このたび、道路交通法と自動車運転死傷行為処罰法が改正され、あおり運転に対する厳しい罰則が適用されることになりました。
2017年に東名高速道路であおり運転に起因した悲惨な死亡事故が発生して社会問題化したことを受けて、警察の取締りを強化するとともに、政府は罰則強化と危険運転致死傷罪を適用するため、法令改正をすすめてきました。
今回の法改正により、これまで明確な定義がなかった「あおり運転」が、悪質な道交法違反=「妨害運転」行為として新たに規定され、罰則も最高で5年以下の懲役または100万円以下の罰金と、酒気帯び運転や酒酔い運転に匹敵する厳しさとなります。
また、危険運転の規定に「あおり運転」行為の2類型が追加され、死傷事故発生時に危険運転致死傷罪が適用されると、死亡事故では最長で20年の懲役で起訴されることになります。
なお、妨害運転は1回違反するだけで免許取消処分を受けることになり、職業ドライバーであればすぐに仕事を失うことになりますので、この事実に注目し運転者への指導を強化してください。
(※編集部追注/改正道路交通法は6月10日に公布されました。6月30日に施行されます。また、
改正自動車運転死傷行為処罰法は同12日に公布されましたので7月2日に施行されます)
他の車両の通行を妨害する目的で、
右のような行為を交通の危険を生じ
させるおそれのある方法でした場合 ⇒
●通行区分違反(対向車線の逆走等)
●車間距離を詰める
●急ブレーキをかける
●不必要なクラクション
●急な進路変更(割込み)
●ハイビーム威嚇の継続
●乱暴な追越し、左からの危険な追越し
●幅寄せや蛇行運転
●高速道路での最低速度違反
●高速道路での駐停車 等
改正前
車間距離不保持違反
急ブレーキ禁止違反
追越し方法違反
警音器使用等違反
駐停車違反
等を適用
■罰則
一般道路は、5万円以下の罰金
高速道路では、3月以下の懲役または5万円以下の罰金
(車間距離不保持の場合)
・道路交通法第119条
・道路交通法第120条等を適用
【違反点数と反則金】
車間距離不保持(一般道)1点
普通車反則金 6,000円
車間距離不保持(高速道)2点
普通車反則金 9,000円
急ブレーキ禁止違反 2点
普通車反則金 7,000円
追越し方法違反 2点
普通車反則金 9,000円
など
改正後
①妨害運転(交通の危険のおそれ)
上記のような違反行為を交通の危険が生じるおそれがある方法で行った場合は「妨害運転」
■罰則
3年以下の懲役または50万円以下の罰金
②妨害運転(著しい交通の危険)
①の妨害運転をして高速道路上で相手の自動車を停止させたり、その他、道路における 著しい交通の危険を生じさせた場合 注1
■罰則
5年以下の懲役または100万円以下の罰金
・道路交通法第117条の2の2 第11号
・道路交通法第117条 第6号 等を新設
【違反点数と行政処分】
妨害運転は、反則通告制度の対象にはならない(反則金は適用されない)。
①妨害運転(交通の危険の恐れ)の場合
違反点数 25点 → 即、免許取消処分
(欠格期間 2年/前歴なしの場合)注2
②妨害運転(著しい交通の危険)の場合
違反点数 35点 → 即、免許取消処分
(欠格期間 3年/前歴なしの場合)注3
※違反点数25点は、呼気中アルコール濃度0・25mg/リットルの酒気帯び運転の点数と同等。
また、違反点数35点は、酒酔い運転と同じ点数。
【免許の仮停止】
あおり運転事故でも、飲酒運転やひき逃げ、携帯電話違反等がない場合は仮停止にはならない。
【免許の仮停止/注4】
②妨害運転(著しい交通の危険)をして、交通の危険を生じさせ、死傷事故を起こした運転者は、運転免許の効力仮停止の対象に含める
●「あおり運転」では運転者以外のそそのかした同乗者等も免許取消処分を受ける
【あおり運転の「同乗者など」に対しても行政処分を科す】
妨害運転をそそのかした者も「重大違反そそのかし」に含まれ、免許取消しの処分が行われる。欠格期間は最低で2年。ただし、違反点数は加算されない。
そそのかしは、運転前に運転者にあおり運転を指示した上で車に乗らなかった者など同乗者以外にも適用される。免許がない者は欠格期間中、免許を取得できない。
