依然として、フォークリフトの死傷災害が全国で多発しています。死亡災害は毎年およそ20~30件の間で推移していますが、労働災害件数全体では 2,000件を超えています。
物流企業の倉庫やメーカーの資材置場、工事現場などで、たびたびフォークリフトによる重大事故が発生し、その事故形態として多いのは、
「墜落・転落」
「転倒」
「はさまれ・巻き込まれ」
「激突され」
です。
そして、原因の多くに見られるのがフォークリフトの用途外使用と無資格運転です。
資格のない運転者が不用意な運転操作をしたり、フォークリフトの危険をよく認識しないまま用途外に使用することで死傷災害が多発していることに留意し、指導を徹底しましょう。
※図は、2019年事故型別起因物別労働災害発生状況(12月末累計/厚生労働省)より
★フレコンバッグから作業者墜落
2020年1月、東大阪市にあるプラスチック成形加工業を営んでいる会社で、フォークリフトを主たる用途ではない、フレキシブルコンテナバッグの運搬に使用させていました。
用途外使用の結果、高さ2.22メートルのトラック荷台から積まれたフレコンバッグの上にいた労働者が墜落して死亡しています。
この事故で、2020年9月29日、東大阪労働基準監督署は、事業者を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)などの違反容疑で大阪地検に書類送検しました。
★給油タンクが労働者に激突して死亡
2019年11月、建築設備工事業の会社が、長野県上田市の給湯タンク移設工事現場で倒れた給湯タンクをフォークリフトで牽引中(用途外使用)、タンクが労働者に激突して死亡しました。
この事故に関し2020年5月22日、上田労働基準監督署は、会社と同社取締役を労働安全衛生法第20条などの違反容疑で長野地検上田支部に書類送検しました。
★無資格者が運転し他社運転者が死亡
2020年6月8日、新潟県三条市にある古紙卸売業者の本社工場で、フォークリフトの運転資格を持たない労働者がリフトを運転していたところ、段ボールなどを廃棄するために訪れていた取引先の運転者に激突しました。
取引先運転者はフォークリフトの作業装置と停車中の貨物自動車の荷台側面の間に挟まれて死亡しました。
労働者は前年12月から無資格のままフォークリフトの運転を繰り返していたということです。
この事故に関し2020年5月22日、新潟・三条労働基準監督署は、会社と同社代表取締役及びフォークリフトを運転していた労働者の計1法人2人を、労働安全衛生法第61条(就業制限)違反で新潟地検長岡支部に書類送検しました。
★無資格者の用途外使用で労働者の死亡につながる事故
2017年11月19日、埼玉県八潮市の騒音対策工事現場で、運転資格を持たない工事会社の職長が動かすフォークリフトが労働者に衝突しました。
現場では防音パネル取付けを行っていましたがパネルの不具合が発生し、フォークリフトをパネルのそばに寄せて足場の代わりにしようと発進させました。しかし、運転操作を誤りフォークリフトは急発進し、パネルに当たりそうになり左に急ハンドルを切ったところ、75歳の同社労働者に激突。労働者は左足を粉砕骨折し、左下肢の切断手術を受けた後、予後不良で同年12月死亡しました。
フォークリフトを足場の代わりに使うことは用途外使用に当たり、また、この会社では無資格者によるフォークリフトの運転が常態化していたということです。
埼玉・春日部労働基準監督署は、2018年6月5日、この会社と事故を起こした職長を労働安全衛生法第61条(就業制限)違反でさいたま地検に書類送検しました。
このほか、フォークリフトの用途外・目的外使用として以下のような事例がよくみられます。事業所の作業現場で不安全な行為が常態化していないか、チェックしましょう。
■天井の電球取替え──高所にある電球を取り替えるため、フォークの上にパレットを何枚も積み、その上に乗って作業中の従業員がバランスを崩して転落死
