「ながら運転」の厳罰化を周知していますか?

■12月1日より、改正道路交通法が一部施行されます

ながら運転罰則が大幅に強化

 

 さる2019年6月5日に改正道路交通法が公布され、その一部が12月1日から施行されます。

 

 今回施行される改正部分は、以下のように携帯電話使用等の罰則強化がポイントです。施行前に事業所の運転者に周知して、ながら運転を防止しましょう。

 

1 携帯電話使用等の罰則強化

 運転中()に携帯電話やスマートフォンを手に持っての通話や画面を注視したり、カーナビゲーション装置の画面を注視する「ながら運転」への罰則が大幅に強化され、事故など交通の危険を生じさせた場合は、「1年以下の懲役刑」など厳罰が科せられます。

(※車の停止時を除く)

 

 また、違反点数と反則金も約3倍と大幅に引き上げられましたので、運転者が免許停止や免許取消し処分を受ける可能性が高くなります。

 

2 ながら運転を「免許の仮停止処分」の対象に

 携帯電話使用等の違反をして交通事故などの危険を生じさせ(交通の危険)、人を死傷させた場合は、運転免許の効力の仮停止の対象に含めることになりました。 

(※『免許効力の仮停止』は交通事故などの発生時、即座に運転免許の効力仮停止や運転の仮禁止が可能な処分で、点数制度による免許停止処分とは異なります。30日を超えない範囲とされていて、死傷事故で適用される違反は、無免許運転、麻薬等運転、酒酔い運転、過労運転等など悪質な違反に限られています)

 

3 運転免許証の再交付要件の緩和など( → 文末の囲みを参照)

ながら運転(携帯電話使用等)違反の罰則強化 

 ※警察庁の道路交通法改正資料より作成しました。

■こんな「ながら運転」事故の責任が問われています

 運転中の画面注視などによる重大事故が相次ぎ社会の処罰感情も非常に高くなっています。

 このため、改正道路交通法の施行前からスマホ関連事故の刑事裁判では、「単純な過失による事故とは一線を画する」として、より厳しい判決が降りる傾向が見られます。

スマホでマンガを読んでいた運転者に懲役3年の実刑判決──新潟地裁長岡支部

スマホながら運転追突事故

 2018年9月関越自動車道で起こったスマートフォンの「ながら運転」による死亡事故の裁判で、新潟地裁長岡支部は2019年8月7日に、元運送会社社員の男性被告(51歳)に懲役3年の実刑判決を言い渡しました(被告は控訴せず判決確定)。

 

 事故は2018年9月10日午後9時10分ごろに新潟県南魚沼市の関越道で発生しました。

 被告は時速約100キロで運転中にスマートフォンで漫画を読みながらワゴン車を運転し、FMラジオ局パーソナリティの女性(当時39歳)が乗るバイクに後方から衝突して即死させたものです。

 

 判決理由で裁判官は「直前までバイクに気づかなかったのは、相当前からスマホを見ていたからだと考えられる」と指摘。

 「一瞬の不注意による事故とは一線を画する、特に危険で悪質な運転による事故」と強調し、「運転中にスマートフォンで漫画を読む行為を自ら選択したことには、厳しい非難が向けられるべきだ」と述べています。

 

 過失運転致死罪の判決として懲役3年は比較的重いものですが、女性の遺族は「悪質な運転でも、単なるわき見運転と同じ過失致死罪が適用されたのは理解しにくい」「考えられる限りの重い刑罰を」と強く公判で訴え、社会の注目を浴びた裁判です。

画面や画像注視の危険性を厳しく指導しよう

■通話事故は減少し、画面注視、画像利用事故が急増している

携帯電話使用等違反による事故の推移
警察庁の資料より

 スマートフォン、携帯電話・タブレット、カーナビゲーション装置などの画面を注視する行為は、通常のわき見と違って、画面に意識が集中してしまい、周囲の危険を発見することができず、歩行者や他の車に衝突する重大事故につながる危険が極めて大きくなります。

