貨物運送事業を営む経営者です。万が一のための質問ですが、当社のトラックが大事故を起こし、ドライバーが死亡した場合、弊社はどの程度の責任を負うことになるのでしょうか?
まず、従業員の過失によって交通事故が生じ、相手方に被害が生じている場合には、会社は運行供用者責任、及び使用者責任を負うことになります。
従業員であるドライバーが死亡した場合も、相手方に対して同責任が生じること自体は同様です。
また、会社とドライバーとの間の契約が雇用契約ではなく、請負契約であった場合でも、会社が自動車の運行供用者で、一定の指揮命令関係にあれば、会社の業務における交通事故では、会社に運行供用者責任、使用者責任が認められます。
そのため、会社は被害者に対する損害賠償責任を負うことになります。ただし、被害者側に過失があれば、過失割合に応じて過失相殺がなされます。
なお、使用者責任に基づき損害を賠償した会社は、従業員に対して求償をすることができます(民法715条3項)。
この点ドライバーが死亡した場合には、会社から被害者に対して支払った賠償金の相当額を、ドライバーの相続人に求償することが考えられます。
ただし判例によれば、この場合求償の範囲は、「信義則上相当と認められる限度」とされています(最高裁判所昭和51年7月8日判決)。また、ドライバーの相続人が全て相続放棄をした場合には、求償する相手がいなくなることになります。
ちなみに、運行供用者責任を定める自動車損害賠償保障法3条本文は、「他人の生命又は身体」の損害の賠償を定めますが、ここにいう「他人」には、通常、運行供用者及び運転者を含みません。
また、使用者責任も、通常は第三者に対する責任の規定です。そのため、基本的に運行供用者責任や使用者責任は、ドライバー(の遺族)から会社に対する責任追及の根拠とはなりません。
ドライバーが会社に雇用される労働者であった場合、業務における交通事故による死亡等は労働災害であるといえます。
労働基準法には、災害補償の規定があり(同法75条以下)、労働者が業務上死亡した場合には、会社は遺族に対して、平均賃金の1,000日分の遺族補償を行わなければならないとされています(同法79条・遺族補償)。
また会社は、葬祭を行う者に対して、平均賃金の60日分の葬祭料を支払わなければならないとされています(同法80条)。
ただし、これらの災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(労災保険法)<※下表参照>等で同災害補償に相当する給付が行われるべきものであれば、使用者は補償の責を免れるとされています(同法84条1項)。
つまり会社としては、労働者災害補償保険(いわゆる労災保険)から遺族年金や葬祭諸費用等の給付がなされる場合には、災害補償の責任を免れることになります。
なお、会社とドライバーとの契約が請負契約であった場合、原則は元請の会社の労災保険は利用できないことになります(そのため、いわゆる一人親方のドライバーを対象とした労災保険もあります。)。
ただし労働基準法は、「労働者」の定義を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」としています(同法9条)。
そして会社とドライバーの契約が形式的に請負契約とされていても、具体的な業務内容や指揮監督関係の内容等の実態を見て、当該ドライバーが「労働者」に該当するとされた場合には、労災保険による保護の対象となります。
同法上の労働者に当たるかどうかは、旧労働省の昭和60年12月19日付「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」で示されていますが、具体的な事情を検討することが必要です。
同報告は、労働者に該当するかどうかは「使用従属性」と「労働者性の判断を補強する要素」によって判断するとしています。その概要は、「使用従属性」を指揮監督下で労働し、賃金が支払われる関係にあるかどうかで判断し、使用従属性があることを前提に、「労働者性の判断を補強する要素」の有無を検討します。
具体的には、業務依頼についての諾否の自由の有無や、具体的な指揮命令関係、勤務場所や時間の指定、業務の代替性、業務と報酬の労務対償性などが検討されます。
労災保険で一定の給付がされる場合でも、ドライバーの死亡によって生じた損害の全てが補償される訳ではなく、例えば慰謝料は出ません。また、請負契約で「労働者」ではない場合、労災保険の適用はないことになります。
このような場合、ドライバーの遺族から、会社に対して損害賠償請求がなされることが考えられます。この場合でも、会社側に特に何の落ち度も無いような場合には、会社が損害賠償責任を負うことにはなりません。
ただ、ドライバーの交通事故に関し、会社において安全配慮義務違反があるような場合には、会社は債務不履行責任を負いますし、その他会社の行為によって交通事故が生じたような場合には、会社の故意または過失による損害として、不法行為責任が生じることもあります。
例えば、交通事故の原因が、過剰なノルマや勤務体制によるものであったり、あるいはドライバーが使用する自動車について、会社のメンテナンスの不備等が事故原因であったりするような場合には、会社が損害賠償責任を負う可能性が高いといえます。
なお、会社が損害賠償責任を負う場合、損害額から労災保険で給付された金額を差し引くことができるのが原則です(同法84条2項)。
(執筆 清水伸賢弁護士)