軽自動車の危険性について指導していますか?

■大きな車との衝突では、軽自動車側の乗員が大きな被害を受ける

軽自動車の危険性

 最近、軽自動車の売上が順調だと言われます。若者が自動車を移動の手段と割り切って、コストパフォーマンスのよい車を選ぶ傾向が関係しているかも知れません。

 

 若者だけでなく、高齢ドライバーでも軽自動車利用がすすんでいます。さらに企業ではコスト削減の目的から、軽い荷物を積む配達・営業等に軽自動車を導入する会社が増えています。

 

 最近の軽自動車の衝突時安全性能は年々向上していますが、車対車同士の衝突事故で相手が大型車や高級乗用車の場合、コンパティビリティ(後述)が成り立たちにくく、軽自動車側の乗員が大きな被害を受けるケースがあります。

 

 また、最近増えているミニバン型の軽自動車(軽ハイトワゴン)は、重心が高いためちょっとした衝突時にも横転しやすくなっています。

 コスト面のメリットだけでなく、こうした軽自動車の危険な実態を踏まえて、運転者に指導しておくことが重要です。

■コンパティビリティ(*)とは

コンパティビリティの違い

セダン同士は被害が少ない

 

 コンパティビリティ(Compatibility)は「互換性」とか「適合性」「両立性」等と訳されます。パソコンと周辺機器の相性などでよく使用される言葉ですが、車同士などが衝突したときの「安全の両立性」という意味で使われ、衝突安全性を考えるとき重要な概念です。

 

 「コンパティビリティが対応している(成り立っている)」と言う場合は、車同士が衝突しても、片方が派手に壊れて片方がまったく壊れないということはなく、どちらも衝撃吸収的な壊れた方をして相互のダメージが同等になり、加害性が低くて生存空間も互いに残ることを示しています。

 

 実際に普通乗用車(セダン)同士の衝突では、このような両立性を図る構造が採用されているため、排気量が少し違う車と車が衝突してもシートベルトを着用している限り乗員は軽傷ですむケースが多いのです。

 衝撃吸収強度が共通していることと、バンパー高さなどの差が少ないことからも、乗員の受ける被害が少なくなりプラスに働いています(コンパティビリティ対応ボディ)。

 

 一方で、軽自動車や軽量の小型乗用車と大型トラックなどが衝突した場合は、いくら衝撃吸収してもコンパティビリティが成り立つことは期待できません。小さくて軽い方のダメージが大きすぎて、死亡事故などに結びつきやすくなります。

 

 また最近は、高級乗用車の衝突安全性能を高めるために、バンパービームやフレームが強化されています。このため軽自動車がこうした乗用車と衝突したときのコンパティビリティでも不利になっていると指摘する研究があります。

 

 ですから、トラックなど大きな車や重量の重い高級乗用車に乗っている人は、自車が軽自動車などに与えるダメージが一方通行的で破壊的であることを常に意識し、たとえ低速でも衝突は極力避けるための運転に徹する必要があると言えます。                     

 (*「コンパチビリティ」とも言う)

車対車事故 車両重量別の死亡・重傷率

軽い車同士の衝突事故の死亡重傷数が依然として多い

 

 一方で、コンパティビリティが成り立つと考えられる軽い車同士の衝突事故でも、死亡重傷者数が多いというデータがあります。

 

 最近、交通事故総合分析センターが公表した研究結果によると、車対車事故における車両重量別の運転席の死亡重傷者数の割合は、自車が軽い車であるほど(1,300kg未満)、増えていることがわかりました。

 

 2001年~2007年登録車と2008年~2017年登録車で比べた構成割合では、明らかに重い車は最近登録した車の方が割合が低下し、16.7%から13.0%になっています。一方、軽い車は、83.3%から87.0%に増加しています。

 

 また、車両重量別の死亡重傷率では、軽い車(自車)対重い車(相手)の事故で、20.4%と最も率が高い結果を示しています(図の「第2象限」)。しかし、軽い車同士の死亡重傷率も13.9%と非常に高率で、重い車同士より高いことがわかります。

 

