チャイルドシート不使用で傷害を負った事故の責任

先日、知り合いの会社の社員が業務運転中に乗用車に追突し、3歳の男の子が死亡してしまいました。幼児はチャイルドシートを装備していたにもかかわらず、しっかりと着座していなかったとのことです。このような事故の場合、追突した知り合いの会社の社員の責任が重いのは当然ですが、チャイルドシートに子どもを座らせていなかった被害者の責任も見逃せないと思うのですが、いかがでしょうか?

■チャイルドシート規制とは

 いわゆるチャイルドシートについては、道路交通法第71条の3第3項で「幼児を乗車させる際座席ベルトに代わる機能を果たさせるため座席に固定して用いる補助装置であって、道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定に適合し、かつ、幼児の発育の程度に応じた形状を有するもの」と定義されており、道路交通法上は幼児用補助装置という名称です。

 

 同条項は、自動車の運転者は、チャイルドシートを使用しない幼児を乗車させて自動車を運転してはならないと規定しており、幼児を乗車させる際のチャイルドシートの使用は運転者の義務とされています。

 

 なお、同条の第1項、第2項はシートベルトの規制について定められています。

 

 ちなみに、同法上の「幼児」とは、6歳未満の者をいいます(同法14条第3項)。

■チャイルドシートに着座しなくてもよい例外

 なお、同法第71条の3第3項は、上記のようにチャイルドシートの使用を運転者の義務としていますが、同時に但書で、疾病のためチャイルドシートを使用させることが療養上適当でない幼児を乗車させる場合、及びその他政令で定めるやむを得ない理由があるときはこの限りではないとして、例外を認めています。

 

 この場合,後者の政令で例外として義務の免除が定められているのは、以下の通りです。

  • 構造上、チャイルドシートを固定して用いることができない座席に乗車させるとき(その座席以外であれば使用できる場合を除く。)
  • 運転者席以外の座席の数以上の数の者を乗車させるために(乗車人員制限内に限る。)、乗車させる幼児の数に等しい数のチャイルドシートの全てを固定して用いることができない場合
  • 負傷、又は障害のためチャイルドシートを使用させることが療養上又は健康保持上適当でない場合
  • 著しく肥満している、その他の身体の状態により適切にチャイルドシートを使用させることができない場合
  • 運転者以外の者が授乳その他の日常生活上の世話(チャイルドシートに乗せたままではできないものに限る)を行っている幼児を乗せる場合
  • バスやタクシーが旅客である幼児を乗せる場合
  • 市町村の乗り合いバスや介護タクシーなど、国土交通大臣の許可を得て自家用自動車を有償運送する者が同運送のため幼児を乗せる場合
  • 応急の救護のため医療機関等へ緊急に搬送する必要がある幼児を、その搬送のため乗車させるとき(道路交通法施行令第26条の3の2第3項)

 また、チャイルドシートの不使用に対する刑事罰は定められておらず、反則金もありませんが、反則点数は1点となっています。

■過失相殺の判断

 以上のように、チャイルドシート規制は行政的な規制ですが、交通事故が生じた場合の損害賠償請求における過失相殺の判断において、一定の要素となりえます。

 

 チャイルドシートの不使用に関する判例の数はそれほど多くありませんが、不使用を理由に過失相殺を行った事例もあります。

 

 この場合、チャイルドシートを実際に使用するのは幼児ですが、運転者は父母など生活上一体をなす者であることが多く、被害者側の過失として過失相殺がなされています。

 

 ただ判例も、チャイルドシートを使用していなかったからといって、無条件に相殺を認めているわけではありません。

 

 チャイルドシート規制は行政法規であり、直接的に民事上の損害賠償責任を認めるものではなく、あくまでも一事情として検討されていると考えられます。

 

 チャイルドシート規制については、傾向が読み取れるほどの判例数がないため私見になりますが、過失相殺が認められるためには、まず少なくともチャイルドシートを使用しなかったことによって具体的に損害が発生したり、損害が拡大したりという因果関係が認められる必要があると考えられます。

 

 また、上記のチャイルドシート規制の例外事由に当たるような場合については、原則として過失相殺の対象とはならないと考えて良いと思われます。

 

 なお、過失相殺がされる場合の過失割合は、当該事案の事情が検討された上で判断されるものですが、5%から10%程度と考えられ,過失相殺を認めた裁判例も同程度の割合としています。

執筆 清水伸賢弁護士

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