車による出張等でフェリーを利用する機会があると思います。
トラック・バスなど事業用自動車の事業所では、モーダルシフトの一環として高速走行をフェリーに切り替える例もありますが、乗船中の飲酒について管理・指導していますか?
とくにトラック運転者の場合、乗船中は拘束時間ではなくすべて休息期間となり、自由に飲食ができるので、管理上の盲点となりがちです。
先日、国土交通省の事業用自動車事故調査委員会が事故調査報告書を公表し、乗船中の飲酒が下船後の酒気帯び死亡事故に結びついたという事例をもとに、管理・指導の必要性を強調しています。
事故は2017年11月22日の深夜、阪神高速道路14号松原線で発生しました。
アルミ鋼材約16トンを積んだ大型バンセミトレーラが進路変更時に右側車線を走ってきたタクシーと衝突し、中央分離帯との間にタクシーを挟んだまま走行、タクシーは中央分離帯の街灯に衝突してタクシーの乗客1人が死亡、運転者と乗客の2人が重傷を負いました。
事故後、トレーラの運転者から基準値を超えるアルコールが検出されています。
運転者は阪神高速の出口付近に設置された標識灯を工事の規制灯と勘違いし、右側の安全確認をしないで漫然と車線を変更して、右車線の状況にまったく気がつかない状態でタクシーと衝突しています。
調査報告書では、運転者が事故の約8時間前から5時間前にかけて乗船していたフェリーで、焼酎450ml近くを飲んでいたことを指摘し、高濃度のアルコールが体内に残り、著しく注意力・判断力が低下していた状態で運転していたことが事故の原因と分析しています。
事故を起こした運転者の所属する会社では社内の規定として乗船中の飲酒を禁止する指導をしていましたが、実際には運転者の間で長年にわたりフェリー乗船中の飲酒が慣例となっていました。
会社が実施した調査では2017年中にフェリー乗船した運転者24人中20人が船内でほぼ毎回のように飲酒をしていたということです。
一方で、下船時には点呼もアルコール検知も実施されず、運転者はフェリーを降りた後そのまま運行を開始していました。
このように飲酒運転抑制に関する運行管理が形骸化し、遵法精神を欠く運転者の行動が長期間放置されていたことが飲酒運転による重大事故に結びついたと分析しています。
( ※事故例は、国土交通省の
「事業用自動車事故調査報告書 1783102 大型トラクタ・バンセミトレーラの衝突事故」より引用しました)
運転者はフェリー内の飲酒を「いつもの仲間と楽しむ酒」と感じており、自分が飲酒運転する危険を感じていませんでした。寝酒程度を飲んだので仮眠をしたらすぐ醒めるから大丈夫、と自分に都合良く解釈していたようです。
しかし、焼酎などを長時間飲めば飲酒量は非常に多くなります。日本酒1合(アルコール20g=1単位)でも分解に最低3~4時間は必要ですが、事故運転者は焼酎450mlを飲んでいるので、数時間の船中仮眠ではとても分解できるものではなかったと思われます(濃度25%焼酎の場合コップ半分100mlで1単位)。
この事例のように、下船時には酒気帯び状態でいる運転者が少なくないと推察されます。
一方で、トラック運転者ではフェリー乗船中の時間が拘束時間中の「休憩」ではなく「休息期間」にあたりますので、飲酒を一方的に禁止することは難しい側面があります(バス・タクシー運転者の場合は乗船中の2時間が拘束時間)。
そこで、運転再開までに十分に時間的余裕のある場合しか飲酒できないことを理解させて、下船後に酒気帯び運転とならないように管理・指導する必要性があります。事業用自動車の場合、基準値未満の酒気帯びでも運行はできませんので、その点を再度徹底することが大切です。
報告書では再発防止策として、以下のようなポイントを示しています。
・下船の際の点呼を徹底する
点呼を指示した時間を過ぎても運転者から連絡がない場合は、運行管理者が電話をして運転者が休息期間中に飲酒をしたか確認する。
・アルコール検知の徹底
アルコール検知状況や測定結果を携帯端末等でリアルタイムに送受信できるシステムを導入する。
・抜き打ち検査を実施
フェリーを頻繁に使用する事業者では、運行管理者が抜き打ち乗船などを実施し、運転者の船内での実態を把握し、現場でアルコール検知などをして下船時に残る飲酒がないかを確認する。
・懲戒規定の周知
社内規定に「フェリーなど泊まり運行時の点呼・アルコール検知の励行」を明記し、点呼時にアルコールが検知された場合は運行がストップするので、会社の業務に著しく支障を与え「労働協約の違反として懲戒解雇される可能性もある」と運転者に指導して自覚を促す。
・運転者への飲酒指導の徹底
飲酒中は時間経過とともに酔いの自覚が薄れ、飲酒量も正確にはわからなくなって飲み過ぎてしまうことが多いことを認識させる。
また、飲酒量とアルコールが体内に留まる時間の目安について周知し、運転開始時間までの時間を考慮し、十分に余裕がある飲酒量とすることを指導する。
最近はトラック・バスのフェリー利用を復活する事業者が増えています。
働き方改革として運転者の運転時間や拘束時間を減らす効果があり、原油高騰で高速道路走行代金とフェリー料金を比べてもコスト的にかわらない側面があります。
運転者が身体を休めることはプラスですが、飲酒運転のリスクは高まっていることを意識しましょう。
トラックやバス運転者に限らず、一般のドライバーでもフェリー等に乗ると気が緩み、ついアルコールに手が伸びがちです。船内のレストランには各種のお酒が用意され、自動販売機が完備されていますので、いくらでも飲酒が可能だからです。
しかし、自宅などで飲酒するのとは違って、船が到着後すぐに運転しなければならないので、酒気帯び運転をしやすくなります。飲酒量をコントロールすることが大切です。
港湾を管轄する警察署によっては、時期を選びフェリー下船時に抜き打ちの飲酒検問をする場合がありますので、船内での飲酒を控えるように意識しましょう。