今月1日から改正道路交通法が施行され「ながらスマホ」など携帯端末使用、カーナビ画面への注視等が厳罰化されますが、車だけでなく、自転車の「ながら運転事故」も多発していることはご存知ですか?
自転車の場合は、スマートフォンへのわき見だけでなく、ヘッドフォンで音楽に夢中になったり、自転車の集団で会話しながら歩行者の通行を妨げる速いスピードで走行して事故を起こすケースが問題となっています。
自転車の衝突であっても、状況によっては歩行者の死亡・重傷事故に結びつくことがあります。
皆さんの勤務する事業所あるいは学校などで、通勤・通学のため自転車を利用する人の安全意識は大丈夫でしょうか?
自転車利用者に安全運転指導を実施して、意識喚起をはかってください。
高校生がスマホに夢中で交差点の安全誘導者をはね、意識不明の重体に
──「重過失傷害」で書類送検/兵庫県警
2019年6月17日の朝、兵庫県伊丹市内町の信号のない交差点で、高校3年の生徒が自転車に乗りながらスマートフォンを操作していて、通学する子どもたちの見守り活動で路上に立っていた77歳の男性をはねました。
この事故で男性は転倒した際に頭をコンクリートにぶつけ、外傷性くも膜下出血で一時は意識不明の重体となり、いまも意思の疎通が十分にできない状態だということです。
さる10月1日、兵庫県警察本部は重過失傷害の疑いでこの生徒を書類送検しました。
事故を起こした高校生は「スマートフォンに気を取られて前をよく見ていなかった」と容疑を認めています。
女子大生の「ながらスマホ死亡事故」で、禁錮2年の有罪判決
──速度が低かったこと等を考慮し執行猶予4年/横浜地裁川崎支部
2017年12月7日、神奈川県川崎市の歩行者専用道路で、電動自転車を運転していた20歳の元女子大学生が、歩行中の女性(77)に衝突して女性を死亡させる事故が発生しました。
元女子大生は左手にスマートフォンを持ってイヤホンで音楽を聞き、右手に飲み物を持ちながら走行して、スマホ操作中に事故を起こしたもので、重過失致死罪に問われました。
2018年8月27日、横浜地裁川崎支部は事故の判決公判で禁錮2年・執行猶予4年(求刑禁錮2年)の判決を言い渡しています。
裁判官は「自転車の運転が人を死傷させうるものだという自覚を欠き、周囲の安全を全く顧みない自己本位な運転態度で、過失は重大」と厳しく指摘したうえで、事故当時は時速9.3キロと比較的低速だったことや、被告の家族が加入する保険によって被害者遺族への賠償が見込まれる点、大学を中退するなど既に社会的制裁を受けていることなどを考慮し、執行猶予つきの判決が相当だと結論づけられました。
自転車で人身事故を起こした場合、自動車のドライバーと違い自動車運転死傷行為処罰法の対象にはなりませんが、軽車両の運転者として、刑法の業務上過失致死傷の類型である「重過失致死傷罪」に問われる可能性が高くなります。
歩行者側の過失が非常に大きい場合には、自転車側は「過失致死傷罪 」にとどまったり、不起訴処分となることも考えられますが、後述する民事賠償責任は発生します。
運転中にスマートフォンなどを使用していた場合は、重過失致死傷で送検されることは免れないでしょう。
重過失致死傷罪の罰則は、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」であり自動車の過失運転致死傷罪「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」に準ずる重罰となっています。
道路交通法の改正により、2015年6月1日から交通の危険を生じさせる違反を繰り返す自転車の運転者には、安全運転を行わせるため講習の受講が義務づけられました(子どもでも14歳以上は対象)。
交通の危険を生じさせる違反とは、たとえば「信号無視」「一時不停止」「遮断踏切立ち入り」「酒酔い運転」「安全運転義務違反」など以下の14項目の違反をさします。
これらの違反をして、3年以内に2回以上検挙された場合または事故を起こした自転車運転者は講習の受講が義務づけられ、未受講者は罰金刑が適用されます。
安全運転義務違反とは、自転車側の過失によって人身事故が起きたような場合などで多くの行為が該当します。たとえばスマートフォンを見ながら自転車を運転して歩行者と衝突するようなケースも、安全運転義務の違反です。
