コロナ禍で自転車に乗る人が増え、空前の自転車ブームとなっていますが、その影響もあって依然として自転車との交通事故が多発しています。
デリバリーサービス需要が急進していることから自転車による歩行者事故が増加する危険も指摘されています。
事業所の運転者に対して、もう一度、自転車との交通事故の危険について指導しておきましょう。
また、自転車通勤を利用している人や配達などで自転車を利用する従業員がいる事業所では、自転車の安全運転指導について見直しておきましょう。
コロナ禍で増加する自転車利用
自転車の売上が好調と言われ、高齢者には電動自転車も人気です。
日本マーケティングリサーチ機構が実施した調査によると、新型コロナウイルスが流行する前と後では、移動に電車などの公共交通を利用する人が1割減少した一方で、自転車利用者は5%増え、今後も増加が見込まれるということです。
一方で、自転車乗用中の交通事故被害者が全被害者に占める割合は増加し、死者数だけみても2019年は13.4%だったものが2020年(令和2年)は14.7%と1.3ポイントも増加しました。
自転車事故の要因の一つは、自転車利用者が交通ルールを理解しないで、一時停止や信号を無視をするなど運転者からみて予測外の運転行動をすることが挙げられ、警察庁の統計でも自転車側に8割近くの法令違反があると指摘しています。
一方、四輪車側からすると相対的に小さい自転車の行動を軽視しがちであり、自転車の動静を注視しないでいて自転車の進路変更などを見落としやすい危険があります。夜間は車のようにテールランプを持たないため、前方左側を走行する自転車の発見が遅れがちです。
また、自転車が車の死角に入りやすいことも事故の要因となっています。
自転車との意識のギャップに注意
自転車は車両の仲間であり車道を走行する機会が多いにも関わらず、車両を運転しているという意識が低く、安易な行動をしがちなので運転者は苛立ちを覚えているでしょう。
しかし、自転車専用レーンの整備が遅れている我が国の道路環境の貧困さが、事故多発の要因の一つとなっています。
欧米では旅行者でも快適に自転車利用ができる環境がある一方で、日本ではいざ自転車で移動しようとすると、ルールを守っていても四輪車に接触される危険を感じて不安になる現状があります。
しかも、一度事故に結びつくと乗員は大きなダメージを受けて死亡・重傷事故に結びつきやすいので、運転者としては自転車との意識のギャップを理解し、危険予測に努めることが最も重要です。
自転車が目に見える場合、停止線で停止する、信号を守るといった基本的なルールを遵守してほしいと期待するものです。
しかし、真面目なサイクリストもいるものの、多くの自転車はしっかりと停止しないまま、低速で進みながら確認をして通過しようとする傾向が強くなっています。
しかも、前かがみの乗車姿勢によって視界が狭められている場合があったり、スマートフォンを見ながら走行している場合があり、事故の要因となっています。
こうした自転車の行動の実態を理解して、「自転車は止まらないかも知れない」という前提で危険予測を行い、相手の動きから目を離さないようにしましょう。
また、トラックやバス、ワゴン車など大きな死角をもつ車を運転している場合、死角に隠れている自転車の存在を予測することが重要です。
サイドミラーの死角に自転車が入っていて、すぐ横にいるのに気が付かないで右左折してしまう場合があります。
見通しの悪い交差点では、すぐ手前の路肩を走行し交差点に接近している自転車が見えません。
また、前方のピラーが死角になって右左折時に衝突するケースがあります。
歩行者と比べて自転車の移動スピードは速いので、死角にいた場合は非常に危険であることを意識してください。
相手に過失があっても四輪車側の責任は大きい
なお、対自転車事故で気をつけたいもうひとつのポイントは、生身の自転車利用者の被害が大きくなるため、事故の損害賠償においては四輪車側の責任がより大きく問われるということです。
たとえば、信号のない交差点で一時停止を無視して自転車が飛び出してきて衝突した場合、四輪車の運転者は「もらい事故」にあったという意識を持つでしょう。
しかし、一般的な民事裁判の過失認定割合をみると、四輪車側6割・自転車側4割の過失責任というのが基本となります。
さらに、自転車に乗っていたのが子どもや高齢者の場合1割増えて、車側に7割の過失が認定されるのが通常の判断です。
