運転者のストレスに配慮していますか──その1

■ストレスが安全運転に及ぼす影響を重視しましょう

運転中のストレス

 

 運転は、さまざまなストレスにさらされる業務であり、交通事故の誘因となることもありますので、ストレス対処について指導することが重要です。

 とくに、他車の行動にイライラしカッとして軽率な操作をすると、それが「妨害運転(あおり運転)」などに結びつく恐れがあります。

 事業用自動車の運転者の場合は、長時間労働による心身の疲労や顧客サービス面でのストレスも軽視できません。

 

 また、運転業務は管理者の目に見えない場所で行われるため、業務にかかわるパワハラなどに気づきにくい面があり、それが運転者の重荷となってくるケースがあります。

 

 9月は全国労働衛生週間の準備期間であり、従業員のストレスチェックなどを実施する事業所は少なくないと思われます。運転者のストレスに対する配慮に努めましょう。

■他車や自転車などの行動がストレスの大きな原因に

 

 トラック運送事業の大型車ドライバー(41歳~52歳)に対し「運転中に経験する感情ストレス」について調査した研究があります(※)。

 

 その結果、運転中に経験するストレスからの感情について、「立腹・イライラ」が最も多く30.6%、その具体的な理由は割込みなど他車の行動が主な原因になっています。

 次いで多いのは、「事故不安」の29.7%。加齢とともに集中力が落ちていることや、自転車などの危険な行動に不安を感じています。

 

 また、「焦り」も14.4%と少なくない割合で、具体的には「渋滞があると気持ちが焦る」などの感情が明らかになっています。

 

 なお、「不快・悩み」11.7%、「眠気・疲労」8.1%、「神経質」5.4%などの理由は、大きな車が道路で迷惑をかけていることを気にしたり、業務の都合で休憩が取りにくいこと、積荷が損傷することへの不安などが原因になっているストレスです。

 

(※1「ドライバーの感情特性と運転行動への影響」公益財団法人国際交通安全学会/研究調査報告書より)

■ストレス・コーピング(対処法)を身につける

 この国際交通安全学会の研究では、運転中のストレスにうまく対処して、事故などの危険を防ぐことが運転者に求められていて、運転者教育のなかで運転の技術スキル指導だけでなく、感情をコントロールするスキルを向上させる指導が重要だと指摘しています。

 

 そして、ストレスに対処する心理学的な方法論としてストレスの「認知的評価モデル」を取り入れ、自分が受けているストレスをどう客観的に評価するかが重要で、評価しながらそれへの対処法=コーピング=を学習していくことを提案しています。

 

・感情調節型コーピング

  これは「イライラしても損なだけだ」と自分自身に言い聞かせたり、ネガティブ感情から離脱するように考えることで、ストレス感を軽減する心の働きです。

 何秒間か深呼吸をして、その間にネガティブな感情を抑える訓練などをすることもあります。

 こうしたコーピングの具体例として、たとえば以下のようなベテラン運転者の感情調節型の対応事例が挙げられています。

【自車の前に割り込まれて「腹を立てる」という感情に対して】  

  • 自分の前の空間を自分のものと考えているから、侵入されたと感じるのであって、実際には公共の空間であり自分が保有する空間ではない。そのように考えるなら、前に割り込む他車に対して、『どうぞお入り下さい』というようなゆとりある感情を抱くことができる。

・行動的問題解決型コーピング

 

  ネガティブな感情を引き起こしている状況を打開するため、具体的な解決手段を考えて決意し行動に移す対処法です。

 

 たとえば、後方から車間距離を詰める車がある場合は、譲って先に行かせるという選択肢などがこれにあてはまります。

 眠気などへの不安があればいたずら我慢せずに、思い切って寝るなどの行動を起こすことでストレスは解決します。

 

 ただし、運転者がこれらの行動を積極的に取れるようにするためには、管理者が常日頃から「遅れてもいいので、まずは安全な行動を優先してほしい」といった意識づけを徹底しておく必要があります。

 

 会社の支援を受け、次のような対策を紹介している運転者もいます。

【渋滞のときに焦る感情に対して】  

  • 渋滞の時は、動き出すのを待つしかない。会社には渋滞で動かないことを連絡するしか   ない。連絡しあとは会社に任せて、焦りを忘れる。
【眠気や疲労で不安になる感情に対して】  
  • 眠いという状態は睡眠しか解決方法はない。遅れても仕方ないと開き直り、会社には「勇気を持って仮眠します」と連絡をいれて、荷主等に遅れを連絡してもらう。

・問題を回避する対処法

 

 このほか、運転者の対処法としては、運転回避や他車回避といったもの、あるいは気晴らしで回避する方法あります。

 

 たとえば、イライラした感情が生じたら、

「落ち着くには運転しないこと。できるだけ落ち着くまで運転しないようにする」

 

 不愉快な行動をする他車がいたら、

おかしな車がいるときは、近寄らない

 

「今日あった不快な出来事などを仕事の合間に仲間と話をして気分転換する」

「早めに出発して、時間に余裕をもつことで焦りに陥る状況を回避する」

──といった対処法も有効です。

■管理者も運転者のストレスを理解する取組みを

●荷主ストレスが高いトラックドライバー

 

 こうした運転者のストレスを会社や上司が十分に理解し共感を示すことが、運転者のストレス対処にとって重要なのは言うまでもありません。とくに、トラック・バス・タクシーなどの職業ドライバーの場合は、通常の運転場面以外のストレスが非常に大きいことが厚生労働省の委託研究でも明らかになっています。

