自転車事故と自動車損害賠償保障法

自転車と事故にあったのですが、相手は無保険で自転車には自動車損害賠償保障法の適用がないため十分な損害賠償を受けることができません。このような場合、どのように対処すればよいのでしょうか?

■自転車と自動車損害賠償保障法

1・自動車損害賠償保障法

 自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)は、自動車社会の発展による交通事故の増加に伴って昭和30年に制定されたもので、「自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする」ものです(同法第1条)。

 

 すなわち、被害者保護のために、交通事故の被害者が最低限の補償を受けられるようにすることがその目的の一つです。

2・自賠法の範囲


 しかし、自賠法でいう「自動車」とは、道路運送車両法第2条第2項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第3項に規定する原動機付自転車をいうとされますが(自賠法第2条第1項)、いずれも「原動機により陸上を移動させることを目的として製作した」ものであり、人力で動かす「軽車両」(道路運送車両法第2条第4項)には適用がありません。

 

 自転車は「軽車両」とされますので、自賠法の適用はなく、自賠責保険の加入が義務化されていません。そのため、自転車事故の場合、自転車側が個人賠償責任保険等のいわゆる任意保険に入っていなければ、損害賠償を受けることができないことになります。

■事故の相手が無保険の自転車だった場合

1・加害者側の利用可能な保険等の検討

 任意保険に入っていない自転車運転者は少なくないと考えられ、自賠責保険もないため、生じた損害の賠償をどうすべきかは問題です。

 

 なお、自転車運転のためだけの任意保険に入っていない場合でも、具体的な事故内容とうによっては、加害者が加入している火災保険や他の傷害保険、クレジットカード等についている保険を利用することが可能な場合もあるため、それらも含めて損害を賠償できないか、確認をすることが有効な場合もあります。

 

 さらに、同居の親族等が加入している保険が家族にも適用できる場合や、加害者が学生であれば、学校で保険に入っているような場合もあります。

2・被害者側の利用可能な保険等の検討

 契約内容や保険の種類によりますが、相手方が無保険の場合、被害者側の任意保険を利用することも考えざるをえません。

 

 その後の契約条件等が不利になるというデメリットがある場合もありますが、保険契約はまさに予期せぬ損害が生じた時のためのものですので、その利用は検討すべきでしょう。

 

 なお、被害者側の保険を利用した場合、通常は被害者に保険金を支払った保険会社が、加害者に対して支払を求めるケースが多くなります(保険代位に基づく請求)。

3・ 加害者への責任追及

 利用できる保険等がない場合には、加害者への損害賠償請求を検討しなければなりません。

 

 通常はまず示談交渉(話し合いによる支払の合意)を試みて、合意ができなかったり、相手方が支払に応じなければ、民事訴訟による損害賠償請求を行うことになります。

 

 民事訴訟によって、裁判所が当事者双方の主張を聞いて、証拠を見た上で、損害賠償義務の存否や内容を判決で決めます。なお、後遺症認定についても、自賠法の施行令などに規定があるため、自賠法の適用のない自転車事故の場合、合意ができなければ裁判所の認定に従うことになります。

 

 また、民事訴訟の中で、和解を行うこともあります。

 

 判決が出た場合には、それに基づいて、さらに裁判所に強制執行を申立て、判決に従った金額を、加害者の財産から回収することになります。

4・ 加害者の関係者に対する請求

 また、加害者が未成年であればその親への監督者責任や、業務中であればその使用者に対する使用者責任を追及することも考えられます。

 

 なお、示談や和解で合意が成立した場合、支払が長期の分割払いになることも多いため、資力のある親族や会社代表者等に、物的担保を入れさせたり、連帯して債務を負わせたりし、支払を確実にすることも検討すべきです。

■終わりに

 自転車による事故でも、場合によっては死亡事故となったり、重い障害が残ったりすることもあります。その場合、保険等がなければ、被害者の保護は図れませんし、加害者も非常に高額な債務を負うことになりかねません。

 

 最近は、自転車事故に対応した保険も出てきていますので、自転車を運転する機会の多い人は、任意保険への加入を検討すべきといえるでしょう。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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