●警察庁作成による「あおり運転」を解説する道路交通法リーフレット・ポスター(PDF)
(ポスター・リーフレットは、同庁のwebサイトからダウンロードできます)
■「あおり運転」の厳罰化と対処法に関して、動画ページも公開されています
→ 政府インターネットテレビ:悪質ドライバーの撲滅を目指す!~「あおり運転」厳罰化
あおり運転のために交通事故が発生しても、過失運転致死傷罪が適用された場合、うっかりミスによる事故と同じような量刑になります。
今回の自動車運転死傷行為処罰法の改正では、「危険運転致死傷罪」の構成要件が拡大され、以下の2項目の類型が付け加えられました(注1)。
この改正により、妨害運転をする車の速度には関係なく、交通の危険が生じる危険のある速度で走行している他車の前で停止したり、高速道路などで急接近して徐行・停止させる行為をして死傷事故に結びついた場合は危険運転の適用が可能になります。
【同法第2条 第5号・第6号】
5 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
6 高速道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう)をさせる行為
改正前
交通事故の原因にあおり行為があっても、過失運転致死傷罪が適用された場合
■罰則
7年以下の懲役・禁固、
または100万円以下の罰金
【事故の違反点数】
一般の違反行為(急ブレーキ違反や安全運転義務違反等)での人身事故とされた場合は、交通事故の付加点数は以下のようになる。
死亡事故 20点
全治3か月重傷 13点
3か月未満の怪我 9点
30日未満の怪我 6点
15日未満の怪我 3点
改正後
妨害目的で、重大な危険が生じる速度で走行中の他車の前で停止、高速道路での前方停止、急接近などの行為は、危険運転致死傷罪に該当。
■罰則
傷害事故 15年以下の懲役
死亡事故 1年以上の有期懲役
※有期懲役とは最大20年の懲役をさす。
【危険運転致死傷罪の事故点数】
交通事故に危険運転致死傷罪が適用された場合は、一般の違反行為ではなく特定違反行為とされて事故の付加点数は非常に厳しくなる(かっこ内は免許取消の欠格期間/前歴なしの場合)。
危険運転致死 62点(8年/注2)
全治3か月重傷 55点(7年)
3か月未満の怪我 51点(6年)
30日未満の怪我 48点(5年)
15日未満の怪我 45点(5年)
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」改正 2020年6月12日施行
今回の道路交通法改正で、妨害運転は「車両等の違反」として位置づけられていますので、自転車で他の車の通行を妨害する意図で違反をした場合も罰則の対象となります※1。
また道路交通法改正に伴い道路交通法施行令が改正され、自転車のあおり運転についても新たに安全講習の対象となっています。
道交法施行令41条の3では、自転車利用者が安全講習を受ける対象となる規定の違反行為(危険行為)として「信号無視」「酒酔い運転」などの14項目を規定しています。
ここに新たに15項目めとして、あおり運転に当たる「妨害運転」が加わります。
妨害運転は、具体的には他の自転車や自動車、バイクの通行を妨げる目的で、逆走して進路をふさぐ、幅寄せ、進路変更、不必要な急ブレーキ、ベルをしつこく鳴らす、車間距離の不保持、追い越し違反の7つの行為が想定されています。
自転車利用者が14歳以上の場合、これらの危険行為を3年間に2回以上違反すると、3時間の自転車安全講習※2を受講する義務が発生し、受講しないと5万円以下の罰金刑を受けます。
(※1 自動車運転死傷行為処罰法は、自転車の運転に対しては適用外)
(※2 自転車講習は2015年6月1日から実施。14歳未満の子供は自転車違反処罰の対象外)
道路交通法では、路線バスのバス停から10m以内の場所は路線バス以外は駐停車禁止と定められています。
今回の改正ではこの規定が見直され、自治体や地域のNPOが運行するデマンドバスやコミュニティバスなど「自家用有償旅客運送」の車両に関して、関係者が合意した場合には、路線バスの停留所に駐停車が可能となります。
この規定は、改正法公布日より6か月以内に施行となっていますから、12月9日までに施行されます。