 

 厚生労働省の委託で、過労死対策の一環として職業運転者の過重労働などの背景を探るために、自動車運転従事者に対しアンケートを実施した調査研究があります(※2)が、これによると、トラック運転者は、肉体的な疲労よりも緊張やストレス・悩みなど精神面での疲労が大きい傾向が見られます。

 その一要因として、荷主都合による待ち時間や予定外の仕事の発生が挙げられます。

 

 ただし、トラックは自分の仕事の順番・やり方を決めることができたり、自分のペースで仕事ができるなど、他の輸送モードよりも仕事の柔軟性が高い面があり、運転者もその面を評価していますので、こうした自主性を尊重することは重要な視点です。

 

●長時間の緊張や乗客疲労度が高いバスドライバー

 運転者の疲労蓄積度(仕事による負担度)について、「非常に高い」と回答した割合は、バス運転者が最も高く13.7%。次いでタクシー運転者5.9%、トラック運転者4.8%でした。

 

 業務で発生したストレスや悩みの内容について、「長時間労働の多さ」を一番に挙げたのはバス運転者の48.0%です。「朝から乗客が下車するまで丸1日気が抜けないことがストレスにつながっている」と厚労省労働基準局は分析しています。

 長時間労働について、タクシーは4番目(22.6%)、トラックは3番目(23.1.0%)に多く挙がっています。また、バスやタクシーでは利用客からの苦情等が多くなっています。

 

●乗客ストレスを上手にコントロールする

 乗客がいることは運転者にとってストレスで、乗客によるストレスが自転車の発見遅れなどのヒヤリ・ハットの増加に繋がるという研究があります。一方で、バスでは空車・回送のときに加害事故が起こりやすいというデータもあり、「ストレスから解放されたときに気が緩み、うっかり事故が起こりやすい」という研究分析があります。

 運転者が乗客から受けるストレスを客観的に評価して、その重圧を感情的に調節する方法を管理者も考えるとともに、気を緩めたときに事故が多いということを指導することが大切です。

 

 これらのストレスを管理者が理解し解決する姿勢を見せることが、運転者との信頼関係の構築に結びつき、個々のストレス対処への道筋をつけることにも繋がります。

●ストレスや悩みの内容/業務関連【職種別──厚労省委託調査】

(※2 平成29年版 過労死等防止対策白書 (第3章 過労死等をめぐる調査・分析結果) 厚生労働省より)

■新規事業などにおけるストレスの解消を図ろう

 

 なお、バス・タクシーなどは対人業務であることから、新型コロナウイルスの感染予防業務が運転者の新たな負担・ストレスとなっていることが予想されます。

 

 理由なくマスクをしない乗客などへの対応に苦慮する例があります。我が国では公共交通機関でマスク着用を義務化していない以上、運転者は感染の不安に陥るでしょうから、感染を防ぐための十分な配慮が必要です。

 たとえば、国土交通省は2020年にタクシー事業者が運送約款を変更して「正当な理由のないマスク非着用客の乗車を拒否できる」ようにすることを認可していますので、約款変更をするタクシー事業者が増えています。

 

 また、乗客数が落ち込み減収が進む中で、新たな対応として貨客混載や新事業への進出を模索するバス・タクシー事業所があります。

 そのため、新規事業に希望とやる気を見出す従業員がいる一方で、運転者の中には新たな業務に負担を感じている人がいるかも知れません。 

 新しい業務が心理的な負担にならないように運転者とのコミュニケーションを深めて理解を求め、互いに協力して早めにストレスに対処することを意識しましょう。 

【運転者のストレス対処に関する管理・指導のポイント】  

  • 運転者が運転中にどのようなストレスを受けているか把握していますか
  • 運転者にストレス事例の話をさせて、客観的に評価する手助けをしていますか
  • 運転者がストレスに対処できるように感情をコントロールする指導をしていますか
  • 運転者の悩みに耳を傾け、相談しやすい雰囲気をつくっていますか
  • 運転者が気分転換したり、モヤモヤを発散できる空間・状況を用意していますか
  • 運転者が業務中に乗客や荷主、取引先などの理不尽な要請で困惑していることがないか把握していますか
  • 運転者仲間の会話などから、今までになかった問題点がないか情報収集していますか
  • コロナ禍でのメンタルヘルスを保つための研修などに努めていますか

■外部サイト、参考ページ

 この記事は以下のサイトを参照にしました。

ドライバーの感情特性と運転行動への影響/研究調査プロジェクト報告資料, 国際交通安全学会

平成29年版過労死等防止対策白書 (第3章 過労死等をめぐる調査・分析結果)/厚生労働省

■当サイト・参考記事

メンタルヘルスの管理に悩んでいます(安全管理法律相談)

日本交通心理学会第79回大会/回送・空車時におけるバス事故の危険性(取材レポート)

■ストレスに対処して事故やトラブルの削減を目指す教育教材

ストレス・コーピング

 生活や業務の中で生じるストレスとの付き合い方がうまくいかないと、イライラしたり身体にも不調が現れ、事故やトラブルの遠因となるなど、日常的に様々な悪影響が出てきます。

 

 その一方で、ストレスにうまく対処し付き合っていくことで、やる気を取り戻し、心身への負担を軽くすることも可能です。

 

 本冊子では、ストレス構造の仕組みを知るとともに、仕事やプライベートで感じやすい6つの代表的なストレス要素について、ストレスにうまく対処し、付き合っていく方法を学ぶことをねらいとしています。(監修:金光義弘川崎医療福祉大学名誉教授)

 

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