自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)搭載の義務化とは

2021年11月から発売される新車には、自動ブレーキの搭載が義務化されると聞きました。義務化される自動ブレーキの性能基準と、義務化に至った背景を解説していただけますでしょうか?

■自動ブレーキとは

 いわゆる自動ブレーキ(「Advanced Emergency Braking System」)は、日本語では「衝突被害軽減ブレーキ」や、「先進緊急ブレーキ」などと呼ばれています。

 

 歩行者の飛び出しや、前方不注意などでドライバーがブレーキをかけることが遅れた場合でも、衝突を察知し車が自動的にブレーキを操作し、衝突前に停止、あるいは減速させる機能を持つブレーキ装置です。

 

 日本では、国土交通省が2018年3月に「衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)認定制度」という、自動ブレーキの性能認定制度を創設しました。

 

 自動ブレーキの性能を国土交通省が評価し、一定の性能が認められた車を「AEBS認定車」としてリストにまとめて発表しており、

  1. 静止している前方車両に対して時速50kmで接近した際に、衝突しない、又は衝突時の速度が時速20km以下となること
  2. 時速20kmで走行する前方車両に対して時速50kmで接近した際に、衝突しないこと
  3. 1及び2において、自動ブレーキが作動する少なくとも0.8秒前に、運転者に衝突回避操作を促すための警報が作動すること

という条件で評価しています。

■義務化の背景――国際ルールの成立――

 2019年6月、国連の「自動車基準調和世界フォーラム」において、乗用車等の自動ブレーキの国際ルールが成立し、国連加盟国のうち40カ国が自動ブレーキの搭載義務化に合意しました。

 

 自動車基準調和世界フォーラムで取りまとめられた自動ブレーキに関する国際基準は以下のようなものです。

 

  1. 静止車両、走行車両、歩行者に対して試験を行い、所定の制動要件を満たすこと
  2. エンジン始動のたびに、システムは自動的に起動してスタンバイすること
  3. 緊急制動の0.8秒前(対歩行者の場合、緊急制動開始)までに警報すること

 国土交通省は、AEBS認定制度と国際基準のすり合わせを行いながら、義務化への移行を進めることになり、日本では2021年11月から、国産の新車において自動ブレーキが義務化される方針が発表されています。

■義務化の背景――交通事故被害の防止――

 交通事故は、脇見運転や安全不確認など、ドライバーの不注意による原因が大多数を占めています。また近年では、高齢者の運転ミスによる交通事故も大きな社会問題となっています。そのため、交通事故による被害を減少させることは喫緊の課題であるといえます。

 

 2012年4月に居眠り運転により発生した関越道高速バス事故を受けて、国土交通省は、事故の被害が大きくなりやすいトラックやバスなどの自動ブレーキに関しては、既に義務化の取り組みが進めていますが、今回の義務化は一般の乗用車も対象となりました。

 

 また、高齢化社会が進み、ドライバーの高齢化も問題となっており、高齢者ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違えによる重大事故件数は増加しているといわれています。

 

 高齢者の免許更新制度の改正なども行われていますが、このような事故の増加も、自動ブレーキ義務化の大きな背景となっているといわれています。

■これからの自動ブレーキ義務化の流れと注意点

 自動ブレーキの義務化は、まず2021年11月から国産の新型車が対象となります。

 

 その後、2024年6月から輸入新型車、2025年12月から国産継続生産車(軽トラックは2027年9月から)、輸入継続生産車が2026年6月から予定されています。

 

 今後自動ブレーキの義務化が開始されれば、自動ブレーキを搭載しない新車は販売できないことになり、義務化によって車両価格が高騰する可能性も指摘されています。

 

 今現在乗っている車や中古車に自動ブレーキを搭載することは難しく、順次自動ブレーキ搭載車に乗り換えていくことになりますが、現状の自動ブレーキ義務化は一般の消費者に対するものではなく、あくまでもディーラーが販売する車に対するものですので、今回の義務化により、一般の消費者が自動ブレーキ搭載車に買い替える義務を負うわけではありません。

 

 なお、上記のAEBS認定車の基準等を見ても分かるように、自動ブレーキが搭載されているからといって、交通事故が絶対に防げるものではありません。

 

 自動ブレーキの搭載により、被害が軽減されることは期待出来ますが、過信はするべきではなく、各ドライバーの安全運転が必要であることには変わりありません。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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