令和4年5月23日(月)~24日(火)の2日間、株式会社フェリーさんふらわあでは、大阪香里自動車教習所から講師を招き、神戸港に停泊している「さんふらわあ」の船内において、フェリーに乗せる大型車両の誘導講習を実施しました。
この講習は、車両誘導員がトレーラなどの大型車の寸法や死角の範囲などを正確に理解していないために事故が発生することが多いので、大型車両の車両特性や運転者の行動特性を理解して、それをどのように誘導に活かすかを目的に行われました。
まず座学として、大阪香里自動車教習所の岸チーフアドバイザーから、過去に起きたバック誘導時の事故状況を踏まえ事故現場はだいたい特定されるので、事故発生場所を把握して、誘導をすることが事故防止につながることを説明しました。
たとえば、階段がある場所などでは高さのある車両の後部が当たることがあり、その前では必ず一旦停止させることが重要であることなどを強調しました。
また、大型車の車両特性を理解する必要性を説明し、トレーラなどはヘッド部分が大きく曲がるので、それまで見えていた誘導員が死角に入って見えなくなることがあり、立ち位置を意識して誘導するように要請しました。
さらに、誘導する最中に危険を感じて車を止めるには、ドライバーさんに伝えて車を止めることになります。そのとき時間的なギャップが生まれますので、スマホアプリの「反応速度計測ツール」を使用して、自分自身の反応時間と人を介した場合の全体の反応時間がどのように変わるかを検証しました。
このツールは、信号の色が3色出て、出た色のボタンを押して反応時間を測るものですが、自分で見て反応する場合は、受講者はだいたい0.6秒前後でした。
次に、信号の色を隠して他人に教えてもらうという方法で、反応時間を検証しました。これは信号の色を受講者に見えないように隠して、他の人がどの色が出ているかを受講者に教えて、反応するというもので、ほとんどの人が1.1秒前後かかっており、自分の目で見て反応する時間の約2倍の時間がかかっていました。
このことから、危険を感じてドライバーに「止まれ」の指示をしても、ドライバーが反応するまでに時間がかかることを実感しました。
その後、実際にフェリー内の車両積載スペースに移り、ドライバー目線に立ってトレーラの死角の大きさやドライバーから誘導員がどのように見えているかなどを検証しました。
交替でトレーラの運転席に座り、前方の死角、左右のサイドミラーの死角がどれくらいあるかなどを検証し、日頃誘導している位置がドライバーからどのように見ているかなど体験しました。
事前に、誘導員の皆さんは死角の大きさを予測していたのですが、実際に検証して見ると、「自分の予測した死角よりもかなり大きく見づらい」ことや「誘導員から見たときとドライバーから見える視野は大きく違うことがわかり、ドライバーの見えていないところを深く見て行こうと思った」などと、予測よりもかなり死角が大きいことがわかりました。
また、トレーラのヘッド部分を曲げたときに死角がどのように変化するかを体験しました。誘導員の皆さんは「ヘッドを曲げるだけで死角が大きく変化することにビックリした」などと驚いた様子でした。
誘導員が車両に止まるように指示をしても、ドライバーはそれを聞いてブレーキを踏むので、実際に止まるまでに距離的ギャップが生じます。
そこで、誘導員が指示をして止まるまでに、どれくらいの距離があるかを検証しました。
ゆっくりとバックして、後方にいる誘導員が笛を吹いたらブレーキを踏んで止まるという設定で、ドライバーが誘導員の笛の音を聞いてブレーキを踏む場合と、他の人が誘導員に指示を出し、その指示を見て笛を吹いてブレーキを踏む場合を比べたところ、前者は35cmで止まりましたが、後者は63cmと約2倍も長くなりました。
つまり、それだけ早く指示を出さなければ、誘導員が思っている位置で車が停止できない、つまり「車は急には止まれない」ことを学ぶことができました。
フェリー内は暗くて視認性が悪いうえに、大型車には運転者から見えない死角が多くあり、その死角は下だけでなく上にもあります。そして、その死角を解消するのは誘導員の役割だという事を強調して講習を無事終了しました。
最後に、講習を実施した(株)フェリーさんふらわあ海務グループの濱口課長から、「下船の際に先を急がれるお客様から早く降ろしていただきたいという要望を賜ることがあります。
要望にはできるだけお答えをしていますが、弊社では同時に今回の講習のように安全な誘導も心がけていますので、その点はご理解をいただきたいと思います。今後ともフェリーさんふらわのご活用をよろしくお願いします」とお話がありました。
取材・編集 山地正訓