弊社の社屋は、歩車道の区別のない狭い道路(ゾーン30)に面しています。このような立地ですと、歩行者や自転車との事故が心配になり、時速30キロ制限よりも速度を抑えた20キロでの走行を義務付けています。万が一、ゾーン30で事故を起こした場合、一般の生活道路に比べて、過失は重くなるのでしょうか?
ゾーン30とは、生活道路における歩行者等の安全な通行を確保することを目的として、特定の区域(ゾーン)を定め、そのゾーンにおける最高速度を時速30キロメートルとする速度規制を実施するとともに、その他の安全対策を必要に応じて組み合わせ、ゾーン内における速度抑制や、ゾーン内を抜け道として通行する行為の抑制等を図る生活道路対策です。
ゾーン内であることは入口に明示され、最高速度時速30キロメートルの速度規制や、車道の中央線を無くして歩道を広げ、車道の幅員を狭めるなどの対策が採られます。
自動車と歩行者の事故では、統計上、自動車の速度が時速30キロメートルを超えている場合に被害者の死亡確率が増加することから、このような速度制限をしたとされています。
またさらに、このような警察による交通規制に加え、そのゾーンの道路管理者により物理的デバイスを設置するなどの速度抑制対策や、進入抑制対策を行い、警察と道路管理者が連携して生活道路における人の安全を図る仕組みがゾーン30プラスとして採り入れられています。
ゾーン30プラスの区域では、例えば路面標示やゾーン30プラスのマークが入った看板を設置したり、歩道に防護柵を設けるなどの対策や、車道に道路上にハンプ(凸状の段差)をつけたり、イメージハンプ(立体に見えるイラスト)を表示したり、狭窄させたり、あるいはクランクやスラロームを作って速度を抑制するなどの対策がなされています。
ゾーン30は、地域住民の要望や、交通量・交通事故の発生状況を基に、通学路を含む生活道路が集まった区域や、高齢者・児童が利用する公共施設、観光施設等多数の歩行者が通行する区域などに設置されています。
令和2年度末で全国で4031カ所設置されており、平成30年度までに設置された区域での交通事故発生件数の統計を調べると、事故発生件数自体が23.9%減ったとのことです。
ゾーン30は、生活道路における危険を防止し、人の安全を図るものですが、「当該ゾーン内において事故が生じれば当然に運転者の過失が大きくなる」というものではありません。
自動車の運転者が各種規制等の交通ルールを守っており、制限速度違反や前方不注視などの過失も全くない場合には責任は問われませんし、過失があったからといって他の区域に比べて当然に過失の程度が重くなるとはいえません。
しかし、過失の有無や程度の判断は、事故当時の具体的な状況をふまえ、種々の要素を検討してなされるものです。
ゾーン30であるから直ちに過失割合が高くなるというわけではありませんが、生活道路が主体であるゾーン30の区域において事故が生じた場合、ゾーン30であることが明示され、さらに物理的デバイス等があるなどの具体的状況が、過失割合の判断において一つの要素として検討されることはありえます。
現状では、ゾーン30であることだけを直接的な理由として過失割合を高くした裁判例は見当たりませんが、当該区域がゾーン30であることを当事者(主に被害者)が主張し、裁判所が判断の前提事実として認めた上で検討している例はあります。
今後さらにゾーン30プラスの区域が増えてきて、さらに一般のドライバーの認知度がさらに上がってくれば、裁判例の傾向も、特に歩行者と自動車との交通事故においては、運転者の過失を重く認定する方向に進むことは十分考えられます。
自動車の運転者としては、ゾーン30の区域であるか否かにかかわらず、安全運転の配慮を怠るべきではありませんが、同区域内においては特に慎重な配慮が求められるといえます。
(執筆 清水伸賢弁護士)