏用タイヤ)だけでは走行できませんという意味です。スタッドレスタイヤやスノータイヤなどを装着しておくか、普通タイヤの駆動輪にチェーンを巻く必要があります。
これに対して、今までも降雪量が特に多かったり峠道などで路面状態が急激に悪化した場合は、緊急措置として通行止めにするか、全車両チェーン装着規制が実施されてきました。
この場合はスタッドレスタイヤなどを履いていたとしても、タイヤチェーンを装着しなければ走行できません。しかし、実態として前述の「滑り止め規制」と区別がしづらく、冬用タイヤならいいのだろうと走行する車も少なくありませんでした。
そこで、全車両チェーン装着規制を徹底するために標識が新設されました。ただし、国土交通省の資料などによると、最近の降雪実態なども考慮して今まで全車両への装着規制が行われていなかった道路でも、予防的に標識を標示して規制を実施していく方向にあります。
今後、上記の標識が設置された場合(豪雪など緊急時規制なので規制標識は移動式が想定されています)または可変LED表示板などに標識と同じ図柄が出た場合は、すべての車がチェーンを取り付けていないと走行できないということをよく認識して、事業所で運行する車へのチェーン搭載や経路選択を検討しておく必要があります。
■大雪で立ち往生・大滞留が発生
2018年1月22日、首都圏を中心に積雪20cmを超える大雪により、トレーラや大型トラックの立ち往生や通行止め規制を受けて出口に向かう車の大渋滞などが発生して、首都高速道路中央環状線では約10時間を超える車両の滞留が発生しました。
また、2月5日から6日にかけては北陸地方を中心に積雪1mを超える大雪が降って、北陸道の通行止めに伴い並行する国道8号に交通が集中しました。
このため国道8号で約1,500台の車両の立ち往生などが発生し、2月9日未明まで2日以上の車両滞留が発生しました。
※下図は「1月~2月の豪雪による道路滞留」国土交通省の資料より
国土交通省が近年の雪道での立ち往生車両を調査したところ、年間500台以上に登ることがわかりました。また、全体の約6割が大型車でした。
夏用タイヤでの立ち往生は25%です。なお、冬用タイヤを装着していても、縦断勾配5%を超える区間では立ち往生が多く発生していることもわかりました。
立ち往生をした冬用タイヤを装着している車両のうち、チェーン未装着車が89%を占めています。スタッドレスタイヤでも、豪雪の場合はチェーンをしていないと立ち往生しやすいのです。
過去の立ち往生の実態などから、予防的な通行規制区間の抽出が行われることになるため、規制が実施される道路は今冬以降は増加します。
とりあえず2018年度末までに約20区間を順次指定し、2019年度以降も加えて最終的には幹線道路を中心に約200区間に広げていくことになっています(※)。
右図のように、
・過去に立ち往生が発生した道路
・道路縦断勾配5%以上の箇所
が規制の中心となりますが、道路の構造やチェーン脱着場の場所によっては、その前後の道路も規制対象とせざるを得なくなります。
こうした区間では、天候等の急変で緊急的に通行止めによる除雪やその前後の「全車両へのチェーン規制」が実施されることになりますので、気象情報には十分な注意が必要です。
全車両チェーン規制はあくまでも冬期道路交通確保に向けた取り組みの一環ということで、同省では、今冬以降はソフト・ハード面でさまざまな対策をとる方針です。
たとえば「集中除雪の実施」とは、スリップや事故で交通がまひしてから通行止めにするのではなく、道路停滞を防ぐため予防的な道路通行止め規制を実施して除雪を実施するという方針です。
とくに高速道路では、立ち往生した車で除雪車が作業できなくなることを防ぐため、今年度からは早めに通行止めと除雪が実施されます。
気象予測会社等から発表される3日前の気象予測により大雪が予想される場合は、高速道路会社が2~3日前から通行止め区間の予想を発表し、広域の迂回案内を実施する予定です。
道路規制情報に注意し、日程やルート変更など無理のない走行計画の見直しを実施しましょう。
【ソフト面の対策】
○除雪優先区間の選定
○関係者合意のもと段階的な行動計画を策定
○集中除雪の実施
○法に基づくチェーン規制の実施
○需要抑制・広域迂回等のマネジメント
【ハード面の対策】
○スポット対策 ・チェーン脱着場・規制標識設置等の設置 ・情報収集・提供装置の設置
○ネットワークの機能強化(道路拡幅等)
◯除雪機械の整備、流雪溝の整備、堆雪幅の確保
なお、全車両チェーン規制が実施されたときに、一般の乗用車の場合は駆動輪(前2輪または後2輪)に装着すればよいのですが、大型車の場合は車軸・車輪数が車種によって異なりますのでどの程度チェーンを用意すべきか判断に迷うところです。国土交通省が一応の標準を公表していますが、実際には現場の道路会社係員や都道府県警察などの指導に従うことになります。
チェーンまたは滑り止めタイヤの規則は、各都道府県の道路交通法施行規則に依っています。
同規則は自治体によって規定が違い、たとえば、東京都などのようにチェーンを取り付ける場所や数は明記していない場合もあれば、新潟県のように、駆動輪の全タイヤにチェーンをつけることとトレーラについては被牽引車の最後部の軸輪にもチェーンを巻くことを、規則のなかで具体的に明記している例もあります。
このほか、石川県警察本部は2018年12月4日にトラック協会などを対象にして「冬用タイヤの早期装着及びチェーンの携行・装着について」と題する事務連絡文書を配布して、「(豪雪地域は)ダブルタイヤにはダブルチェーン装着」と要望しています。豪雪地域の新潟国道事務所では、ダブルタイヤ用のダブルチェーンを装着していなかったことがほとんどの大型車立ち往生の原因となっているという分析結果を公表しています。
なお、大型の後輪2軸車の場合、1軸駆動では駆動力は後前軸にかかるので後前軸にチェーンを巻きます。ツーデフ車(2軸駆動車)の場合は両方の軸に駆動力が掛かりますので、雪道走行には強いタイプですが、チェーンも後前軸と後々軸の両軸輪に巻いたほうがより効果的と考えられます。しかし、チェーンが1セットしかない場合は、荷重の位置を考慮して後前軸か後々軸どちらかの駆動輪に巻くことになるでしょう。
場所によって雪道での対策事情は異なりますので、チェーン装着の車輪数について厳しい規制が実施されるかどうかは現場の判断によると想定されます。
なお、チェーン規制などを守らずに大規模な交通滞留を引き起こしてしまった車の運転者に対して、国は道路法の違反として6月以下の懲役または30万円以下の罰金を課することができます。
また、対策検討委員会の取りまとめ(提言)では、大規模な車両滞留の原因となった車に大型車が多かったことから、「例えば、チェーンを適切に装着せず大規模な車両滞留の原因となった大型車等に対しては、高速道路の大口多頻度割引の停止を行う等、ペナルティ等の対応を検討すべきである」といった意見も含まれていました。
今後、チェーン規制徹底のため、こうした措置が実施される可能性があります。
★参考ページ★
→ チェーン規制に関連する改正を行います (2018.12.14/国土交通省)
→ チェーン規制についてのQ&A (国土交通省)
→ 冬期道路交通確保対策検討委員会(国土交通省)
→ 大雪時の道路交通を確保するための具体的な対策を提言(国土交通省)
→ 大型車は「冬用タイヤ装着」+「タイヤチェーン携行」をお願いします (Nexco中日本)
→ 集中的な大雪時にはタイヤチェーンの装着を! (Nexco中日本)
→ 今冬の道路交通確保に向けた取組みについて(Nexco東日本)