車の点検・整備は使用者の義務として当然のことですが、運転者任せにして、軽視している事業者がいます。
昨年9月に神戸市で整備不良により大きなトラック事故が発生し、経営者が逮捕される事例もありました。
整備不良の車に乗っていて事故の被害にあうのは運転者自身ですから、運転者の自覚を高めることがまずは重要です。
さらに、事業者=使用者=にとっても法的な責任があることを忘れていると、刑事罰や大きな損害賠償義務などを負うことになります。
今一度、自動車を使用しているのは事業者自身であるということを再認識して、点検・整備の徹底を図りましょう。
ブレーキ不具合がある車を使用させて、運転者が死亡
──会社の社長と営業所長を「業務上過失致死傷」容疑で逮捕
2019年9月3日、神戸市灘区の市道で大型トラックが2キロ以上にわたって下り坂を暴走して、道路沿いの川に転落、男性運転者(当時57歳)が死亡する事故が起こりました。また、巻き込まれた歩行者・乗用車の乗員など8人が重軽傷を負っています。
この事故に関して捜査していた兵庫県警は、今年1月、トラックのブレーキに不具合があった可能性を知り運転をさせない注意義務があったのにも関わらず、神戸市東灘区の倉庫へ荷物を届けるよう指示したとして、大阪の運送会社社長(52歳)と運転者が勤務していた熊本県にある九州営業所の所長(63歳)を業務上過失致死傷容疑で逮捕しました。
事故を起こしたトラックは朝8時頃、六甲山から降りてきて途中でブレーキが効かなくなったらしく、歩行中の高校生や乗用車等5台に次々と衝突し、亡くなった運転者は川にトラックが転落するまで必死でクラクションを鳴らし続けていたということです。事故の前には運転者が会社の上司にブレーキの不調を訴えていたという情報もあります。
【続報──元営業所長は禁錮1年4か月の実刑】
この事故の刑事訴訟では、車両整備を怠った疑いで業務上過失致死傷罪に問われた運送会社の元営業所長に対して、神戸地裁が2022年3月16日、禁錮1年4か月(求刑は禁錮2年6か月)の実刑判決を言い渡しました。
元所長は車両整備の管理者でもあり、事故前に、運転者から複数回も車両の異常を報告されていましたが、点検や修理を行わなかったことが指摘され、エアブレーキの部品は2年に1度の交換が推奨されていますが6年間も交換していなかったことが判明、「事故はエアブレーキの不調に起因する」とされました。
その上で、地裁は「所長自らもトラックの警告音を聞いて不具合を認識しており、ずさんな安全管理だったことは否めない」と指摘し、利益優先の組織の体質にも問題があり、公判で亡くなった運転者へ責任転嫁した点を重く見て、猶予刑にはできないと判断したものです。
(2022年3月16日更新)
ブレーキが効かない車ほど恐ろしいものはありませんが、最初の不具合は「少し効きにくい」といった訴えで始まります。
そこで、管理者や経営者の意識が低い場合は、とりあえず運行が終わって帰ってきてから整備に相談しようといった対応になりがちです。
また、定期点検整備の際に整備工場から「後輪のパッドが摩耗している」と指摘されていたにも関わらず、予算などを気にして、パッドの交換は1か月後にしようなどと甘い算段をとることがあります。
このように点検・整備を軽視している事業者の車が経路や車種選定を深く考慮しないまま運行され、長い下り坂などフェード現象が起こりやすい道路を走った場合、事例のような悲劇が生まれることになります。
一般の平坦な道を走行していて、ブレーキを踏んで赤信号で止まれなかったといったケースでは軽い追突事故ですむ可能性もありますが、いつもそう運良く終わるとは限りません。
「まだ大丈夫は、もう危ない」と考え、部品の交換などをきちんと徹底しましょう。
整備不良車を運行させて運転者を死傷させたり、他の交通参加者を死傷させてしまった場合は、自分が運転していなくても、道路交通法違反や道路運送車両法の違反に問われるだけでなく、事例のように業務上過失致死傷の罪に問われる可能性があります。
また交通事故の損害賠償責任はもちろんのこと、それだけではなく、従業員の安全を確保できなかったという点では、従業員側から安全配慮義務違反で損害賠償を請求される可能性があります。
「安全配慮義務」とは、労働契約法の第5条に定められた、労働者が安全で健康に働けるように企業側が配慮すべき責任のことです。
整備不良車を運行させることの罪は、非常に大きいことを自覚しましょう。
【参考】
・タイヤの点検を徹底していますか(危機管理意識を高めよう)
・車両の不具合を軽視していませんか(危機管理意識を高めよう)
・安全配慮義務について認識していますか(危機管理意識を高めよう)
・車両の点検・整備は徹底していますか?(危機管理意識を高めよう)