信号のない交差点での四輪車と自転車の事故

先日、駅近くの交差点で、通勤中の従業員の自転車が四輪車との事故をおこし軽傷を負いました。現場は信号のない交差点で、自転車に一時停止の義務がありましたが一時停止せずに四輪車と衝突してしまいました。相手の四輪車は任意保険に加入しておらず、車の修繕費を請求されています。しかしながら、弊社の従業員も保険に加入していません。このような場合、どのように対処すればよいのでしょうか?

■過失割合とは

 交通事故に基づく損害賠償請求は、基本的には民法上の不法行為(709条)に基づく損害賠償請求です。

 

 しかし民法上の損害賠償請求は、損害の公平な分担の実現を図ることも一つの目的としています。

 

 ある不法行為が原因で損害が生じた場合、基本的に悪いのは加害者であったとしても、被害者側に落ち度や被害拡大の原因があってもこれを考えず、生じた被害を全て加害者が賠償しなければならないとなると、この損害の公平な分担の理念に反することになります。

 

 そこで民法722条2項では、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」として、被害者の過失の内容等を考慮して、損害賠償の額を減額することを認めています。これがいわゆる過失相殺と呼ばれるものです。

 

 このように、過失相殺は裁判所が定めることとなっていますが、交通事故の場合には、今までの事例の集積が多くあるため、ケース毎に類型化され、書籍になっています(現在は判例タイムズ社発行別冊判例タイムズ38号でまとめられた内容が利用されています)。

 

 そのため、交通事故の場合の過失割合は、基本的にはそれらの基準に従って交渉等が行われます。

■本件の過失割合

 この件では、四輪車と自転車の、信号機により交通整理の行われていない交差点における事故で、自転車側に一時停止の義務があったという事例です。

 

 この場合、過失割合は自転車が40、四輪車が60が基本とされており、これに加えて、他の修正要素として、それぞれの著しい過失や重過失の有無により増減します。

 

 さらにまた、自転車の過失割合が低くなる要素として、運転者が児童や高齢者の場合や、自転車が自転車横断帯や横断歩道を通行していたことなどがあります。

 

 逆に自転車の過失割合が高くなる要素としては、夜間の事故であったり、自転車が右側通行していたり、左方から交差点に進入したということがあります。

■車の修理費

 自転車は道路交通法上の軽車両であり、四輪車に比べると基本的に過失割合等は低くなりますが、車両の修理費用や時価(全損の場合)などの物的損害については、過失割合に応じて支払う義務を負うことがあります。

 

 しかも自転車には、自動車損害賠償保障法の適用がなく、いわゆる自賠責保険が利用できません。

 

 四輪車と自転車の事故の場合、事故によって生じるそれぞれの修理費用に大きく差があることがあり、怪我などがなく、修理費用だけを比べた場合には、結果的に自転車側が支払をしなければならないことがあります。

 

 たとえば、過失割合が40:60として、四輪車の修理費用が10万円、自転車の修理費用が1万円だったとします。

 

 この場合、過失割合が40:60なので、四輪車側は、自転車側に、1万円の60%である6千円を支払う義務がありますが、自転車側には10万円の40%である4万円を支払う義務があるとされます。

 

 そうすると、結局差引したとしても、自転車側が四輪車側に3万4千円を支払わないといけないということになります。

 

 ここで「四輪車側」「自転車側」という表現をしているのは、事故を起こしたのが業務中の従業員だった場合、会社は事故の相手方に対して使用者責任を負うことがあるためです。本件の質問の場合には、通勤中の事故なので、会社が使用者責任を負うかどうかは別途検討が必要です。

■請求への対応

 本件のような場合、まず過失割合がどの程度かを検討し、修正要素として言えることがないかどうかを検討します。また、相手方から主張される修理費用の請求内容自体が正当なものかどうかも当然検討の対象になります。

 

 会社としては、自転車で通勤中の従業員の事故が業務上といえるかどうかという点も、マイカー通勤の場合に準じて検討しなければならないでしょう。

 

 その上で、やはりいくらかの支払をしなければならないという場合には、損害賠償義務があるといわざるをえません。

 

 そのような場合に備え、やはり自転車を頻繁に利用する場合は特に、人的損害や物的損害のいずれもカバーするような自転車保険に入っておくことが必要でしょう。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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