警備員の誘導指示にしたがって駐車場から幹線道路に出ようとしたところ、幹線道路から走ってきた乗用車と衝突してしまいました。このような場合、事故の責任は誤った誘導をした警備員にあると思うのですが、いかがでしょうか?
工事現場や、スーパーマーケット等、施設駐車場の出入口などにおいて、警備員が通行している自動車等を誘導し、交通の整理を行うことがあります。
警備業法には、「警備業務」の内容が定められており、第2条1項2号には、その一内容として、「人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務」が挙げられています。
そのため、設問のような自動車の誘導も、警備員が行う業務の一つとなります。
ただ、同法15条では、「警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たっては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。」と規定しています。
すなわち、警備員が自動車の誘導等をするとしても、とくに何らかの権限が与えられているものではありません。
ちなみに、警察官も道路において手信号で交通整理を行うことがありますが、警察官については道路交通法6条の各項において、その権限として交通規制ができることが定められています。
警察官は、信号機と異なった手信号を送ることもでき、同法7条では、歩行者や車両等は警察官の手信号に従わなければならないとされています。
まず結論からいうと、警備員の誘導にミスがあったからといって、運転者に過失がある限り、運転者は事故の責任を負います。
自動車の運転者は、安全配慮義務等を負っており、警備員が誤った誘導をしたとしても、安全確認等は自分の判断で行って運転をしなければいけません。
上記のように、警備員は、とくに特別な権限を有しているわけではなく、運転者が危険と判断すべきような場合にまで誘導に従う義務もありません。
そのため、通常の交通事故における刑事責任の場面においては、主に運転者の過失の有無が検討されます。警備員の誘導ミスは過失の検討における一要素となる程度であることがほとんどです。
ただ、警備員のミスの程度も大きく、同ミスによって直接重大な結果が生じたような場合などでは、警備員も刑事責任を追及されることはあります。
裁判例でも、水道工事で道路の交通整理を行っていた警備員の指示による右折事故で子どもが死亡した事例で、警備員にも運転者に準ずる責任があるとされたものなどがあります。
なお、警備員が刑事責任を追及されたとしても、運転者の責任は別途検討されますので、過失があれば責任を負うことになります。
警備員の誤った誘導によって交通事故が生じた場合には、民事責任(被害者に対する損害賠償責任)についても、過失のある運転者は責任を免れないと考えるべきです。
故意または過失による事故により、他者に被害が生じている以上、運転者がその責任を免れることは難しいといえます。
ただ、運転者の責任とは別に、警備員のミスの内容や、交通事故との関係、事故の状況等によっては、運転者のみならず、警備員についても責任が問われることは考えられます。
運転者と警備員のそれぞれに責任が認められるような場合には、それぞれ被害者に対しては全額の損害賠償義務を負いますが、運転者と警備員との間では、その過失の程度等によって負担割合が決められることになります。
また、通常警備員は警備業を営む会社の業務として交通整理を行っているため、当然同会社への使用者責任も問題となってきます。
設問では、駐車場から幹線道路に出ようとしていますが、このような場合、運転者としては警備員の誘導を軽信せず、自ら安全確認をして運転しなければならないものといえます。
警備の誘導の態様や、事故の状況にもよりますが、警備員の責任の程度は高くないと思われます。いずれにせよ運転者としては、警備員が誘導していたとしても、自らの判断で安全運転を行うべきものと考えておくべきでしょう。
(執筆 清水伸賢弁護士)