 軽い車同士の衝突事故では、胸や腹の受傷が多く見られていて、衝突時のシートベルトの拘束力が影響しているという分析がなされています。

 背景には、軽い車同士の事故では高齢者が関わるケースが多くなっていて、シートベルトの拘束力によって乗員負荷がかかり死亡・重傷につながったというケースが多かったといえます。また、軽自動車と登録乗用車ではバンパー高さに差があり、これを解消することが乗員被害を軽減すると指摘されています。

 

(*車対車の前面衝突事故におけるコンパチビリティ課題の分析/交通事故総合分析センター第23回研究発表会資料=自工会共同研究)

■軽自動車は非常に横転しやすい

横転事故発生状況

 なお、軽自動車の中でも少し車高の高いミニバンタイプの車は横転しやすいと言われ、比較的速度の低い状態でも衝突部位によっては簡単に横転することがあります。

 

 交通事故総合分析センターの調査では、軽自動車はセダンやスポーツカーに比べて自損事故で2倍、車両相互事故では4倍も横転事故の確率が高いとされています(*)。

 

 横転が多い理由の一つは軽自動車の重心の高さですが、運転者の運転技量にも関係があり、慌てて「ブレーキ操作とハンドル操作を同時にしてしまう」など、運転操作のミスが関係する可能性が指摘されています。

 高齢者や若者、運転初心者の利用が多いことが背景にあるようです。

 

 さらに、車が横転したとき人体の衝突部位は予測不可能な面があり、ハイスピードで車が横転してしまうと、シートベルト非着用の同乗者が車外放出され、頭などを強く打って死亡する危険が高まります。

 

 また、シートベルトをきちんと着用していても、横転したとき、たまたま車体の下側になった側に座っていると、路面の凹凸や路側の縁石などが乗員の頭部や上半身を直撃したり、乗員の頭が割れた窓から車外に出て、車体と路面の間に挟まれるケースがあり、思わぬ損害を受ける場合があります(**)。

 

(*イタルダ・インフォメーション№65)

(**新潟県警察本部科学捜査研究所の分析による)

■軽自動車では「自己防衛運転」を強く意識する

横転しやすい軽のミニバン

「軽」に乗っても命を軽くしない

 

 軽自動車に乗る人は、大きな車や重量の重い車、高級乗用車などと衝突した場合、自車のコンパティビリティ対応性が小さいことを認識し、相手から受けるダメージが一方通行的・破壊的であることを常に意識する必要があります。

 原付バイクや自動二輪車などに乗る人は身体が露出しているため、常に危険にさらされている感覚があると思われますが、軽自動車の場合は一応ボディに包まれているという安心感があり、実は非常に危険であるという感覚が希薄になりがちです。

 

 また、ミニバン型軽自動車に乗る場合、交差点などで出会い頭衝突したとき、相手の走行速度がそれほど速くなくても、自車が簡単に横転してしまう危険性が高いことを常に意識することが重要です。 

 軽自動車を利用する運転者に対しては、自らの命を守るためには、以下のような自己を防衛する運転に徹することを指導しましょう。

  • 常に自車の周りの車間距離を意識して走行する
  • 片側二車線の道路では、中央寄り車線に長時間とどまらない
  • カーブでは対向車線の車の動静に注意し、衝突回避を意識する
  • 右折時は、対向車の切れ目を狙うなどリスクの高い右折をしない
  • 高速道路では安易に進路変更、追越しをしない
  • 一時停止交差点では、必ず停止して多段階の安全確認を行う
  • 薄暮時はもちろん、昼間でも薄暗いときは積極的に点灯して自車を目立たせる
  • 大型車の前を走行しているときは、急な減速操作をしない
  • 停止時は生存空間を確保するために前車との車間距離を大きくとって、追突されても前車との間に挟まれないよう意識する

■外部サイト、参考ページ

 この記事は以下のサイトや研究資料を参照しました。

 ・イタルダ・インフォメーション(交通事故総合分析センター)

 ・令和3年第24回交通事故・調査分析研究発表会(交通事故総合分析センター)

 ・軽微な事故で横転する軽ハイトワゴンの危険性(日本交通科学学会誌第17巻第2号)


■当サイト・参考記事

 ・車種に応じた安全指導をしていますか?(危機管理意識を高めよう)

ホーム 運転管理のヒント危機管理意識を高めよう >軽自動車の危険性について指導していますか? 

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