右折車と直進車の衝突事故の場合でも、自転車が直進で四輪車が右折の場合、直進優先の原則から自転車1割・四輪車9割の過失と認定されます。自転車側が高齢者などの場合は四輪車の責任が1割加算され、四輪車10割とされます。
一方、自転車が右折で四輪車が直進の場合、基本の過失割合は自転車5割・四輪車5割となります。さらに、自転車が子どもや高齢者の場合四輪車側が1割増、四輪車に15キロ以上の速度超過があれば、やはり1割増です。
自転車が強引に右折した場合でも、車側の過失7割といったケースがあり得るのです。
このように、対自転車事故は車同士の事故とは違って、四輪車側がより大きな責任を負うということを繰り返し運転者に指導し、自分自身を守るためにも、自転車の行動には十分な注意を払うように意識づけましょう。
※過失割合は「民事交通訴訟における過失相殺割合の認定基準」(別冊判例タイムズ38)による
ひき逃げは自転車でも重罰を適用
フード・デリバリーサービスなどで自転車の利用がすすんでいますが、経路確認のためスマートフォン画面を見ながら走行する「ながら運転」等により、自動車との事故だけでなく、歩行者と衝突したり自転車同士の衝突事故で死傷者が発生するケースが多発しています。
なかには、相手が負傷したのを無視して走り去る自転車の「ひき逃げ」事故が発生しています。
自転車でも、交通事故で相手が死傷した場合は、重過失致死傷罪に問われ、救護措置をせずに走り去った場合はさらに道路交通法の救護義務違反が適用されます。
罰則は10年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰が適用されます。
妨害運転は3年以下の懲役
また、自転車であっても四輪車の前で急な進路変更をして相手の進路を妨害したり、不必要な急停止などをした場合は、妨害運転(いわゆるあおり運転)が適用される場合があります。
(2020年6月30日に施行された改正道路交通法による)
妨害運転をして、交通の危険が生じるおそれのある行為を行ったと判断された場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金という重罰が科せられます。
妨害目的で意図的にした場合でなければ適用されませんが、気をつけましょう。 自転車の妨害運転違反としては、以下のような違反の類型が挙げられています。
自転車の妨害運転違反
●逆走して進路をふさぐ |
●幅寄せ(安全運転義務違反) |
●危険な進路変更 | ●不必要な急ブレーキ |
●ベルをしつこく鳴らす | ●車間距離の不保持 |
●追越し違反(左側追越し) | ※妨害目的で交通の危険を生じるおそれに限る |
自転車の安全運転指導を実施しよう
最近、一部のデリバリーサービスでは、スタッフに対して自転車・二輪車の安全運転実技指導を開始したという報道がありましたが、まだまだこれからの課題であると思われます。
事業所では、移動手段が自転車ということを軽視しないで安全運転管理を実施する姿勢を示して下さい。自転車でも安全運転を確保するためにはそれなりの訓練が必要であることを明確にして、次のようなポイントを管理・指導しましょう。
【管理者側の注意点】
【自転車利用者の注意点】
この記事は以下のサイトおよび文献を参照にしました。
・自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~ /警察庁webサイト
・令和2年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について /警察庁
・民事交通訴訟における過失相殺割合の認定基準(別冊判例タイムズ38)/判例タイムズ社刊
・信号のない交差点での四輪車と自転車の事故(安全管理法律相談)
・自転車通勤等の安全指導をしていますか(危機管理意識を高めよう)
・自転車事故と自動車損害賠償保障法(安全管理法律相談)
・自転車の加害事故について指導していますか(危機管理意識を高めよう)
「軽く考えていませんか?自転車事故!」は、四輪車対自転車の代表的な事故事例を6つ取り上げています。
事例ごとにドライバー、自転車利用者の双方にどのような過失があったかを考え、どのような不安全行動が事故に結びついたかを理解することができます。
ドライバーの対自転車事故防止教育に最適です。
また、自転車通勤の従業員など自転車利用者教育にも活用できる教材です。