先日、ニュースでタンクローリーが畑に突っ込み横転し、ガソリン等が畑に漏れ出したという記事を読みました。他山の石として、弊社の運転者にも事例を紹介して教育したいのですが、具体的な事故事例や損害賠償金額などを教えていただけますでしょうか?
交通事故が生じた際、貨物自動車等の積載物が原因となって被害が広がることがあります。貨物の積載の方法が不十分であったために、走行中に積載物が転落や飛散をして他の自動車等に損害が生じることは珍しくありません。
また、タンクローリーなどは、食料やセメント等だけではなく、引火しやすいガソリンや高圧ガス、硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸などの危険な劇物を運ぶ場合もあり、そのような自動車の事故の場合には、積載物が流出して被害が広がるような場合もあります。
このような場合、状況によっては損害額は膨大なものとなることもあります。
まず、道路交通法違反75条の10は、貨物の積載について、自動車の運転手には、高速自動車国道等において自動車を運転しようとするときは、あらかじめ、貨物の積載の状態を点検し、必要がある場合においては、積載している物を転落させ、若しくは飛散させることを防止するための措置を講じなければならないと規定しており、罰則も定められています(同法119条)。
また、落下物に後続車がぶつかったり、落下物が原因となってさらに交通事故等が生じたりした場合、積載物を落下させた者は生じた被害について損害賠償責任を負うことになり、それが業務中の会社の従業員であれば、会社も使用者責任や運行供用者責任を負うことになります。
ガソリンや劇物等が積載されている場合でも、きちんと栓や蓋が出来ていなかったなどの単純なミスで、爆発や飛散等の被害が生じることがあります。
また、積載の方法に問題が無くても、タンクローリー等が事故を起こして転倒等した場合には、積載物によって被害が拡大することが考えられます。
このような場合には、拡大した被害について、誰の行為が原因となるかや、どの程度責任を負うかという点が争いになることがあり、過失行為の内容や、過失行為と損害との間にどこまで因果関係が認められるかが問題となります。
法律上、賠償すべき対象となる損害は、事故と因果関係があるものに限られます。ここでいう因果関係はどの程度の関係とすべきかについては、学説上も様々な議論があります。判例等は、事故原因となる過失行為がなければ、損害は発生しなかった、という条件関係があることを前提に、事故によって同損害が発生することが相当であると評価される場合に因果関係を認めています。
また、どのような場合に相当であると評価されるか、という点については、その行為から通常生じると認められる損害、及び特別の事情によって生じた損害であっても、当事者が予見すべきとされる場合には、因果関係が認められることになります。
積載物の落下や飛散による損害賠償が問題となる事例で、裁判となったもののうち、タンクローリーの積載物が問題となった事例には、以下のようなものがあります。
石油製品を積載したタンクローリーが法定速度を超えて走行し、高速道路上で横転し、ガソリンが流出して炎上した事故によって、高速道路の復旧工事等の費用等の損害を被ったとして、高速道路を維持・管理する会社が、事故時の運転手A、その雇用主B、Bに輸送を注文した元請会社C、Cに輸送を注文したDに対して訴えた事例があります(東京地方裁判所平成28年7月14日判決)。
同判決では、A、及びBの損害賠償義務を認め、他方でC、及びDへの請求を棄却しました。
まずAについては、同タンクローリーが極めて大量かつ危険な物を運搬しており、その運転者は事故を起こさないために、道路状況や速度に注意して運転すべき高度の注意義務があったとしました。
しかし、Aはそれを怠り、法定速度を超えて運転して本件事故を引き起こしたとし、注意義務に著しく違反した重大な過失があるとしました。
また、Bについては使用者責任を認めましたが、C、及びDについては、Aとの間に実質的指揮命令関係がないとして責任を認めませんでした。
さらに同判決では、高速道路の本体を含む施設等が代替性がないものであることなどを理由に、本件における損害について、同道路の交換価値相当額だけではなく、復旧工事費用約17億円、営業損失として約15億円や、広報費用等、約32億円の賠償義務を認めています。
タンクローリー車で運搬中の過酸化水素水とタンク内に残留していた塩化銅溶液とが化学反応を起こして爆発し、その爆風により道路の側壁が吹き飛び飲食店を直撃した事例があります。
飲食店が全壊したため、同店経営者は劇物処理を依頼した会社A、Aから処理の依頼を受けた劇物処理業者B、Bの代表取締役C、タンクローリーの運転者Dを訴えました(東京地方裁判所平成15年7月1日判決)。
同判決では、劇物処理業者の責任者Cは過酸化水素水を本件タンクローリー車のタンクに入れて運搬すれば、過酸化水素水と塩化銅溶液が化学反応を起こしてかかる事故が発生することを予見することが十分可能であったとしました。
Cはタンク内に別の物質が残留することがないよう洗浄を徹底させるなど安全を確保すべき注意義務を負っていましたが、洗浄等を一切しなかったとしてB、及びCの責任を認めました。
他方、運転者Dは、危険物に関する詳細な知識はなく、化学反応により爆発するなどということを予見することは不可能であったとして責任を認めず、またAについても、過酸化水素水を引き渡した時点では事故発生について予見可能性がないとして責任を認めませんでした。
なお同判決では、当初の約8,100万円の請求のうち、飲食店の2ヶ月分の事業所得や、解雇した従業員らに対する賃金、慰謝料等が認められ、約680万円の賠償命令が命じられました。
タンクローリー等の積載物は危険物等であることも多く、積載物に応じて重い注意義務が課されます。また、事故が発生した場合には、その賠償額が非常に高額になることもあり、因果関係が認められる範囲も広くなる可能性もあります。
会社としては、事故が起きないよう、安全運転管理を徹底すべきですし、また万一事故が生じた時に備え、保険への加入等をしておくべきです。
(執筆 清水伸賢弁護士)