最近、整備不良による事故は減少したとはいえ、依然として高速道路上などで、パンク・バーストやホイール・ボルトの欠損によるタイヤ脱落などの事故が発生し、多重事故に結びつく例もあります。
こうした事故の背景には、日常点検のなかで、とくに足回りの点検が重要なポイントであることを運転者が意識していない実態があると考えられます。
日本タイヤ協会の調査でも、走行距離に関わらず月1回以上の空気圧点検が重要であることを知らないという運転者が7割以上いました。男性では6割程度ですが、女性ドライバーの場合は、84%を超えています。
タイヤの空気圧は、車を使用していない状態であっても自然に低下しますので、1か月に最低1回の点検は重要です。とくに重たい荷物を運ぶときや多人数での旅行時は要注意です。
タイヤの残り溝をチェックしない運転者も少なくないので、注意が必要です(下図)。
運転者に、今一度、足回りの点検・整備の重要性について指導しておきましょう。
タイヤメーカーの住友ゴム工業は今年実施したタイヤの点検サービスで、4台に1台の車にタイヤの整備不良が見つかったと公表しています。
同社では、タイヤに起因する事故の未然防止を目的として、タイヤの残溝、空気圧、表面の損傷などの点検を行う「ダンロップ全国タイヤ安全点検」を2008年から継続して行っていますが、今年はさる10月1日から31日にかけて、計2,137台の車両のタイヤを点検しました。
その結果をみると、タイヤの整備不良率は25.0%ありました。
不良別の内訳では残溝不足が19.7%、空気圧の過不足が17.1%、表面の損傷が10.5%、偏摩耗が6.1%、釘・異物踏みが0.8%と続いています(各不良率は重複を含みます)。
残り溝の不足は、雨天時に制動距離が伸びるだけでなく、スリップ事故などに結びつきやすくなります。また、空気圧不足や偏摩耗を放置したまま高速道路走行を続けることで、バースト事故などが発生しやすくなります。
また、日本タイヤ協会が実施したユーザーへのアンケート調査では、これまで運転中に体験したトラブルを聞くと、「バッテリあがり」(39.6%)に次いで多いのが「タイヤのパンク・バースト」で、運転者の27.2%が経験しています(下図)。
走行距離別に見ると、「バッテリあがり」は走行距離が短い方が経験しやすく、「タイヤのパンク・バースト」は走行距離が⾧い方が多くなっています。
直近1年での経験で見ても、「タイヤのパンク・バースト」は「バッテリあがり」に次いで多く、100人に4人(4.1%)の運転者は過去1年以内にタイヤのパンクを経験しています。
また、JAF(日本自動車連盟)「2018年度ロードサービス救援データ」でも、高速道路での出動理由のトップは「タイヤのパンク、バースト、エアー圧不足」(36.97%)で、全体出動の4割近くを占めています。
JAFに救援してもらって事なきを得る人がほとんどではありますが、ときにはパンク修理中にわき見運転などをしている後続車から追突され、死亡する例もありますので、たかがパンクと侮ることは禁物です。普段から車を使用する人もたまにしか乗らない人も、走行距離にかかわらず、車に乗る前の点検が重要です。
※図は日本自動車タイヤ協会「タイヤの空気圧点検に関する実態調査」(2020年2月実施)より
今年の年末は、新型コロナウイルス感染予防対策として、鉄道・バスなど公共交通の利用を避け、車で移動する人が増えると予測されます。
帰省や旅行・出張を自粛する傾向がある一方で、現地出張せざるを得ないサービスエンジニアや本社への報告業務のためリモート先の実家から久しぶりに出社する従業員などが、慣れない車で移動をするケースが考えられます。普段あまり使用していない車で長距離走行をする場合は、必ず日常点検整備を実施し、とくに足回りの点検を徹底するように呼びかけてください。
■消防車のタイヤ、17年間交換せずに破裂
香川県のさぬき市と東かがわ市を管轄する大川広域消防本部が、はしご車のタイヤを17年間にわたって交換せず、走行中に破裂させていたことがわかりました。
けが人は出ませんでしたが、関係者によると「災害現場に出動中なら、より危険で活動に支障が出た」と指摘されています。
同本部の話では、はしご車は2018年11月5日、道路や建物の調査のためサイレンを鳴らさずに走行中、東かがわ市内の道路上で8本あるタイヤのうち1本が破裂し、すぐ横のタイヤも変形してしまいました。
はしご車は1996年に導入し、破裂したタイヤは2001年12月に交換したものの、その後の車検などでは問題がなかったので交換しないまま維持していたということです。
このはしご車は2013年にも、業務外での走行中に別のタイヤを破裂させていました。
走行の機会が少なくても、タイヤのゴムは経年劣化で破損しやすくなります。点検・整備の記録を徹底して、古いタイヤは数年をめどに順次取り替えることが重要です。
■日常点検でチェック
自動車点検規則により、車両総重量8トン以上のトラックと乗員30人以上のバスはボルト・ナットの点検が義務づけられていますが、大型車の車輪脱落事故は依然として年間30件近く発生しています。
定期点検時にはもちろん、日常点検整備においても、ボルト・ナットを目視して損傷やひび割れなどがないか確認し、点検ハンマーで緩み等がないかチェックしましょう。
■3か月点検で締め付けチェック
また、3か月点検では、トルクレンチなどを用いて、ホイールナットを規定のトルクで締め付けます。締めすぎに注意します。
インナー・アウターナットで締め付ける方式の場合は、半数(1個おき)づつ、アウターを緩めてからインナーを締め付け、アウターを締め直すなど、規定の締め付け方法を守って締め直します。
■12か月点検できめ細かくチェック
12か月点検では、ディスクホイールを取り外して、ボルト・ナットに傷や損傷はないか、著しい錆の兆候はないかなど、きめ細かく点検します。
■タイヤ交換時の確認
スタッドレスタイヤへの交換などを実施した後の11月以降の冬期に特に脱落事故が起こりやすいので、ホイールに適合したボルト・ナットを使用すること、タイヤ交換後50~100km走行後に増し締めを行うなどの点を注意しましょう。
また整備管理者は、大型自動車のタイヤ交換の有無と増締めなどをチェックできる交換作業管理表を作成して、車両ごとに確認してください。
なお、国土交通省は毎年冬前には大型車の車輪脱落事故防止キャンペーンを実施して、特に脱落の多い左側後軸(全体の8割強)の点検を念入りに行うように呼びかけています。
※図は国土交通省の資料より/2019年4月~2020年3月に発生した車輪脱落事故の月別件数
■タイヤ脱落事故を実験で再現(国土交通省)
国土交通省では大型車の落輪事故の危険を啓発するため、時速60km/hで走行中のトラックからタイヤが脱輪することを想定した実験映像を撮影し、Youtubeで公開しています。
同省の啓発ビデオ映像ページ → 事故の恐ろしさを知って!大型車の車輪脱落事故
【参考ページ】
・全国のドライバー2,000人に聞く、タイヤの空気圧点検実態調査(一社・日本タイヤ協会)
・事故ゼロを目指して!大型車の車輪脱落事故防止キャンペーンを実施(国土交通省)
・事故の恐ろしさを知って!大型車の車輪脱落事故(国土交通省Youtubeチャンネル)
・整備不良による事故の責任を自覚していますか(危機管理意識を高めよう)
・タイヤの点検を徹底していますか(危機管理意識を高めよう)