最近、集中豪雨や大型台風などが河川の氾濫、土砂崩れ災害に結びついています。今後、事業所の保有する車両にも大きな損害を与える危険性があります。
運行中はもちろん、車庫に止めてある車が被害に遭わないように、対策をとっておく必要があるでしょう。
自社の車が保管されている車庫や契約駐車場などが水害や台風被害を受けやすい場所ではないかを調べておくとともに、気象予報を踏まえた災害時の行動、車両の移動ルールなどを検討しておくことが重要です。
高潮と強風のため、多数の車両災害が発生
2018(平成30年)年9月4日に日本に上陸した台風第21号は、25年ぶりに「非常に強い」勢力をもち、近畿地方を中心に甚大な被害をもたらしました。
台風接近に伴う強風で、国道43号の淀川にかかる橋ではトラックが連続で横転し、南港でも20台以上の車両が横転して大破する被害がありました。
また、大阪で過去最高潮位を記録し、高潮のため大阪港及び神戸港のふ頭から計約70個のコンテナが海上へ流出しました。
このほか、兵庫県西宮市甲子園浜では、中古車のオークション会場に停めてあった約100台の中古車が、高潮による浸水の後にバッテリーショートなどで炎上しました。
新幹線の車両120両が車庫で水没
2019年(令和元年)10月に上陸した台風19号は大型で非常に強い勢力だったために、台風本体の雨雲がかかる前から大量の水蒸気が流れ込み続け、広範囲で記録的大雨となりました。
関東甲信地方、静岡県、新潟県、東北地方では多大な水害にあい、多くの死傷者が出ています。
このため災害地では水没した車両も多くありました。もっとも印象的なニュースの映像は千曲川の決壊により長野新幹線車両センター内に置いてあった北陸新幹線用車両10編成120両が冠水被害を受けたことでした。
報道で強調されたのは新幹線車両の水没ですが、バスやトラックなどの車庫やマイカーの多くが被災し、車両保険の請求額も非常に高くなりました。
2018年と2019年の台風被害による保険金の支払いが引き金になって、自然災害リスクの増大を理由に、2021年度より火災保険等の料率が大幅に引き上げられています。
車の移動場所を検討しておく
台風や豪雨災害などが予想される場合は、市区町村が作成している「ハザードマップ」を活用して、自社の駐車場や車庫の立地場所が危険箇所に該当しないか、事前に確認しておくことが重要です。
●浸水対策は高い位置へ移動
駐車場や車庫が川沿い・海沿いで浸水危険地区である場合や、窪地で遠方の増水でも影響を受けやすい位置にある場合などは、一時的に高い位置に車を移動させる措置が考えられます。
ただし、大型車などを大量に移動するのは容易ではなく、市町村や周囲の住民の安全確保に関する了解が必要です。
日頃から、災害対策を関係者と話し合っておくことが重要です。
また、高い場所では逆に土砂崩れなどの被害が考えられるので、浸水被害だけでなく土砂災害などのハザードマップを見て検討しておきましょう。
●横転対策には室内駐車場を利用
何も遮るもののない駐車場では車が強風で横転し、互いに傷つけ合うことがあります。
最大瞬間風速が秒速40mを超える場合、車両が横転する危険が非常に高まります。
そこで、車高の許す限りで、一時的に屋根や壁のある有料駐車場に避難するという方法が考えられます。
ただし、地下駐車場などは浸水の可能性がありますので、大雨が伴う台風の場合は慎重に考えましょう。
コストはかかりますが、壁のある立体駐車場などを一晩使用すると損害を防ぐことはできます。
●「飛来物」への対策も行う
車庫が高台にあり屋根などを持つ場合でも、強い風の影響を受けやすい地形や広々として遮るものがない土地では、強風で飛ばされてきた看板やベランダの置物など「飛来物」がやってきて車両が損傷を受ける危険性があります。
なるべく、建物の陰など飛来物被害を受けにくい場所に移動するのも一つの方法ですが、古い建物などの壁が台風で剥がれて落下することがありますので、慎重に検討しましょう。
また、自社の駐車場や車庫に置いてある「物」が強風で飛び、他の建物や住宅などに被害を与えることもあります。台風襲来前にゴミ箱を建屋内に片付けたり、洗車道具をロープ・チェーンなどでしっかりと結びつけておく措置が必要です。
乗用車は、ボディカバーを掛けておくことで、ある程度飛来の損害を少なくできると言われています。カバーが飛んでいかないようにしっかり固定することも忘れないようにしましょう。
不幸にして車が冠水してしまった場合は以下の点に注意しましょう。
●豪雨・強風の中で作業しない
なお、駐車場管理担当者や車両担当者が、台風の中で作業することがないように体制を整えておきましょう。
2018年の台風21号被害では、大阪住之江区の広い駐車場において車両が次々と横転し始めた段階で、慌てて自分の車をとりにくる運転者などが複数いて、非常に危険であったことがTVニュースなどで報道されていました。
幸い、ここでは大きな死傷災害には結びつかなかったのですが、台風の影響が出始めた段階で車両を動かすのは危険です。
車が横転するような風速の場合は人間の身体が飛ばされます。また、海水に浸水した車はショートして火災を起こす危険があります。
すでに大雨が降っている、あるいは強風が吹いている最中に駐車場や車庫の様子を確認するのは、安全を確保できる保障がないので許可しないことを徹底しましょう。
「船の安全を確認しに行ってくる」「田んぼを見に行ってくる」と言って台風の被災者になる例が多いことに留意し、従業員の安全を第一として判断してください。
●走行中の水没・横転被害の防止
また、災害発生時に運行中の運転者を救う措置も重要です。走行中の運転者は、災害発生の状況を理解していない場合が多いからです。
東日本大震災発生直後に沿岸にいて車を運転して避難した人のうち、約3割は津波警報を把握していなかったという調査があります(国土交通省調べ)
また、2019年台風19号の際には避難中に車が水没して亡くなった方が多く、台風による死者の約3割が車内で亡くなっています。
このことを踏まえ、管理者は災害発生の警報や避難のための情報を車にいる従業員にいち早く伝達できるように、連絡体制を整えましょう。
速やかに安全な場所に避難を促したり、アンダーパスのある経路や海岸・河岸道路など危険な場所に近づかないことを指示する必要があります。
【災害時の車両対策のポイント】
この記事は以下のサイトを参照にしました。
・「平成30年台風第21号・災害時気象報告」(大阪管区気象台)
・「令和元年台風第19号による被害等」(国土交通省)
・「台風・大雨時のクルマに関する注意点」(JAF=日本自動車連盟WEBサイト)
・異常気象時のトラック輸送措置、目安を公表/国土交通省(運行管理者のための知識)
・「線状降水帯」の発生を知らせる情報運用開始(運行管理者のための知識)
・災害時の「避難勧告」を廃止し「避難指示」に一本化(運行管理者のための知識)
・道路冠水の危険を知らせよう(危機管理意識を高めよう)