緊急自動車との事故

青信号だったので交差点を通過しようとしたところ、左から来たパトカーと衝突してしまいました。大きなボリュームで音楽を聞いていたため、緊急車両のサイレンが聞こえていなかったのですが、緊急車両との事故の場合、通常の交通事故と手続きや過失割合に変化はありますか?

■緊急自動車と道路交通法

1・緊急自動車の特殊性

 緊急自動車とは、「消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のもの(道路交通法39条1項)」をいい、道路交通法上、通行方法の規制について一般の自動車とは異なる扱いを受けています。

 

 具体的には例えば、一般の車は一定の場合(同法17条5項)を除き左側通行をしなければなりませんが(同法同条4項)、緊急自動車は、「追い越しをするためその他やむを得ない必要があるとき」にも、道路の右側部分に一部又は全部をはみ出して走行することができます(同法39条1項)。

 

 また、緊急自動車は、法令の規定により停止しないといけない場合、すなわち赤信号や、踏切の手前、一時停止の標識がある場所などでも、停止しなくてもよいとされています(同法同条2項)。

 

 さらにその他にも、転回等禁止や進路変更禁止、追い越し禁止などの規制が適用されないなど、特別の扱いを受けています。

 

 ただ、緊急自動車であれば全く制限がないというわけではなく、例えば上記の一時停止の標識がある場所などで停止しなくてよい場合でも、「他の交通に注意して徐行しなければならない。」とされています(同法同条同項但書)。また、交通整理の行われていない交差点において、交差道路が優先道路又は明らかに広い道路である場合には、徐行しなければならず(同法36条3項)、交差点において他の車両に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務もあります(同法同条4項)。

 

 なお、「緊急自動車」は、「緊急用務のため」「運転中のもの」をいうため、例えパトカーや救急車であっても、緊急用務ではなく普通に運転されている場合には「緊急自動車」ではなく、普通の自動車と同様の扱いとなります。

2・緊急自動車の周りの車の義務

 緊急自動車が通行する場合、周囲の緊急自動車以外の車両には、道路交通法上の義務が生じます。

 

 すなわち、他の車両は、まず交差点又はその付近において緊急自動車が接近してきたときは、交差点を避け、かつ、原則道路の左側に寄って一時停止をしなければなりません(同法40条1項)。

 

 また交差点又はその付近以外の場所において緊急自動車が接近してきたときは、道路の左側によって進路を譲らなければなりません(同法同条2項)。

■緊急自動車との事故の過失割合

 緊急自動車については、以上のような規定がありますので、事故が生じた場合には、通常の車両同士の事故とは異なった過失割合となります。

 

 信号機で交通整理がされている交差点の場合、上記のように緊急自動車が優先することから、赤信号で交差点に進入している緊急自動車と、青信号で進入している他の車両の具体的な過失割合は、20:80が原則とされ、他の車両の過失が大きいとされています。

 

 さらに、他の車両の過失割合が増える事由として、現場が見とおしがきく交差点であったり、緊急自動車が徐行していたり、その他、他の車両の著しい過失があったときなどに過失割合は10:90になるとされています。

 

 また、それらの事情がいくつか重複したり、緊急自動車が明らかに先に交差点に入っていたり、他の車両が、その前で停止している車両を追い越して交差点に進入したり、他の自動車にその他の重過失がある場合などには、他の車両の過失割合が100とされることもあります。

 

 他方、交差点の一方が幹線道路で、他の車両が幹線道路を走っていたときなどは、過失割合は30:70とされることもあり、その他に緊急自動車の方に著しい過失や重過失があれば、過失割合が30:70から40:60くらいとされることはあります。

 

 なお、緊急自動車は、国や地方公共団体の公務を行っている場合もあり、そのような緊急自動車との事故の場合、公務員である運転者個人ではなく、国や地方公共団体が交渉や訴訟の相手方となることがあります。

■設問のケースでは「車内の大音量」が問題になるケースも

 設問では、信号機による交通整理がされている交差点ですので、基本的な過失割合は20:80です。さらに、他の車両の方が大きなボリュームで音楽を聞いていたため、緊急自動車のサイレンが聞こえていなかったということですが、サイレンが聞こえないほどの音量を流しながら運転することは、各都道府県の条例に違反することもあり、その程度によってはさらに不利な過失割合となることが考えられます。

 

 運転者としては、緊急自動車が近づいてくることを察知できるように注意しておかなければならず、適切な措置をとることが必要です。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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