道に迷って、電車の線路沿いに走行していたのですが、交番の前を通過したときに警察官が追いかけてきて、一方通行違反の切符を切られてしまいました。実は、一つ手前の交差点からそれまでとは逆方向の一方通行になっていたのですが、標識の前にトラックが駐車しており気づくことができませんでした。このような場合、駐車車両に責任はあるのでしょうか?
道路標識には案内標識、警戒標識、規制標識、指示標識の種類があります。
これらの標識を設置すべき者は、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令の第4条で定められており、標識の種類によって、都道府県公安委員会が設置すべきもの、道路管理者が設置すべきもの、いずれかのどちらかが設置すべきものの区分がされています。
この中で、一方通行違反の標識は規制標識ですが、各都道府県公安委員会、または道路管理者が設置できることになっています(同命令第4条第3項)。
この点、道路管理者については、道路法第45条1項が「道路管理者は、道路の構造を保全し、又は交通の安全と円滑を図るため、必要な場所に道路標識又は区画線を設けなければならない。」と定めています。
また都道府県公安委員会については、道路交通法第4条1項本文で、「公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる。」としています。
さらに同法施行令1条2項では、「公安委員会が標識を設置し、及び管理して交通の規制をするときは、歩行者、車両又は路面電車がその前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める数のものを設置し、及び管理してしなければならない」とされています。
なお、古い最高裁判例では、公安委員会の規制は「公安委員会の行う道路の通行の禁止、制限は、その処分の内容を標示する道路標識によつてしなければ法的効力を生じないものと解すべきである。」とされています(最高裁判所第二小法廷昭和37年4月20日)。
標識は、運転者等に見えなければ意味をなしませんし、標識による規制に従わなければ交通違反となりますので、見やすいように、必要な数を設置し、管理しなければいけません。
そのため、草木が伸びて隠れていたり、事故で歪んだりしていて見えない場合には、交通違反に問うことはできない場合があります。その判断基準は必ずしも明確ではありませんが、通常の一般人の運転者からみてどうかという観点から検討されていると思われます。
裁判例には、「(標識は)ただ見えさえすれば良いものではなく、通常の運転をする者が容易にその内容を認識できるものであることを要し、また、その設置は、交通規制の態様及び当該道路標識の種類を踏まえ、道路又は交通の状況に応じ必要と認められる合理的な数のものを設置することを要する」と指摘するものがあります(東京地方裁判所平成27年10月15日判決)。
また、時速40キロで走行した場合、標識を認識できるのは1秒から2秒であると認定した上で、それは「その前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める数のものを設置し、及び管理」すべきという要件を満たしておらず、交通違反に基づく処分を取消した裁判例もあります(神戸地方裁判所平成31年3月27日判決)。
ただ、上記の裁判例等は、設置や管理した場所や方法に問題があったような場合です。
駐車車両で標識が見えなかった場合、たまたまその時だけ運悪く標識が見えなかったということも多いと思われます。もちろん、駐車車両が恒常的に存在することが予想されるような立地関係で、見えないように標識が設置されていれば、公安委員会等に対する問題となり得ます。
しかし、通常は客観的に標識の設置や管理自体には問題がない場合が多いと思われますし、また特に一方通行の規制については、通常は一方通行の標識だけではなく、進入禁止の標識とセットになっています。
そのため、設置している箇所等には問題がなく、通常の注意力があれば標識を確認できたような場合は、交通違反を免れることは難しいと思われます。
完全に隠れて見えないような場合には、警察官にその点を立証することができれば事情により厳重注意で済むことはあるかもしれませんが、基本的には設置や管理の問題ではないため、必ずそうなるわけではなく、警察の対応としては交通違反として扱うことが多いと思われます。
なおその場合、違反してしまった運転者としては、駐車した者に責任を負わせたいところですが、交通違反自体に対する異議は当該駐車車両にいえないため、駐車車両に対する責任追及は、不法行為による損害賠償請求を考えることになります。
ただ、交通違反だけで事故等が生じていない場合、損害として考えられるのは違反したことによる反則金相当額や、減点された点数を金銭的に換算した損害額です。しかしながら、その金銭的評価は難しく、必ずしも高額ではないので、訴訟までして請求するかという費用対効果の面での問題があります。
また、不法行為責任ですので、駐車車両の過失と、こちらの損害との間に因果関係が認められなければなりませんが、これを立証しなければいけないのは請求するこちら側です。
当時の状況について、駐車車両に過失があったことの立証に加え、通常の一般人の観点から見て、規制標識が何も認識できず、また周囲の状況からも一方通行規制があるとはおよそ思えなかったという立証を行う必要があるでしょう。その場合、現に標識や周囲の状況が分かる写真やドライブレコーダーの記録の保全は必須と思われます。
なお、その違反によって事故等が生じた場合には、さらに駐車行為と事故等による損害について検討し、駐車車両が標識を隠したことと、事故が発生したことや、生じた被害との間に因果関係を立証する必要があります。
これらの立証ができて、駐車車両に不法行為責任があるとされれば、損害賠償を受けることは可能と思われますが、現実にそこまで行うことができるケースは多くないと思われます。
(執筆 清水伸賢弁護士)