 

 警察庁の事故統計により、携帯電話使用等に関連する交通事故発生状況の推移を見ると、2018年ではカーナビゲーション装置やカーテレビ等の画像を注視する「カーナビ等の注視」が1,698件と最も多く、次いで携帯電話やスマートフォンでメール、インターネット、ゲームなどの画像を見たり操作したりする「画像目的使用」が966件発生しています。 

 

 電話機能を使った「通話目的」の事故は比較的少なく減少傾向にありますが、画像目的使用は2013年に比べて1.5倍、カーナビ注視も1.4倍と増加基調です。

 

 全交通事故件数は、2013年の596,658件から2018年は406,755件と68%に減少しています。それにも関わらず、注視・画像関連の事故は40~50%も増えているのですから、これらの事故がとくに増加して重要課題となっていることがわかります。

■「ちらっと見るくらいなら大丈夫」という油断が大事故に結びつく

 上の判決例にあげた事故の場合、衝突するまで漫画アプリを十秒以上に渡って見続けていて、前車にまったく気づいていなかったことが指摘されています。

 

 画面を注視して運転する人は、「ほんの短い時間ちらっと見るだけだから大丈夫」とか「前方にときどき視線を戻しながら見るから心配ない」と考えているかも知れません。しかし、実際にこうした事故が多発している以上、本人が感じる時間より極めて長い時間、わき見しているのが実態だと思われます。人間の時間感覚はあいまいであり、うっかりするとすぐ数秒以上のわき見に陥ります。

 地図アプリなどで道を探したり、到着時間を調べていて事故を起こした事例も多いので、必ずしも遊び気分でスマートフォンを見ている場合だけが危険なわけではありません。

 

 また、大阪大学人間科学部で「注意の心理学」に着目して行った実験研究(※)によると、運転状況における注意の変化では、遠い対象(遠方の交通状況)から近くの対象(カーナビゲーション装置やカーテレビ画面等)に注意を切り換える反応時間は、近くの対象から遠くの対象に切り換える反応時間より顕著に短く、切り換えが効率的に行われるということがわかりました。

 その反対に、近くの対象から遠くの対象に注意を切り換えるのは、抵抗が強く効率が悪くなることが判明したということです。

 

 運転中であっても近くのスマホ画面などにすぐ集中できる一方、前方への注意集中に戻るのは遅れが生じて難しくなる──画面注視が極めて危険な行為だということがわかります。

 違反が重罰になったからというだけでなく、運転者には「命を守る」という観点から厳しく指導してください。

 

(※「注意の心理学から見たカーナビゲーション装置の問題点(大阪大学人間科学科,三浦利章,篠原一光,2001年6月」IATSS Review Vol0.26, No.24による)

■走行中のスマホ操作を抑止するアプリなども登場

 こうした厳罰化を踏まえて、スマホ操作抑止のツールも登場しています。

 

 一つは、スマートフォン自体の動きを制御するアプリケーションです。

 いろいろなアプリが登場していますが、基本は車が移動中の状態を検知しスマホ操作を抑止します。動画などを起動中でも移動を検知すると抑止モードに入るので、みられなくなります。

 

 また、ながらスマホ等の危険行動を感知する企業向けAIドライブレコーダーも発売されています。

 高性能小型カメラが、車内外で発生した事象を検出、録画して、運転の危険度をリアルタイム分析したうえで、ながらスマホの他にも長時間のわき見や居眠り運転、車間距離不足などの危険を運転者に知らせます。

 

 さらに、ながらスマホなどをした行動の画像がウェブ経由で自動的に運行管理責任者に送付され、管理者が効果的な安全運転指導を行うことができるとされています。

  