■大型バスの窓掃除──バスの窓を外側から拭くため、運転者がフォークリフトの上の乗って拭き掃除をしていて、他の運転者がリフトを移動させた時に転落死
■重量物の牽引──重さ800キロの木製パレットにワイヤーを巻き、フォークをかけて牽引している途中にフォークリフトが柱に激突、運転者が骨盤を強く打って死亡
■刑事責任だけでなく
民事の損害賠償責任が発生
フォークリフトなどによる労働災害が発生した場合、事業者の責任は大きくわけて、刑事、民事、行政の3つの責任が発生します。
このうち、刑事責任は先の事例のように労働安全衛生法違反の違反として、労働基準監督官の特別司法警察員が捜査し検察に送検されることになります。
また、業務上過失致死などの疑いがある場合は警察が捜査を担当することがあります。
民事責任としては、労働契約法第5条の違反として「安全配慮義務違反」に問われる可能性が発生します。
事業者は労働者が安全に仕事を終えるよう配慮する責任があるのですが、用途外使用などを知っていながら黙認していて災害が発生した場合は、事業者が当然講ずるべき安全配慮の責任を履行していないということですから、死傷した事業所の労働者に対する損害賠償責任が発生します。
行政処分としては、労働基準監督署の調査によって悪質な慣行などが認められた場合は、機械設備(フォークリフト等)の使用停止命令や作業停止命令が発せられることがあります。
フォークリフトの運転資格を取得するために講習を受けさせることはもちろんですが、資格取得後も定期的な事故防止教育を継続し、職場での掲示なども工夫する必要があります。
・朝礼、点呼時では、フォークリフトの事故防止ポイントを話題にする
・職場にフォークリフトの有資格者名を掲示し、リフト資格者の腕章等を与える
・リフト上からの作業者転落事例等のイラストを掲示し、危機感をもたせる
・「パレット上作業禁止」、「フォークリフトの牽引禁止」など、大きなポスターで掲示する
・月1回の安全パトロール時にフォークリフトの使用状況のチェック欄を設ける
【労働安全衛生規則】
第151条の13(搭乗の制限)
フォークリフト等の車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、乗車席以外の箇所に労働者を乗せてはならない。
ただし、墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じたときは、この限りでない。
第151条の14(主たる用途以外の使用の制限)
フォークリフト等の車両系荷役運搬機械の荷の吊り上げ、労働者の昇降等主たる用途以外の用途に使用してはならない。
ただし、労働者に危険を及ぼすおそれのないときはこの限りでない。
関連通達(昭53・2・10 基発第78号/労働省労働基準局長)
『労働者に危険を及ぼすおそれのないときとは、フォークリフト等の転倒のおそれがない場合で、パレット等の周囲に十分な高さの手すり若しくはわく等を設け、かつ、パレット等をフォークに固定すること又は労働者に命綱を使用させること等の措置を講じたとき』
【フォークリフト運転業務従事者の資格要件】
区分 | 特別講習修了者 | 技能講習修了者 | 備考 |
最大荷重1トン未満 | ◯ | ◯ | 公道上は運転できない |
最大荷重1トン以上 | 不可※ | ◯ | 〃 |
※最大荷重1トン以上に関しては必ず技能講習を修了しなければならない。
・ フォークリフトの無資格運転を防いでいますか(危機管理意識を高めよう)
・ 新入社員への構内事故防止指導を徹底(危機管理意識を高めよう)
・ 不安全状態、不安全行動の放置に注意しよう(危機管理意識を高めよう)
「フォークリフトオペレーターのための安全運転読本」は、フォークリフト乗車中に発生した事故事例を6場面取り上げ、それぞれの事故の原因分析、オペレーターが陥りやすい落とし穴を解説しています。
また、危険回避のキーワードとして、オペレーターとして知っておきたい知識をイラストと写真で解説しています。
運転資格修了後にフォークリフト運転従事者となった方への教育に最適です。