近年、働き方改革が叫ばれていますが、時間外労働等改善助成金という制度があると耳にしました。これはどういった制度なのでしょうか?
近年のいわゆる「働き方改革」においては、残業規制による長時間労働の是正が、一つの目的として掲げられ、労働基準法等の法改正や、制度の創設がなされています。
時間外労働等改善助成金の制度もそのうちの一つであり、中小企業に対する時間外労働の上限規制等を行う一方で、中小企業における労働時間の設定の改善を促進することを目的としています。
同助成金には、企業の状況等に応じて「時間外労働上限設定コース」「勤務間インターバル導入コース」「職場意識改善コース」「団体推進コース」「テレワークコース」の5つのコースが設けられており、従前の職場意識改善助成金制度の要件を緩和・拡充し、あるいはコースを新設したものであり、特定の対策に取り組む企業に対して、助成金(上限200万円)が支給されるものです。
それぞれのコースで、どのような事業主が対象となるか、支給対象となる取組は何か、各コースの成果目標、及び成果目標の達成状況に応じた支給額等が定められており、その内容の詳細や申請手続等については厚生労働省のホームページに掲載されています。
各コースそれぞれに申請の書式が定められており、また申請期間も決まっていますので、実際に申請する場合には、各コースの内容を確認してください。
以上の各コースの制度の要件や内容を全て説明すると膨大になりますが、それぞれのコースで定められた成果目標を見ることで、制度を設けた目的が分かりますので、以下では各コースの成果目標から目的の概要を紹介します。
同コースの成果目標は、「事業主が事業実施計画において指定した全ての事業場において、平成31年度又は平成32年度に有効な36協定の延長する労働時間数を短縮して、以下のいずれかの上限設定を行い、労働基準監督署へ届出を行うこと。」であり、行うべき上限設定は、
のいずれかとされています。要するに同コースは、長時間労働の見直しのため、稼働時間の縮減への取組を目的としています。勤務時間の縮減を検討している企業は、同コースの利用を検討してみてもよいでしょう。
同コースの成果目標は、「事業主が事業実施計画において指定した全ての事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」又は「11時間以上」の勤務間インターバルを導入すること。」とされています。
具体的には、
とされています。
勤務終了後から次の勤務までの間に一定以上の休息時間を設けることで、労働者の生活や睡眠の時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図ることが目的といえ、また同制度の導入は、2019年4月から、努力義務化されています。
運送業やバス事業、あるいは昼勤と夜勤が存在するような企業では、同コースが適当であることが考えられます。
同コースの成果目標は、別途「時間外労働等改善助成金交付要綱」で規定する特別休暇のうち、いずれか1つ以上を全ての事業場で新たに導入すること(年次有給休暇の取得促進)、及び労働者の月間平均所定外労働時間数を5時間以上削減させること(所定外労働の削減)です。
同コースの目的は、いわゆる「ワーク・ライフ・バランス」実現のため、生産性の向上等を図ることにおり、所定外労働の削減や、年次有給休暇の取得促進に向けた環境整備に取組む企業の支援です。
「時間外労働等改善助成金交付要綱」も厚生労働省のホームページから見ることが可能です。
同コースは、中小企業事業主の団体や、その連合団体が、労働者を雇用する傘下の事業主の労働者の労働条件の改善のため、時間外労働の削減や賃金引き上げに向けた取組を実施した場合に、その団体等に対して助成するものです。
同コースの成果目標は、支給対象となる取組内容について、事業主団体等が事業実施計画で定める時間外労働の削減又は賃金引上げに向けた改善事業の取組を行い、団体を構成する事業主の2分の1以上に対してその取組又は取組結果を活用すること、とされています。
事業主の団体自体が対象ですので、まずその対象となる事業主の団体の要件を確認することが必要です。
なお、上記の「時間外労働上限設定コース」「勤務間インターバル導入コース」「職場意識改善コース」の3コースは、支給対象となる取組の定め方自体は共通していますが、団体推進コースは、団体を対象とする性質上、取組の内容も異なっています。
テレワークとは、情報通信技術を活用し、場所や時間にとらわれず、在宅や移動中、勤務先以外のサテライトオフィススペースなどで仕事をする働き方です。
同コースは、時間外労働の制限その他の労働時間等の設定の改善及び仕事と生活の調和の推進のため、テレワークに取り組む中小企業事業主にたいし、費用の一部を助成するものです。
同コースの成果目標は、
同コースは、テレワークの導入の促進が目的ですので、支給対象となる取組も、テレワーク用通信機器の導入・運用や、保守サポート、クラウドサービス等、テレワーク導入に必要な取組が規定されています。
育児や介護に従事しながら稼働する労働者や、営業やSEなど、必ずしも会社に出社しなくても稼働内容が異ならない労働者がいる場合などには、同コースを利用してテレワークを導入することが可能です。
時間外労働等改善助成金については、事業所の状況によって申請するコースが異なりますが、自社の現状をよく分析して、最も適したコースを選択して申請するようにしてください。
長時間労働問題を改善して、従業員一人ひとりのモチベーションをアップすれば会社の業績も上向くと考えられます。ぜひ一度、それぞれの従業員の労働時間を見直してみてください。
(執筆 清水伸賢弁護士)