【自転車運転者講習制度の対象となる「交通の危険を生じさせる違反」行為】
1 信号無視 | 8 交差点優先車妨害等 |
2 通行禁止違反 | 9 環状交差点の安全進行義務違反 |
3 歩行者用道路徐行違反 | 10 指定場所一時不停止等 |
4 通行区分違反 | 11 歩道通行時の通行方法違反 |
5 路側帯通行時の歩行者通行妨害 | 12 ブレーキ不良自転車運転 |
6 遮断踏切立入り | 13 酒酔い運転 |
7 交差点安全進行義務違反等 | 14 安全運転義務違反 |
人身事故を起こした場合は、車と同様に民事責任(損害賠償責任)が発生します。
死亡事故や被害者が重傷で後遺障害が残った場合は、億単位の損害賠償義務が発生する可能性もありますが、車とは違って自賠責保険のように最低限の保険加入を義務付ける法律がありませんので、まったく無保険のままでいると多額の損害賠償債務が生じることがあります(※)。
一方、保険に加入していて損害賠償がスムーズにいけば、執行猶予付き判決例のように刑事裁判における心象に影響し、情状を酌量される余地があります。
事業所としては、会社所有の自転車に自転車損害賠償保険を付保するとともに、通勤時に自転車を利用する従業員に対しては、安全運転指導を実施する際に損害賠償保険加入の有無を確認してください。できれば、自転車通勤の認可基準として保険加入を義務づけることが望ましいでしょう。
(※現在、大阪・京都府や兵庫・埼玉・神奈川県など9つの府県と、仙台市、名古屋市など6つの政令指定市、東京都の一部の区などで、自転車保険加入を義務づける条例を定めている自治体があります。東京都全体でも2020年4月から都条例で義務化されます)
⇩
はい
「自転車損害賠償責任保険(共済)」
に加入ずみ
⇩
補償内容(賠償額)が十分か、補償期限が終わっていないかを確認する
※クレジットカードに自転車害賠償保険に相当
する補償がついている場合があります。
⇩
いいえ
自動車保険、火災保険などに加入している場合は、基本補償または特約として自転車の損害賠償が付保されていないかを確認する
いいえ
⇩
特約を保険(共済)担当者に相談する。または、新たに自転車損害賠償保険に加入する
最近は、自転車専用損害保険が各種販売されています。
これらは個人加入の保険です。また、団体保険として以下のような加入方法もあります。
なお、国土交通省は企業の自転車通勤や業務利用を拡大するため、自転車通勤などを取り入れようとしている事業者向けに、自転車通勤制度の導入・実施における課題などについてまとめた「自転車通勤導入に関する手引き」を作成し(2019年5月)、広く頒布しています(インターネット上からもダウンロードが可能)。
自転車通勤による健康メリット、保険の付保、ヘルメットの着用、安全指導のポイント、自転車事故が発生した時の対応など、自転車通勤制度の導入時に検討すべき事柄などが紹介されるとともに、そのまま使用できる「自転車通勤規定」及び「自転車通勤許可申請書」の様式も掲載しています。
また、従業員の通勤時自転車事故によって会社が損害賠償責任を問われるケースなどにも言及しています。
詳しくは、国土交通省のWEBサイトを参照してください。
【参考】
・自転車の違反による交通事故の責任(安全管理法律相談/清水伸賢弁護士)
・自転車通勤の事故対策を考える(危機管理意識を高めよう)
・交通事故の判例ファイル16 (自転車の重過失)
・違反を繰り返す自転車の利用者に「自転車運転者講習」を義務づけ
・自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~(警察庁WEBサイト)
・「ながらスマホ」の罰則大幅強化/12月1日施行(最近の法令改正)
自転車の運転に免許証は必要ありませんが、そのため、交通ルール・マナーを十分に理解しないまま危険な運転をしている人が後をたちません。
このテストは日頃の自転車の運転を振り返り、48の質問に「ハイ」「イイエ」で答えることで、普段どれぐらい自転車を安全に運転できているかを簡単に知ることができるテストです。
診断結果をみて反省することで、日々の自転車の安全運転に活かすことができます。