準中型自動車免許を受けた人は、準中型自動車免許を受けていた期間が通算して1年に達しない
間は、普通自動車を運転する場合も、車の前後に初心運転者マークを付けないで運転してはならない
ことになりました。
また、他の運転者は、初心運転者マークを付けた準中型自動車に対して、危険防止のためやむを得ない場合を除いて、準中型自動車の側方に幅寄せをしたり、必要な車間距離が保てなくなるような進路変更をしてはならないことも定められました。
車輪止め装置の取付けの措置による違法駐車行為の防止に係る規定(道路交通法第51条の2関係)が削除されました。
車輪止め装置の規定は、放置駐車違反防止のため1994年に新設され、指定区間を設けて実施された時期がありました。しかし、駐車監視員制度などの導入を経て放置駐車違反が減少し、指定区間そのものを廃止する都道府県警が相次ぎ、2007年以降唯一取締まり例があった静岡県も2016年7月末に廃止、実態として意味のない規定でした。
トラックの大型・中型免許やタクシーなど第二種免許の受験資格の見直しが行われ、特別な教習の受講を条件に19歳から免許の取得が可能になります。
改正前の受験資格は第二種免許が「21歳以上で普通免許の保有歴3年以上」、第一種の大型運転免許が「21歳以上で普通免許の保有歴3年以上」、中型免許が「20歳以上で普通免許の保有歴2年以上」となっています。
今回の改正で運転技能などを学ぶ教習カリキュラムを受講することを条件に「19歳以上で普通免許保有歴1年以上」の人が受験できるようになります。
なお、安全対策として、特例を受けての免許取得者は21歳(中型免許は20歳)までに違反が一定基準に達した場合は、講習の受講が義務づけられます。
理由がなく講習を受けない運転者は特例取得免許が取り消される仕組みです。
75歳以上の運転者で一定の違反歴のある者(過去3年間に信号無視や大幅なスピード超過など特定の違反歴や事故歴がある)に対して運転免許証更新時に運転技能検査を実施することになります。
技能検査の結果が一定の基準に達しない(検査中に信号無視をしてしまうなど)高齢者は、運転免許証の更新ができません。
なお、運転技能検査の対象とならない高齢運転者には実車指導を実施し、技能を評価して結果を本人に通知する制度も始まります。
また、その他の高齢運転者対策として、申請により、対象車両を自動ブレーキなどが付いた安全運転サポート車に限定するなどの条件がついた「サポカー限定免許」を与える仕組みも創設されます。限定免許の対象となるサポカーには自動ブレーキに加え、ペダル踏み間違い時加速抑制装置等を搭載した車が想定されています。
【関連webサイト】
・危険!「あおり運転」はやめましょう (警察庁webサイト)
・改正道路交通法ポスター・リーフレットページ(警察庁webサイト)
・あおり運転に対する罰則強化 (安全管理法律相談)
・改正道路交通法を施行「自動運転関連」/2020年4月1日施行(最近の法令改正)
・あおり運転の取締りが強化されています(危機管理意識を高めよう)
・あおり運転などの交通トラブルに対する対処は?(安全管理法律相談)
・「ながら運転」の厳罰化を周知していますか(危機管理意識を高めよう)
・危険性帯有者の処分について指導していますか(危機管理意識を高めよう)
・あおり運転で「殺人罪」などの判決(交通事故の判例ファイル)
・「あおり運転の車に賠償請求権なし」とした裁判例(交通事故の判例ファイル)
最近、高速道路で他の車をあおって停止させ事故を誘発したり、運転中スマートフォンを操作して重大事故を誘発するなど、「ドライバー失格」としか言いようのない行為が目立つようになり、取締りや罰則が極めて厳しくなっています。
この冊子では、代表的な危険・迷惑運転を取り上げ、その罰則の重さと運転上の注意ポイントを解説しています。
このたび改訂2版を発行し、2020年6月30日施行の改正道交法に準拠し、あおり運転厳罰化(妨害運転違反の創設等)について収録しました。
巻頭にセルフチェック欄を設けていますので、自分が無意識のうちに危険・迷惑運転をしていないかチェックすることができます。今、事業所にとって運転者教育に最適の小冊子です。