弊社は小規模の物流会社です。小規模なので、立場が弱く弊社の窮状を荷主に理解してもらえず、運賃は低いままで会社の経営は苦しさを増すばかりです。
2020年4月に国土交通省から発出された適正運賃表を示しても、相手にしてもらえません。このままでは我社は倒産してしまいます。どうすれば良いのでしょうか?
物流事業、特にトラック運送業は、国内貨物輸送の約4割を担っており、日本経済にとって重要な役割を果たしていますが、低賃金・長時間労働など、その労働環境は厳しいものがあります。
そのため、近年ではトラックドライバーが不足しており、特に若年層が減少し、平均年齢も高齢化しています。
このままでは、国民の生活や経済活動にまで影響を及ぼすことになりかねず、また令和6年度からは、年間960時間の時間外労働の限度時間も設定されるため、事業主にとってはますます経営環境が厳しくなることが予想されます。
そのため、ドライバーの賃金の上昇を前提とした取引条件の改善など、健全な労働環境に改善する必要があり、議員立法により、
を内容とする貨物自動車運送事業法の改正が行われ、平成30年12月14日に公布されました。法改正を受けて国土交通省では、同改正に基づくガイドラインの策定などが行われています。
運送業においては、取引上荷主が強い立場にあることなどから、運送業者が燃料価格の高騰や附帯業務の対価などの問題で、運賃や料金の交渉を行いたくても、以後の取引を断られることをおそれて交渉が行えない状況がありました。
上記の貨物自動車運送事業法改正のうち、特に上記④「標準的な運賃の告示制度の導入」は、この点を改善するための改正といえます。
同改正は具体的には同法附則第1条の3に規定されており、同条1項では、「平成三十六年三月三十一日までの間、国土交通大臣は、事業用自動車の運転者の労働条件を改善するとともに、一般貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、及びその担う貨物流通の機能の維持向上を図るため、一般貨物自動車運送事業の能率的な経営の下における適正な原価及び適正な利潤を基準として、標準的な運賃を定めることができる。」とされ、同条2項において、「国土交通大臣は、前項の規定による標準的な運賃を定めたときは、遅滞なく、これを告示しなければならない。」とされています。
ちなみに同条3項では、「国土交通大臣は、第一項の規定による標準的な運賃の設定については、運輸審議会に諮らなければならない。」とされており、今回の告示は令和2年2月26日付で同審議会に諮られ、同4月14日の答申を踏まえ、同年同月24日に告示されました(詳しい内容は国土交通省のWEBサイト等で見られます)。
運送業者がこれを活用するためには、運賃料金変更届出書と、運賃料金適用方を運輸局長に提出します。
しかし、告示された標準的な運賃は、荷主が同運賃を守らなければ罰則等で強制されるというものではなく、またもちろん運送事業者に強制されるものではありません。
同改正の建前は、荷主と運送事業者が、お互いに必要な費用などについて平等な立場で運賃・料金交渉ができる適正な取引条件に改善するために一体となって取り組んでいくことにあります。
荷主においても、標準的な運賃の告示、及びガイドラインを積極的に活用し、業界全体で適正取引に向けた取組が推進されることが望ましいとされており、強制を伴うものではないのです。
ただし、企業の社会的責任を果たし、必要なコストを負担するためにはこの程度の運賃が妥当であるとして、国土交通大臣が標準的な運賃を告示するという点については一定の意義はあります。
また、運送事業者が請求した運賃や料金を、荷主が不当に据え置くことは下請法、あるいは独占禁止法に違反するおそれがありますが、今後の運用により、同告示による標準的な運賃は、下請法や独占禁止法違反に該当すべき不当なものといえるかどうかの一定の基準になりうることも考えられます。
以上のとおり、現状では標準的な運賃は、荷主を強制するものではありません。
しかし、物流特殊指定の適用対象となる取引を行う場合、特定荷主が、特定物流事業者の運送又は保管の内容と同種又は類似の内容の運送又は保管に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い代金の額を不当に定めたり、不当に減額することは、独占禁止法に違反する場合があります。
また、例えば燃料費が高騰しているのに十分な協議をせず、一方的に荷主が価格を据え置く場合には、優越的地位の濫用として、同様に独占禁止法に違反するおそれがあります。
運送の下請業者に発注する場合も、親事業者が、下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の役務の提供に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めたり、運送を委託するに当たって、発注書面によらず着時間指定や倉庫荷役等の附帯業務を行わせる場合、燃料費の高騰などの事情を無視して十分な協議をすることなく、一方的に従来どおりに単価を据え置く場合には、下請法上問題となることがあります。
さらに、荷主の対応が、他の運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるような場合には、貨物自動車運送事業法上の運賃・料金に対する事業改善命令や荷主勧告の発動要件となるおそれがあります。
もちろん、これらの法律違反等を指摘したり、当局に訴えることは、事実上当該取引自体が成立することが難しくなるという側面を持ちます。
ただ少なくとも、荷主等との交渉においては、これらの法律違反等に該当する場合があることを理解しておいた方がよいと思われます。
(執筆 清水伸賢弁護士)