バスの事業所で安全管理を担当しているものですが、先日あるバス停の近所の住民から「家の前のバス停はバスが死角をつくって、後続車から歩行者などが見えない」などと苦情が入りました。他にも同様の形態のバス停があるのですが、万が一、バスの死角が原因で事故が発生した場合、弊社はどのような責任を負いますか?
特定の土地上に設置される鉄道の駅とは異なり、バスの停留所(いわゆるバス停)のほとんどは一般の道路上に設置されています。これらのバス停には、バスが横断歩道上に停車したり、横断歩道、あるいは交差点から5m以内に停車したりせざるをえない場所に設置されているものが少なくありません。
報道によれば、このような「危険なバス停」は、国土交通省の実態調査により、36都道府県で7300カ所を超えるとされています。
このようなバス停では、バス停車時には周囲の見通しが悪くなることも多く、実際に死亡事故などの交通事故が生じているところもあり、問題になっています。
道路交通法44条1項では、交差点、横断歩道、並びに交差点の側端又は道路の曲がり角や、横断歩道の前後の側端から5m以内などに駐停車することが禁止されています。
これらの場所は人や車等の交通量も多く、駐停車することで交通の流れや見通しが悪くなる可能性が高く、これを防止するために、同規程が設けられていると解されており、罰則もあります。
しかし同規程には同条2項で例外が定められており、バスがバス停において乗客の乗降のため停車するとき、又は運行時間を調整するため駐車するときは、例外として駐停車できるとされています。
バス停の場所は、バス事業者だけで自由に決めているわけではなく、地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するために有用であり、道路または交通の状況に支障がないかどうかという点などをふまえ、バス事業者、公安委員会、その他都道府県警察や道路管理者などと協議した上で決定されます。
バス停は、主に地域住民の生活の利便のため必要な場所に設置されるため、必ずしも十分な安全性が確保されている場所だけに置かれるものではなく、上記のような「危険なバス停」が存在します。
そのため、上記の道路交通法44条1項では、バス停から10m以内についても駐停車を禁止しています。
また、同法38条は、車両等が横断歩道に接近する場合を定めており、同条1項では横断歩道を通過する際に歩行者等がないことが明らかな場合を除いて直前で停止できるような速度で進行する義務を課しており、歩行者等があるときは、直前で一時停止して、歩行者等の通行を妨げないようにしなければならないともされています。
そして同条2項では、横断歩道やその手前の直前で停止している車両等がある場合に、その車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、出る前に一時停止しなければならないとされています。
加えて同条3項では、横断歩道等から30m以内では優先道路等を除いて追い越しを禁止しています。
すなわち、道路交通法等は、バス停や横断歩道等では一定の危険が生じることを予測し、車両の運転者に十分に安全を確認して走行するべく義務を課しているといえます。
以上からすれば、「危険なバス停」においてバスが停車したことにより見通しが悪くなり、事故が生じたという場合であっても、バスの停車により見通しが悪くなっていることは容易に分かるはずです。まずは各車両の運転者が、状況に合わせて適宜徐行や一時停止を行って安全を確保しなければならないといえます。
そしてこのような場合に、バス事業者に対しバス停の位置等が不適切であるという理由で責任を負わせることは難しいといえます。
このように、バスが停車している場合、他の運転者には十分な安全確認をする義務がありますし、上記のように、バス停はバス事業者だけで自由に設置しているわけではないこともあり、バス停の位置等を理由にバス事業者に責任を負わせることは過度な負担を負わせることにもなります。
ただし近年では、国土交通省による実態調査や、安全上の優先度の判定及びその公開、バス停の移設や安全対策の検討など、「危険なバス停」への対策が行われつつあります。
また裁判例には、バス事業者ではありませんが、道路の見通しが悪くなるような状態の立木が原因で事故が生じた事例において、道路管理者の責任が認められたものもあります。
そのため今後は、バス事業者が「危険なバス停」であることを十分知っており、安全性の確保のために移設等の改善が容易にできるにもかかわらず改善等せず、事故が生じるなどした場合には、バス事業者の責任が認められる場合もありうるかもしれません。
ただいずれにせよ、一般車両の運転者としては、バス停付近での走行、とくに停車したバスの周辺における走行においては、安全に十分配慮するようにする必要があります。
(執筆 清水伸賢弁護士)