【その他の道路交通法改正ポイント】 

3 運転免許証の再交付要件の緩和など 

  1. 再交付申請の規定見直し──改正前は、免許証の再交付は滅失や盗難など亡失したときに限られていましたが、改正後は名字や住所等の記載事項、写真を変更届出時に、希望があれば免許証を再交付できるようになりました。「免許証記載の身分事項の変更を他人に察知されたくない」などの場合に配慮したものです。運転経歴証明書の再交付についても同様です。
  2. 免許失効者にも運転経歴証明書の交付を可能に──改正前は免許失効者の場合、免許自主返納者のみが運転経歴証明書の交付申請ができるとされていましたが、更新を受けずに免許を失効した人に対しても交付申請を可能としました(これらの免許失効者の中にも自主返納者と同様に身体機能低下を自覚して運転の場から離れた人が相当数いると考えられるからです)。
  3. 運転経歴証明書の申請は住所地の公安委員会で可能に──自主返納者が運転経歴証明書の交付申請ができるのは、取消しを行った公安委員会に限られていましたが、改正後は申請者の住所地を管轄する公安委員会に申請できることになりました。引っ越しなどによる移転時の著しい不便を解消するためです。
  4. 免許失効者で運転経歴証明書の申請を認めない場合──2の改正に伴い、免許失効者の中で失効前に免許取消し等の基準に達していた者については、自主失効者に準ずるとは言えないので、運転経歴証明書の交付申請を認めないことになりました。
  5. 大型自動二輪車区分の見直し──電動自動二輪車は大型・普通の区別がありませんでしたが、改正後は定格出力0.60キロワットを超える電動自動二輪車を普通自動二輪車とし、定格出力20.00キロワットを超える電動自動二輪車が大型自動二輪車として区分されました。なお、経過措置として11月30日までに普通自動二輪車免許を受けていてすでに電動大型自動二輪車を運転している人は、来年の11月30日まではそのまま電動大型自動二輪車を運転できます。また、大型自動二輪車免許を受ける場合は、電動大型自動二輪車で運転免許試験を受けられます。
  6. 電動ベビーカーなどの歩道通行を可能に──補助駆動装置つきの乳母車や大型の電動乳母車、いわゆる電動ベビーカーは明確な規定がなく、原動機付自転車に分類されていましたが、改正後は規定により一定の基準を満たすものは歩行補助車等に該当するとして歩道歩行が可能になります。

【参考】

改正された主な法令

 ※【罰 則】 道路交通法第71条第5号の5の規定に違反した場合の罰則の改正

 ※【違反点数・反則金】 道路交通法施行令 別表第2及び別表第6の改正

 ※【免許効力の仮停止】 道路交通法第103条の改正

 ※【免許証再交付申請】 道路交通法第94条の改正

 ※【運転経歴証明書規定関係】 道路交通法第104条の4、同105条の改正

 ※【大型電動二輪、軽車両関係】 道路交通法第2条の改正 

【関連webサイト】 

 ・運転中の「ながらスマホ」が厳罰化!(政府広報オンライン)

 ・やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用(警察庁webサイト)

 ・ながら運転の罰則強化(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)

 ・「ながらスマホ」の罰則大幅強化/12月1日施行(最近の法令改正)

 ・改正道路交通法を施行「自動運転関連」/2020年4月1日施行(最近の法令改正)

 ・改正道交法 ─「あおり運転」を厳罰化/2020年6月30日施行(最近の法令改正)

■ながらスマホなど危険・迷惑な運転をするドライバーを指導しよう

悪質・危険運転をなくそう

 最近、他の車をあおったり、運転中にスマートフォンを操作して重大事故を誘発するなど、「ドライバー失格」と言える行為が目立つようになり、取締りや罰則が厳しくなっています。

 

 この冊子では、代表的な危険・迷惑運転を取り上げ、その罰則の重さと運転上の注意ポイントを解説しています(12月1日から施行される道交法改正=携帯電話使用等の罰則強化=についても収録しています)。 

 

 ドライバー向けのセルフチェック欄も設けていますので、自分が無意識のうちに危険・迷惑運転をしていないかチェックすることができます。今、事業所にとって運転者教育に最適の小冊子です。

 

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